3 考察

今、地球の中心を $O$, 半径を $R$ とし、 佐渡島の海岸を $A$, そこから 30 km 離れた本州の海岸を $B$, $B$ から佐渡島の海岸が見える高さ $h$ の地点を $C$ とし、 弧 $AB$ の中心角を $\theta$ とする (図 1 参照)。
図 1: 地球の図
\includegraphics[width=8cm,clip]{earth.eps}
実際には、中心角 $\theta$ は非常に小さいので、 弧 $AB$ はほとんど直線と見てよく、よって弧 $AB$ と弦 $AB$ は違いはない。 よって、今弧 $AB$ の長さが 30 km であるとする。

$C$$A$ が見えるギリギリの高さなので、半径 $OA$$AC$ は垂直となり、 よって、

\begin{displaymath}
\cos\theta = \frac{OA}{OC} = \frac{R}{h+R}
\end{displaymath}

なので、
\begin{displaymath}
h=\frac{R}{\cos\theta}-R = R\left(\frac{1}{\cos\theta}-1\right)\end{displaymath} (1)

となる。一方、弧 $AB$ の長さが 30 km なので、 $\theta$ をラジアンで考えれば、
$\displaystyle R\theta$ $\textstyle =$ $\displaystyle 30 [\mathrm{km}],$ (2)
$\displaystyle 2\pi R$ $\textstyle =$ $\displaystyle 40000 [\mathrm{km}]$ (3)

となり、よって
\begin{displaymath}
\theta=\frac{30}{R}
= \frac{60\pi}{40000}
=\frac{3\pi}{2000}
\approx \frac{9}{2}\times 10^{-3}\end{displaymath} (4)

である。 この最後の $9/2\times 10^{-3}$ は、後で誤差評価で使用するもので、 直接近似値として使うわけではない。

今、 $\theta\approx 0$ なので、$\cos\theta$$\theta=0$ での テイラー展開 (マクローリン展開) を考えれば、

\begin{displaymath}
\cos\theta = 1-\frac{\theta^2}{2!}+\frac{\theta^4}{4!}-\cdots
= 1-\frac{\theta^2}{2}+\frac{\theta^4}{24}+O(\theta^6)
\end{displaymath}

となる。ここで、$O(\theta^6)$ は、その部分が $\theta^6$ と 同じ位の大きさの値であることを意味するものとする。

今、 $x=1-\cos\theta (\approx 0)$ とすると、

\begin{displaymath}
x=\frac{\theta^2}{2}-\frac{\theta^4}{24}+O(\theta^6)
\end{displaymath}

であり、$x\approx 0$ より $1/(1-x)$$x=0$ でのテイラー展開を考えれば、
$\displaystyle {\frac{1}{\cos\theta}-1
= \frac{1}{1-x}-1
= (1+x+x^2+\cdots)-1}$
  $\textstyle =$ $\displaystyle x+x^2+O(x^3)
=
\frac{\theta^2}{2}-\frac{\theta^4}{24}
+\left(\frac{\theta^2}{2}-\frac{\theta^4}{24}+O(\theta^6)\right)^2
+O(\theta^6)+O(x^3)$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{\theta^2}{2}-\frac{\theta^4}{24}+\frac{\theta^4}{4}+O(\theta^6)
=
\frac{\theta^2}{2}+\frac{5}{24}\theta^4+O(\theta^6)$ (5)

となる。(2) より $R=30/\theta$ km なので、 (1), (5) より
\begin{displaymath}
h=R\left(\frac{1}{\cos\theta}-1\right)
=\frac{30}{\theta}\le...
...O(\theta^6)\right)
=15\theta +\frac{25}{4}\theta^3+O(\theta^5)
\end{displaymath}

となる。この、 $(25/4)\theta^3$ は (4) より
\begin{displaymath}
\frac{(25/4)\theta^3}{15\theta} = \frac{5}{12}\theta^2
\appr...
...0^{-6}
=\frac{135}{16}\times 10^{-6}
\approx 0.8\times 10^{-5}
\end{displaymath}

なので、 $(25/4)\theta^3$$15\theta$ に比べてはるかに小さいこと (10 万分の 1 程度) がわかる。 よって、(4) より
\begin{displaymath}
h\approx 15\theta = 15\times \frac{3\pi}{2000} [\mathrm{km}]
= \frac{45}{2}\pi [\mathrm{m}]
\approx 70.7 [\mathrm{m}]
\end{displaymath}

となる。

同様にして、最初から高次の項を無視して考えれば、 一般に $AB$ の距離が $L$ km の場合、

\begin{displaymath}
\theta=\frac{L}{R}=\frac{2\pi L}{40000} = \frac{\pi L}{20000}
\end{displaymath}

より、
\begin{eqnarray*}h
&=&
R\left(\frac{1}{\cos\theta}-1\right)
=
R\left(\frac{1...
...i L^2}{40000} [\mathrm{km}]
=
\frac{\pi L^2}{40} [\mathrm{m}]\end{eqnarray*}


という式が得られることになる。

角田山の高さは 482 m, 弥彦山は 688 m であるから、 いずれもその山腹からなら十分佐渡の海岸が見えることになるが、 シーサイドラインは、最も高いところでも 70 m はないような気がするので、 シーサイドラインからは佐渡の海岸は見えないように思う。

竹野茂治@新潟工科大学
2006年12月25日