3.5 $Q$ の評価: [A-1] の場合

(7.56') も (7.55') と同様に場合分けして考える。 まずは、[A-1] の場合を考えるが、 [1] の p136 にはこの場合の説明のみが書かれているので、 それに沿って説明する。

$Q(\tau+)$$Q(\tau-)$$\sigma_k$, $\sigma'_i$, $\sigma''_j$ が 含まれない項は当然共通しているため、その差では消えてしまうので、 残るのは、

  $\displaystyle
Q(\tau +)-Q(\tau -)
= \sum_{k}\vert\sigma_k\vert Sw(\sigma_k) ...
...igma'_i)
- \vert\sigma''_j\vert Sw(\sigma''_j) + \vert\sigma'_i\sigma''_j\vert$ (3)
となる。ここで、最後の項の符号が正なのは、 その前の 2 つの項の両者に最後の項が含まれているからである ( $Aw(\sigma'_i)\ni \sigma''_j$, $Aw(\sigma''_j)\ni \sigma'_i$)。

まず、(3) を $\bar{\sigma}_k$ で書き直すと、 違いは膨張波とその分解 front の部分だけであり、 3.4 節で述べたように 膨張波の分解 front に対しては $Sw$ は共通なので、

  $\displaystyle
Q(\tau +)-Q(\tau -)
= \sum_{k=1}^n\vert\bar{\sigma}_k\vert Sw(...
...igma'_i)
- \vert\sigma''_j\vert Sw(\sigma''_j) + \vert\sigma'_i\sigma''_j\vert$ (4)
となる。

また、後 (3.10 節) で出てくるが、 解の存在定理では $V(t)$ が十分小さい場合のみ 考えていて、よって各 front の大きさも十分小さく、 例えば Lemma 7.2 (i) の $O(1)$ の部分も、定理で必要な評価ではすべて

  $\displaystyle
O(1)\times \vert\sigma'_i\vert<1,
\hspace{1zw}
O(1)\times \vert\sigma'_j\vert<1$ (5)
であると仮定してよい。 そうすれば、Lemma 7.2 (i) より

$\displaystyle \vert\bar{\sigma}_i-\sigma'_i\vert<\vert\sigma'_i\vert,
\hspace{1zw}
\vert\bar{\sigma}_j-\sigma''_j\vert<\vert\sigma''_j\vert
$

となるので、 $\bar{\sigma}_i$$\sigma'_i$, および $\bar{\sigma}_j$$\sigma''_j$ はそれぞれ同符号となり、 真性非線形の特性族では 衝撃 front かそうでないかが一致することになる。 よって、

$\displaystyle Aw(\bar{\sigma}_i; \tau +) = Aw(\sigma'_i; \tau -)\setminus\{\sig...
...1zw}
Aw(\bar{\sigma}_j; \tau +) = Aw(\sigma''_j; \tau -)\setminus\{\sigma'_i\}
$

となり、

$\displaystyle Sw(\bar{\sigma}_i; \tau +) = Sw(\sigma'_i; \tau -) - \vert\sigma'...
...1zw}
Sw(\bar{\sigma}_j; \tau +) = Sw(\sigma''_j; \tau -) - \vert\sigma'_i\vert
$

となるから、(4) は、

\begin{eqnarray*}\lefteqn{Q(\tau +)-Q(\tau -) }
\ &=&
\sum_{k=1}^n\vert\bar{\...
...igma}_i)
+\vert\bar{\sigma}_j-\sigma''_j\vert Sw(\bar{\sigma}_j)\end{eqnarray*}

となるが、 $Aw(\bar{\sigma}_k)=Aw(\bar{\sigma}_k;\tau +)$ ($1\leq k\leq n$) は、 $\bar{\sigma}_1\sim\bar{\sigma}_n$ を含まず、 よって $t=\tau-$ の front 全体に含まれてしまうので、

$\displaystyle Sw(\bar{\sigma}_k) \leq V(\tau -)\hspace{1zw}(1\leq k\leq n)
$

となる。よって Lemma 7.2 (i) より

\begin{eqnarray*}Q(\tau +)-Q(\tau -)
&\leq&
- \vert\sigma'_i\sigma''_j\vert
...
...igma'_i\sigma''_j\vert + C\vert\sigma'_i\sigma''_j\vert V(\tau -)\end{eqnarray*}

となって (7.56') が成り立つことがわかる。

竹野茂治@新潟工科大学
2020-06-03