3.10 帰納法による有界変動評価

最後に、$u$ の帰納法による有界変動評価 (7.60) (p138) を示す。 [1] にはごくあっさりと書いてあるが、 ここではもう少し詳しく説明する。

まず、各衝突時刻 $t=\tau$ で以下が成り立つことは既に示された。

$\displaystyle V(\tau+)$ $\textstyle \leq$ $\displaystyle V(\tau-)+M_1\vert\sigma'\sigma''\vert$ (6)
$\displaystyle Q(\tau+)$ $\textstyle \leq$ $\displaystyle Q(\tau-)-\vert\sigma'\sigma''\vert+M_1\vert\sigma'\sigma''\vert V(\tau-)$ (7)

ここで、$M_1$ は正の定数で、 考えている $u$ が含まれる領域に依存する。 すなわち、時刻が進むに応じて $u$ が含まれる領域が広がってしまえば、 これらの定数も大きく取らないといけなくなり、 共通の定数とは取れなくなってしまう可能性があるので、 本来は $u$ の a priori 評価が得られて ようやく決定する定数であることに注意しなければいけない。

ここではそれを帰納法で行うわけであるが、 既知の $M_1$ が取れるのは本来は 初期値 (を階段関数で近似した $u(0+,x)$) に対してのみである。

また、ある定数 $C_1\geq 1$ に対して次が成り立つ (p138 (7.59))。

  $\displaystyle
\frac{1}{C_1}\mathop{\rm TV}u(t,\cdot)\leq V(t)\leq C_1\mathop{\rm TV}u(t,\cdot)$ (8)
これは、各波の大きさ $\vert\sigma\vert$ と、その両側の段差 $\vert[u]\vert$ に 同様の不等式が成り立つことからくるもので、 よってこの $C_1$$M_1$ 同様 $u$ が 含まれる領域に依存する定数である。

まず最初の目標は、

  $\displaystyle
\Upsilon(t)=V(t)+C_0Q(t)$ (9)
$t$ に関して非増加となるような定数 $C_0$ を見つけることである。

今、全 front の衝突時刻を小さい方から

$\displaystyle 0<\tau_1<\tau_2<\tau_3<\cdots
$

とする。p137 の (7.57) が成り立つように、
  $\displaystyle
M_1V(\tau-)\leq \frac{1}{2}$ (10)
としたいので、 $0<\delta_2<\delta_1$ ($\delta_1$ は 7.3 節 の 1. (p133)) を、まず
  $\displaystyle
\delta_2\leq \frac{1}{2M_1}$ (11)
となるように取る。そして $C_0$
  $\displaystyle
2M_1\leq C_0$ (12)
となるように取り、
  $\displaystyle
C_1(C_1\delta_3+C_0(C_1\delta_3)^2)\leq \delta_2$ (13)
を満たすような $\delta_3>0$ を取る。なお、$C_1\geq 1$ より、
  $\displaystyle
\delta_2\geq C_1^2\delta_3\geq C_1\delta_3$ (14)
であることに注意する。 (13) を満たす $\delta_3$ としては、例えば
  $\displaystyle
\delta_3 = \min\left\{1,\frac{\delta_2}{C_1^2(1+C_0C_1)}\right\}$ (15)
とでもすればよい。それは、(15) であれば、 $\delta_3\leq 1$ より

\begin{eqnarray*}\delta_2
&\geq& C_1^2(1+C_0C_1)\delta_3
 = C_1^2\delta_3+C_...
...3+C_0C_1^3\delta_3^2
\ &=&
C_1(C_1\delta_3+C_0(C_1\delta_3)^2)\end{eqnarray*}

となるからである。

まず、$u$ の初期全変動を小さくして、

  $\displaystyle
\mathop{\rm TV}u(0+,\cdot) \leq \delta_3$ (16)
であるとする。 なお、[1] では $u(0+,x)$ のことを $u(0,x)$ と書いている (p127 (7.17))。 初期値の変動が $\delta_3$ 未満であると仮定すれば、 (7.17) より (16) が成り立つようにできる。

このとき、(8) と (14) より、

  $\displaystyle
V(0+)\leq C_1\mathop{\rm TV}u(0+,\cdot)\leq C_1\delta_3\leq \delta_2$ (17)
となるので、(6), (7) より、
$\displaystyle {\Upsilon(\tau_1+)
 =\
V(\tau_1+)+C_0Q(\tau_1+)}$
  $\textstyle \leq$ $\displaystyle V(\tau_1-)+M_1\vert\sigma'_1\sigma''_1\vert
+C_0(Q(\tau_1-)-\vert\sigma'_1\sigma''_1\vert+M_1\vert\sigma'_1\sigma''_1\vert V(\tau_1-))$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \Upsilon(\tau_1-)+\vert\sigma'_1\sigma''_1\vert(M_1-C_0+C_0M_1V(\tau_1-))$ (18)

