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3 0 への収束

2 節にも述べたように、 高校などの説明によれば、$a_n$ が 0 に収束する、とは
$n$ が大きくなるとき、$a_n$ が限りなく 0 に近づく
ことを意味する。この「限りなく 0 に近づく」とは、どういうことだろうか。

これは、0 に近づく度合いに限りがない、つまりいくらでも 0 に近づく、 ということを意味しているのであるが、これをいくつかの例で考えてみる。

数列

\begin{displaymath}
\frac{1}{2},\frac{1}{3},\frac{1}{4},\ldots,\frac{1}{n},\ldots
\end{displaymath}

は 0 に収束する代表的な数列であるが、 これは果たして「限りなく」0 に近づいているだろうか。 確かに $n$ が大きくなると $1/n$ は小さくはなっているが、 いくらでも 0 に近づいているのだろうか。

例えば、0.1 ($=1/10$) よりも近くなるか、 と言えば、それは $n>10$ ならば確かに $1/n<0.1$ なので、 $n>10$ のときはそうだと言えるだろう。

0.001 ($=1/1000$) よりも近くなるか、と言えば、 それは $n>1000$ ならば $1/n<0.001$ なのでそうだと言えるし、 0.00001 ($=1/100000$) よりも近くなるか、と言えば、 それは $n>100000$ ならば $1/n<0.00001$ なのでそうだと言えるだろう。

ここに、「$n>100000$ ならば」のような条件がついているが、 極限の説明には「$n$ が大きくなると」と書かれているので、 こういう条件がつくことには問題はない。 つまり、「限りなくいくらでも 0 に近くできる」というのは、 「それに必要なくらい $n$ を大きくしていけば」という条件の下で、 ということを意味しているのだとわかる。

よって、0.1 に対して、「$n>A$ ならば $-0.1<a_n<0.1$」 となるような $A$ を取ることができ、 0.001 に対して、「$n>B$ ならば $-0.001<a_n<0.001$」 となるような $B$ を取ることができ、 0.00001 に対して、「$n>C$ ならば $-0.00001<a_n<0.00001$」 となるような $C$ を取ることができ、 といったことが、どんな小さな数に対してもいつでもできるようならば、 「$a_n$ は 0 に収束する」と言う、というのが自然な定義であるように思える。

これをもう少し明確に述べたのが、次の定義 1 である。


定義 1


\begin{displaymath}
\lim_{n\rightarrow\infty} a_n = 0
\end{displaymath}

とは、どんな正の数 $\varepsilon$ ($>0$) を取っても、
$n>N$ ならば $-\varepsilon<a_n<\varepsilon$
となるような $N$ を取ることができることを意味する。


$a_n$$\alpha$ に収束する」という場合は、その差 $c_n=a_n-\alpha$ が 0 に収束すればよく、よって、$n>N$ ならば

\begin{displaymath}
-\varepsilon<a_n-\alpha<\varepsilon
\end{displaymath}

となればよい。これは、

\begin{displaymath}
\vert a_n-\alpha\vert<\varepsilon
\end{displaymath}

と同じであるので、よって次のような定義となる。


定義 2


\begin{displaymath}
\lim_{n\rightarrow\infty}a_n=\alpha\end{displaymath}

とは、どんな正の数 $\varepsilon$ ($>0$) を取っても、
$n>N$ ならば $\vert a_n-\alpha\vert<\varepsilon$
となるような $N$ を取ることができることを意味する。



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竹野茂治@新潟工科大学
2006年3月31日