3 整数乗

次は一般の整数乗に対する指数法則を考える。 そのためにまず累乗を 0 以下の整数に拡張する。

0 乗と負の整数乗は、実数 $a\neq 0$ に対して

  $\displaystyle
a^0=1,\hspace{1zw}a^{-n}=\frac{1}{a^n}\hspace{0.5zw}(\mbox{$n$\ は自然数})$ (3)
と定義される。なお、$a=0$ に対しては、$0^0$$0^{-n}$ は定義しない。

これにより、$a\neq 0$ に対してすべての整数乗が定義されたことになるが、 これに対して指数法則 [L1]$\sim$[L5] が成り立つことを示す。 なお一般の整数乗に対する指数法則では次の条件 Z を課す:

条件 Z: $a,b$ は 0 以外の任意の実数、$x,y$ は任意の整数

この条件の元で [L1]$\sim$[L5] を証明するが、$x>0$ かつ $y>0$ であれば、 これらは 2 節の指数法則に含まれるので、 そうでない $x,y$、すなわち少なくとも一方が 0 以下であるものに対して 示せばよい。

まず最初に自然数に対する [L2] が、$x>y$ の制限なしに成り立つこと、 すなわち任意の自然数 $m,n$ と、実数 $a\neq 0$ に対して、

  $\displaystyle
\frac{a^m}{a^n} = a^{m-n}$ (4)
が成り立つことを先に示す。 これは、$m>n$ に対しては 2 節で既に示してあるので、 $m\leq n$ に対して成り立つことを示せばよい。

$m=n$ なら (4) の両辺は、 (3) によりともに 1 になるので成立する。 $m<n$ なら、2 節より、

$\displaystyle \frac{a^n}{a^m} = a^{n-m}
$
となるから、その逆数を考えれば、(3) により、
$\displaystyle \frac{a^m}{a^n} = \frac{1}{a^{n-m}}=a^{-(n-m)}=a^{m-n}
$
となるので、よってすべての $m,n$ で (4) が 成立する。

まず [L1] から考える。 $x=0$ の場合は、(3) より両辺ともに $a^y$ と なるので成立する。$y=0$ の場合も同様に成立する。よってあとは、

(ア) $x<0$ かつ $y>0$ の場合、(イ) $x>0$ かつ $y<0$ の場合、 (ウ) $x<0$ かつ $y<0$ の場合
の 3 通りを考えればよい。なおこの場合分けも今後よく用いる。 また、$x<0$ の場合は $x=-x'$$y<0$ の場合は $y=-y'$ とする。 この書き方も今後よく用いる。

まず (ア) の場合。この場合は、 (3), (4) より

  $\displaystyle
a^xa^y=a^{-x'}a^y=\frac{a^y}{a^{x'}} = a^{y-x'} = a^{y+x}$ (5)
となるので [L1] は成立する。(イ) の場合も同様で、
  $\displaystyle
a^xa^y=a^xa^{-y'}=\frac{a^x}{a^{y'}} = a^{x-y'} = a^{x+y}$ (6)
となり成立する。最後に (ウ) の場合は、(3)、 および自然数乗の [L1] により、
  $\displaystyle
a^xa^y
= a^{-x'}a^{-y'}
= \frac{1}{a^{x'}}\,\frac{1}{a^{y'}}
= \frac{1}{a^{x'}a^{y'}}
= \frac{1}{a^{x'+y'}}
= a^{-(x'+y')}
= a^{x+y}$ (7)
となって成立する。これで [L1] が示された。

また、[L2] は、2 節の (1) の やり方で [L1] から示される。

次は [L3]。 $x=0$ または $y=0$ の場合は、(3) によりそれぞれ

  $\displaystyle
(a^0)^y = 1^y=1, \hspace{1zw}(a^x)^0 = 1$ (8)
となって左辺は 1、右辺も (3) により 1 になるので 成立する。よってあとは、[L1] と同じ (ア)(イ)(ウ) の場合に示せばよい。

まず、(ア) の場合は、(3)、 および自然数乗に対する [L5],[L3] より、

  $\displaystyle
(a^x)^y = (a^{-x'})^y
= \left(\frac{1}{a^{x'}}\right)^y
= \frac{1^y}{(a^{x'})^y}
= \frac{1}{a^{x'y}}
= a^{-x'y} = a^{xy}$ (9)
となって成立する。(イ) の場合は、(3)、 および自然数乗に対する [L3] より、
  $\displaystyle
(a^x)^y = (a^x)^{-y'}
= \frac{1}{(a^x)^{y'}}
= \frac{1}{a^{xy'}}
= a^{-xy'} = a^{xy}$ (10)
となり成立する。最後に (ウ) の場合は、(3)、 および自然数乗に対する [L5],[L3] より、
  $\displaystyle
(a^x)^y = (a^{-x'})^{-y'}
= \left(\frac{1}{a^{x'}}\right)^{-y'...
...{1}{\displaystyle \frac{1^{y'}}{(a^{x'})^{y'}}}
= \frac{a^{x'y'}}{1}
= a^{xy}$ (11)
となって成立する。これで [L3] が示されたことになる。

次は [L4]。 $x\leq 0$ に対して示せばよいが、$x=0$ のときは、 (3) より両辺ともに 1 となって成立する。 $x<0$ の場合は、(3)、 および自然数乗に対する [L4] より、

  $\displaystyle
a^xb^x=a^{-x'}b^{-x'}
=\frac{1}{a^{x'}}\,\frac{1}{b^{x'}}
=\frac{1}{a^{x'}b^{x'}}
=\frac{1}{(ab)^{x'}}
=(ab)^{-x'}
=(ab)^x$ (12)
となって成立する。

[L5] は、2 節の (2) の論法により [L4] から得られる。

これで、一般の整数乗の指数法則 [L1]$\sim$[L5] が すべて成立することが示された。

竹野茂治@新潟工科大学
2024-06-17