二項定理の証明方法はいくつかあるが、 まずは数学的帰納法によるものを紹介する。 そのために、一つ良く知られている補題を紹介する。
に対して、
が成り立つ。ただし、 または では とする。
証明
まず、 の定義は、, に対しては
である。ただし とする。 に対しては、 とも表される。 (6) より、 であること、 および となることは容易にわかる。, に対しては、 (5) の項はすべて 0 となるので成立する。
, のときは、(5) は両辺とも 1 と なって成立する。
よってあとは のときに示せばよい。このとき、
(3) に戻る。 数学的帰納法で証明するが、数学的帰納法とは、 命題 がすべての自然数 に対して成り立つことを 示すための証明方法で、
この 2 つが示されれば、[1] と の [2] から が 成り立つことになり、 そして と の [2] から が成り立ち、 と の [2] から が成り立つ、 といった具合ですべての自然数 に対して が 成り立つことになる、という証明方法。
まずは [1] から。(3) は のときは、
次は、[2]。(3) が のときに成り立つとすると、
であり、この両辺に をかけると、これで [1],[2] により、(3) が すべての自然数 に対して成立することが証明された。
なお、(9) の展開では、シグマ記号から離れて 展開を計算したが、シグマ記号のままで計算すると、
なお、高校では現在、二項定理は数学 II (式と証明)、 数学的帰納法は数学 B (数列) で取り扱われているため、 二項定理の証明、説明は帰納法では行われてはおらず、 展開と組み合わせの考え方で示すことが多い。
二項定理を展開と組み合わせで説明すると、
他にも、(3) は のマクローリン展開と 見ることもできるので、微分を利用したマクローリン展開やテイラー展開 による証明もありそうだが、 そのためには や の導関数が必要であり、 しかし の導関数の公式は通常は二項定理を用いて導かれるので、 それでは証明にならない恐れがある (循環論法)。
また、 に限れば、確率を利用する証明もある。 1 回引くと当たりの確率が () であるくじを 独立に 回繰り返して引いたときに、そのうちの 個 () が当たる確率は
竹野茂治@新潟工科大学