12 結論とコンパクト性に関する補足

後の議論は、[3] とほぼ同じである。 命題 6 と命題 8 に より、
  $\displaystyle
\langle\{(A_\tau^2+\pi^2)h(z)+B_\tau^2h(w)\}(w-z)^{2\tau}\rangle
R[\psi_0,\hat{\psi}_0]=0$ (171)
が言え、[3] で示したように $R[\psi_0,\hat{\psi}_0]\neq 0$ ([3] では $I_5\neq 0$) なる $\psi_0,\hat{\psi}_0\in\mathcal{S}$ が存在することから
$\displaystyle \langle\{(A_\tau^2+\pi^2)h(z)+B_\tau^2h(w)\}(w-z)^{2\tau}\rangle = 0
$
となり、$\tau>0$ に対して、 $A_\tau^2+\pi^2>0$, $B_\tau^2>0$ なので、 命題 3 より、$\nu$ の台は
$\displaystyle \mathop{\mathrm{supp}}\nu\subset \{(w_1,z_1)\}\cup\{w=z\}
$
に含まれることがわかり、そこから [3] の 7 節と 同じ議論により
$\displaystyle \nu = \delta(w-w_1,z-z_1)
$
となることが言え、これで本稿の目標である Tartar 方程式の解が得られた ことになる。


命題 9

$\tau>0$ ($1<\gamma<3$) に対して、 $\mathop{\mathrm{supp}}\nu\not\subset\{w=z\}$ でなければ、 Tartar 方程式の解は、$\delta$ 関数となる。


補足を一つ述べる。 $\tau\geq 1$, すなわち $1<\gamma \leq 5/3$ に対しては、 Ding-Chen-Luo [7], Lions-Perthame-Souganidis [9] の どちらも Tartar 方程式を解いているが、その Young 測度の元となる (1) の近似解については、 [7] では Lax-Friedrichs 型差分近似 (以下 LF-差分) を用い、 [9] では動力学近似を用いている。 そのいずれも補償コンパクト性理論により、 それぞれの近似解に対するエントロピーの弱コンパクト性が示されて、 その後の Tartar 方程式の議論に入っている。

一方 $0<\tau<1$ ($5/3<\gamma<3$) に関しては [9] でしか 扱われておらず、[9] では用いられていない LF-差分が $5/3<\gamma<3$ の場合に収束するかについては、 そこでは直接は示されてはいない。 LF-差分に関する [7] の方法では、 $1<\gamma\leq 2$、 すなわち $1/2\leq \tau <1$ でないと LF-差分に対するエントロピーの コンパクト性が得られず、よって その方法では $2<\gamma<3$ ($0<\tau<1/2$) に関しては LF-差分の収束性に本稿の結果を適用することができないことになる。

しかし最近知ったのだが、その部分については既に Wang,Li,Huang らの結果 [12] があり、 彼らは $2<\gamma\leq 3$ ( $0\leq \tau<1/2$) に対する LF-差分の エントロピーの弱コンパクト性を示している。 よって、$2<\gamma<3$ の LF-差分からでも Tartar 方程式を 得ることができ、[9]、または本稿の手法により、 Young 測度が $\delta$ 関数になるので、 結局 $1<\gamma<3$ に対して LF-差分が弱解に収束することが 保証されることになる。

なお、Tartar 方程式の解法部分に関しては、LF-差分であるか 動力学近似であるかは関係がないので、その手法は本稿の方法でも [9] の方法でもどちらでも構わない。 つまり、LF-差分の収束性についても、本稿によって新しく何かが 得られているわけではなく、あくまで [9] と [12] に よって既に得られていることの別証明をしているに過ぎない。

また、$\gamma\geq 3$ に関しては、 Lions-Perthame-Tadmor [8] によって、 $\gamma=1$ に関しては [13] によって Tartar 方程式が 解かれているが、それらの場合に LF-差分に関するコンパクト性が 得られているのかは良くはわからないので、 それぞれの場合に弱解の存在は示されていても、 LF-差分が収束することまで示されているかどうかはわからない。

竹野茂治@新潟工科大学
2023-04-03