2 テント写像の場合

まずは、テント写像と呼ばれる次の $\eta=\phi_0(u)$ について考える。
  $\displaystyle
\phi_0(u)=1-\vert 2u-1\vert=
\left\{\begin{array}{ll}
2u & \di...
...h]
2(1-u) & \displaystyle \left(\frac{1}{2}<u\leq 1\right)
\end{array}\right.$ (3)
図 1: $\phi _1(u)$$\phi _0(u)$
\begin{figure}\begin{center}\scriptsize
\setlength{\unitlength}{0.12mm}
\begin...
...\put(600,-425){$1$}
\put(640,-375){$u$}
\end{picture}
\end{center}\end{figure}

なお、この関数と本稿で紹介する性質については、 離散力学系分野では良く知られた話のようで、 本稿で紹介する話の多くが、例えば [3] に書かれている。

補題 2.1

なお、 $\mbox{\boldmath$R$}\supset A\supset B$ に対して $B$$A$ で稠密であるとは、 任意の $u\in A\setminus B$ に対し、 $\{u_n\}_n\subset B$ $u_n\rightarrow u$ となる部分列が存在することを意味する。

今、$u\in[0,1]$ に対し、その 2 進展開

$\displaystyle u=\sum_{n=1}^\infty\frac{a_n}{2^n}
=\frac{a_1}{2}+\frac{a_2}{2^2}+\cdots
\hspace{1zw}(a_n=0 \mbox{ or } 1)
$
を、
  $\displaystyle
u = (a_1,a_2,\ldots)_2$ (4)
と書くことにする。 なお、この 2 進展開は一意的ではなく、 あるところから先が全部 1 の場合は、それを繰り上がりして その先を全部 0 に換えたものと等しい:
$\displaystyle (a_1,a_2,\ldots,a_k,0,1,1,1,\dots)_2
= (a_1,a_2,\ldots,a_k,1,0,0,0,\dots)_2
= (a_1,a_2,\ldots,a_k,1)_2
$
また、この最後の記号のように、あるところから先がすべて 0 の場合は、 その部分を省略した形で書くことにする。 さらに 0 か 1 の $a_n$ に対して $\overline{a_n}=1-a_n$ と書くことにする。

$a_1=0$ ならば $u=(0,a_2,a_3,\ldots)_2\leq 1/2$ より、

$\displaystyle \phi_0(u) = 2u = (a_2,a_3,\ldots)_2
$
で、$a_1=1$ ならば、 $u=(1,a_2,a_3,\ldots)_2\geq 1/2$ より、
\begin{eqnarray*}\phi_0(u)
&=&
2(1-u)
\ =\
2\{(1,1,1,\ldots)_2-(1,a_2,a_...
...{a_3},\ldots)_2
\\ &=&
(\overline{a_2},\overline{a_3},\ldots)_2\end{eqnarray*}
なので、
  $\displaystyle
\phi_0((a_1,a_2,\ldots)_2) = \left\{\begin{array}{ll}
(a_2,a_3,...
...rline{a_2},\overline{a_3},\ldots)_2 & (\mbox{$a_1=1$\ のとき})
\end{array}\right.$ (5)
となる。よって、これを繰り返せば、任意の自然数 $k$ に対して
  $\displaystyle
\phi_0^k((a_1,a_2,\ldots)_2) = \left\{\begin{array}{ll}
(a_{k+1...
..._{k+2}},\ldots)_2
& (\mbox{$a_1,\ldots,a_k$\ のうち 1 が奇数個})
\end{array}\right.$ (6)
となる。よって、 となることがわかる。そして、 $\{\phi_0^n(u)\}_n$ が稠密となる $u_0$ も 以下のようにして実際に構成できる。

稠密性に対しては、$n\geq 1$, $0\leq m<2^{n}$ となるすべての 整数 $n,m$ に対し、

  $\displaystyle
\frac{m}{2^n}\leq\phi_0^k(u_0)\leq \frac{m+1}{2^n}$ (7)
となる $k=k(n,m)$ が取れることを示せばよいが、この $m/2^n$ を、順に
  $\displaystyle
\left.\frac{0}{2},\frac{1}{2}\right\vert
\left.\frac{0}{2^2},\f...
...rac{0}{2^3},\frac{1}{2^3},\ldots,\frac{7}{2^2}\right\vert
\frac{0}{2^4},\ldots$ (8)
のように並べる。これらは 2 進展開で表すと、
  $\displaystyle
\left.(0)_2,(1)_2\right\vert
\left.(0,0)_2,(0,1)_2,(1,0)_2,(1,1)_2\right\vert
\left.(0,0,0)_2,(0,0,1)_2,\ldots,(1,1,1)_2\right\vert\ldots$ (9)
等となる。$\phi_0^k(u_0)$ の最初の位が順にこれらになるようにすれば、 (7) を満たすので、そのように $u_0$ を作成する。 すなわち、最初の桁を 0 とし、それ以降は (9) の並びに、 そこまでの 1 が偶数個になるように調整用の 1 を挟んだものを $u_0$ とすればよい:
  $\displaystyle
u_0 = (0,\underline{0},\underline{1},1,\vert\underline{0,0},\und...
...line{0,0,0},\underline{0,0,1},1,\underline{0,1,0},1,\underline{0,1,1},\ldots)_2$ (10)
下線のついた部分が (9) の並び、 下線がついていないのが調整用の 1 で、この $u_0$ を使えば、 反転が随時解消され、シフトによって、下線を引いたところ以下の列が $\phi_0^k(u_0)$ の値として現れることになる。 そして
$\displaystyle \begin{array}{l}
(0)_2<\phi_0^1(u_0)<(1)_2<\phi_0^2(u_0)<1,\\
...
...u_0)
<(1,0)_2<\phi_0^9(u_0)<(1,1)_2<\phi_0^{12}(u_0)<1,\\
\ldots
\end{array}$
が成り立つ。 これにより $\{\phi_0^n(u_0)\}_n$$[0,1]$ で稠密となる。

さらに、同じようにして、任意の $k>1$ に対して、 $\{\phi_0^{kn}(u_1)\}_n$$[0,1]$ で稠密となるように $u_1$ を 構成することもできる。 それには、(10) の下線部の先頭が出る場所が $k$ の倍数 $+1$ になるように随時 0 を挟んで調整すればいい。 例えば $k=3$ であれば、

\begin{eqnarray*}u_1
&=&
(0,0,0,\underline{0},0,0,\underline{1},1,0,\vert\und...
...,
\vert\underline{0,0,0,0},0,0,\underline{0,0,0,1},1,0,\ldots)_2\end{eqnarray*}
のように並べていけばよい。

すなわち、$\phi _0(u)$ と連続関数 $G(u)$、ある自然数 $k$ に対して、

  $\displaystyle
G(\phi_0^k(u))=G(u)\hspace{1zw}(0\leq u\leq 1)$ (11)
が成り立つ場合、上の $u_1$ に対して、
$\displaystyle G(u_1)=G(\phi_0^k(u_1))=G(\phi_0^{kn}(u_1))
$
となり、 $\{\phi_0^{kn}(u_1)\}_n$$[0,1]$ で稠密なので、 $G$ の連続性により $G$$[0,1]$ 上で $G(u_1)$ に等しい 定数関数となり、 よって (11) を満たす関数 $G$ は定数以外ない ことがわかる。

なお、本節の $u_0$ の構成については、[3] にも 紹介されている。

竹野茂治@新潟工科大学
2024-03-25