2 ケイリー・ハミルトンの公式

まず、ケイリー・ハミルトンの公式を紹介する。 2 次の正方行列に対しては、次のようになる。

定理 1


$\displaystyle A=\left[\begin{array}{cc}a & b\\ c & d\end{array}\right]$ に対し、
  $\displaystyle
A^2 -(a+d)A + (ad-bc)E = O
$ (1)
が成り立つ ($E$ は単位行列、$O$ はゼロ行列)。
証明

\begin{eqnarray*}A^2-(a+d)A
&=&
A(A-(a+d)E)
= \left[\begin{array}{cc}a&b\\ ...
...cc}-ad+bc & 0\\ 0 & -ad+bc\end{array}\right]
\\ &=&
-(ad-bc)E
\end{eqnarray*}

3 次以上の行列にも同様のことが成り立つことが知られているが、 それを説明するには行列式 (教科書 [1] 第 3 章) が必要となる。 $N$ 次正方行列 $A$ に対して、行列式

  $\displaystyle
f_A(x) = \vert xE-A\vert$ (2)
で定まる $N$ 次多項式を $A$ の固有多項式と呼ぶ。 一般のケイリー・ハミルトンの公式は以下のようになる。

定理 2


$N$ 次正方行列 $A$ に対し、$f_A(A)=O$ が成り立つ。
定理 2 の証明は易しくはない。 なお、多項式
$\displaystyle f(x)
= \sum_{k=0}^m a_k x^k
= a_mx^m + a_{m-1}x^{m-1} + a_1x + a_0
$
に対し、正方行列 $A$ を代入した式、すなわち行列の多項式は、
$\displaystyle f(A)
= \sum_{k=0}^m a_k A^k
= a_mA^m + a_{m-1}A^{m-1} + a_1A + a_0E
$
と定める。$A^j$$A^k$ は可換なので、 多項式に対して $p(x)q(x)=r(x)$ が成り立てば、 行列に対しても $p(A)q(A)=q(A)p(A)=r(A)$ が成り立つ。

$\displaystyle A=\left[\begin{array}{cc}a & b\\ c & d\end{array}\right]$ に対しては、

\begin{eqnarray*}f_A(x)
&=&
\vert xE-A\vert
= \left\vert\begin{array}{rr}x-a...
...nd{array}\right\vert
= (x-a)(x-d)-bc
\\ &=&
x^2-(a+d)x+(ad-bc)\end{eqnarray*}
なので、定理 2$N=2$ の場合が 定理 1 になる。

竹野茂治@新潟工科大学
2023-11-27