となるが、(11), (17) より、

$\displaystyle V(\tau_1-)=V(0+)\leq\delta_2\leq\frac{1}{2M_1},
\hspace{1zw}\Upsilon(\tau_1-)=\Upsilon(0+)
$

なので、(12) より (18) は、
  $\displaystyle
\Upsilon(\tau_1+)
\leq \Upsilon(0+)+\vert\sigma'_1\sigma''_1\vert\left(M_1-\frac{C_0}{2}\right)
\leq \Upsilon(0+)$ (19)
と評価できる。また、

$\displaystyle Q(t)\leq V(t)^2
$

に注意すると、 (13) と (17) により、
$\displaystyle \Upsilon(0+)$ $\textstyle =$ $\displaystyle V(0+)+C_0Q(0+)
 \leq\
V(0+)+C_0V(0+)^2$  
  $\textstyle \leq$ $\displaystyle C_1\delta_3+C_0(C_1\delta_3)^2
 \leq\
\frac{\delta_2}{C_1}$ (20)

となり、よって (19) より、
  $\displaystyle
V(\tau_1+)
\leq\Upsilon(\tau_1+)
\leq\Upsilon(0+)
\leq \frac{\delta_2}{C_1}
\leq \delta_2$ (21)
となるし、 また、(8) と (21) から
  $\displaystyle
\mathop{\rm TV}u(\tau_1+,\cdot)\leq C_1V(\tau_1+)\leq\delta_2$ (22)
も得られる。

そして、この (22) によって

$\displaystyle \vert u(\tau_1+,x)-u(\tau_1+,-\infty)\vert
= \vert u(\tau_1+,x)-\bar{u}(-\infty)\vert \leq \delta_2
$

も保証されるので、初期値 $\bar{u}$ が含まれ、 (6), (7), (8) が 成り立つ $u$ の領域を例えば $U_0$ とし、

$\displaystyle U_0\supset B_{\hat{\delta}}(\bar{u}(-\infty))
$

である $\hat{\delta}>0$ を取り、 $\delta_2<\hat{\delta}$ となるように $\delta_2$ を取れば

$\displaystyle u(\tau_1+, x)\in B_{\hat{\delta}}(\bar{u}(-\infty))\subset U_0
$

が保証され、$u(\tau_1+, x)$ に対しても、同じ $M_1$, $C_1$ のままで (6), (7), (8) を 使うことができるようになる。

さて、ここからは帰納法により、$n\geq 1$ に対して 3 つの不等式

  $\displaystyle
\Upsilon(\tau_n+) \leq \Upsilon(\tau_{n-1}+),
\hspace{1zw}
V(\...
...{C_1}\leq\delta_2,
\hspace{1zw}
\mathop{\rm TV}u(\tau_n+,\cdot) \leq \delta_2$ (23)
が成り立つことを示すことにする。 (19), (21), (22) により、$n=1$ については示された。

(23) が $n-1$ までは成り立つとすると、 上に述べたように、 (23) の 3 本目によりそこまでの $u$ に対しては (6), (7), (8) が 使えて、よって、帰納法の仮定により、

\begin{eqnarray*}\Upsilon(\tau_n+)
&\leq &
\Upsilon(\tau_n-)+\vert\sigma'_n\si...
...\left(M_1-\frac{C_0}{2}\right)
\ &\leq &
\Upsilon(\tau_{n-1}+)\end{eqnarray*}

となって (23) の 1 本目が得られ、よって、

$\displaystyle V(\tau_n+)
\leq \Upsilon(\tau_n+)
\leq \Upsilon(0+)
\leq \frac{\delta_2}{C_1}
\leq \delta_2
$

により (23) の 2 本目が、そして、

$\displaystyle \mathop{\rm TV}u(\tau_n+,\cdot)\leq C_1V(\tau_n+)\leq \delta_2
$

により (23) の 3 本目が得られる。 これで (23) がすべての $n$ に対して (すなわち近似解が構成できるすべての $t>0$ に対して) 成り立つことが言えたことになる。 そして、

$\displaystyle V(t)\leq \delta_2\leq\frac{1}{2M_1}
$

となるので、(7.57) (p137) も得られたことになる。

竹野茂治@新潟工科大学
2020-06-03