4 有理数乗の定義

次は有理数乗の指数法則を考えるが、まずは有理数乗の定義から。 そのために、累乗根をまず考える。

0 以上の実数 $a\geq 0$、および任意の自然数 $n$ に対して、 $x^n=a$ となる 0 以上の実数 $x$$a$$n$ 乗根といい、 $x=\sqrt[n]{a}$ と書く。

このような $x$ が常に、そしてただ一つ存在することは、 関数 $x^n$ の単調性、連続性、 および $0^n=0$, $\displaystyle \lim_{x\rightarrow\infty}x^n=\infty$ で あることから示される。

なお、通常「1 乗根」「2 乗根」なる言葉はあまり使わないが、 それらも $n$ 乗根の中に含めることにする。

$n$ 乗根がただ一つ常に存在することから、次のことが言える。

さて、正の実数 $a>0$、自然数 $m,n$ に対し、有理数乗 $a^{\frac{m}{n}}$

  $\displaystyle
a^{\frac{m}{n}}=\sqrt[n]{a^m}$ (13)
と定義される。 ただし、これが正しく「有理数乗の定義」となるためには、 2 つ示さなければいけないことがある。 この [D1] は、有理数には自然数が含まれるために、 自然数乗と有理数乗のどちらと見るかで異なる値にならないために必要であり、 また [D2] は、有理数の分数表現が一意でないために、 そのどれを採用するかで異なる値にならないために必要である。

なお、前の自然数乗から整数乗への拡張の場合は、0 や負の整数は自然数と 重なることはなかったため、定義自体に関して考える必要はなかった。

まず、[D1] から考えてみる。$\frac{m}{n}=k$ の場合は $m=nk$ より、 [R1] と自然数乗に対する [L3] により、

$\displaystyle \sqrt[n]{a^m}=\sqrt[n]{a^{nk}}=\sqrt[n]{(a^k)^n}=a^k
$
となるので、確かに [D1] が成立する。

[D2] は、 $\frac{m}{n}=\frac{p}{q}$ のときは $mq=pn$ なので、 $z=\sqrt[n]{a^m}$ とすると、[R1] と自然数乗に対する [L3] により、

$\displaystyle z^{nq} = \{(\sqrt[n]{a^m})^n\}^q = (a^m)^q=a^{mq}=a^{pn}
$
となり、[R1] と自然数乗に対する [L3] により、
$\displaystyle \sqrt[n]{z^{nq}}=\sqrt[n]{(z^q)^n}=z^q
=\sqrt[n]{a^{pn}}=\sqrt[n]{(a^p)^n}=a^p
$
となるので、[R2] により $z=\sqrt[q]{a^{p}}$ となり、 よって [D2] が成立する。

自然数 $m,n$、実数 $a>0$ に対する負の有理数乗 $a^{-\frac{m}{n}}$ は、

  $\displaystyle
a^{-\frac{m}{n}}=\frac{1}{a^{\frac{m}{n}}}=\frac{1}{\sqrt[n]{a^m}}$ (14)
と定義する。これも、正の有理数乗の場合の [D1],[D2] と同様の性質を 満たす必要はあるが、 (14) の分母の $a^{\frac{m}{n}}$ が 既に [D1]、[D2] を満たし正しく定義されることが保証されたので、 $-\frac{m}{n}$ も同様の性質を持ち、正しく定義されることになる。

これで、(13), (14) により 正の実数の有理数乗が矛盾なく定義できることがわかった。

なお、整数乗の場合、底 $a$ は 0 以外の実数でよかったが、 有理数乗では正の実数の有理数乗のみを考える。 実は、累乗根自体は、$a<0$ に対しても、$n$ が奇数の場合は

  $\displaystyle
\sqrt[n]{a}=-\sqrt[n]{\vert a\vert}$ (15)
と考えることがある。 これは、右辺の $n$ 乗が確かに $-\vert a\vert=a$ になるからであるが、 これを有理数乗に持ちこもうとすると [D2] が満たされない。 例えば、(15) の元では、
$\displaystyle \sqrt[3]{-1}=-\sqrt[3]{1}=-1
$
となるが、
$\displaystyle \sqrt[6]{(-1)^2}=\sqrt[6]{1}=1
$
となるので、「 $(-1)^{\frac{1}{3}}$」と「「 $(-1)^{\frac{2}{6}}$」が 一致しないことになってしまう。 よって、$a<0$ に対しては、累乗根を考えることはあるが有理数乗は考えない。

竹野茂治@新潟工科大学
2024-06-17