A. 補遺

ここでは、2 節で触れた、 (4), (5) から $C(+0)=0$ が導かれることを 説明する。


命題 5

$(0,1)$ 上の関数 $f(x)$$f(x)\geq 0$ で、
  $\displaystyle
\int_0^1\frac{f(x)}{x}\, dx <\infty
$ (30)
を満たし、かつ $g(x)=xf(x)$ が非減少関数であれば、 $f(+0)$ が存在して $f(+0)=0$ となる。
(30) は当然 (5) に対応するが、 「$xf(x)$ が非減少」というのは、 (4) の最後の条件から得られる (7) の 条件に対応する。よって命題 5 が成り立てば $C(+0)=0$ が 成り立つ。

なお、この命題 5 は、 「$xf(x)$ が非減少」という条件がなければ成り立たないことに注意する。 もし $f(+0)$ が存在すれば、(30) より それが 0 でなければいけないことはすぐにわかるが、 $xf(x)$ が非減少でなければ $f(+0)$ が存在しない例が容易に作れる。 例えば、 $\phi_0(x)\in C_c(R)$

\begin{displaymath}
\phi_0(x)\geq 0,
\hspace{1zw}\mathop{\mathrm{supp}}\phi_0\subset [1,2],
\hspace{1zw}\int\phi_0\, dx = 1
\end{displaymath}

であるような関数とし、$\{p_n\}$, $\{a_n\}$ $p_n\downarrow 0$ $p_n + 1/a_n < p_{n-1}$ となるように取り、

\begin{displaymath}
\phi_n(x) = \phi_0\left(a_n\left(x-p_n+\frac{1}{a_n}\right)\right),
\hspace{1zw}f(x) = \sum_{n=1}^\infty \phi_n(x)
\end{displaymath}

とする。この場合、 $\mathop{\mathrm{supp}}\phi_n = [p_n,\ p_n+1/a_n]$ は互いに交わらず、よって、$f(x)$ は 0 の近くで $\phi_0$ の幅で振動する関数となり、 もちろん $f(+0)$ は存在しないが、

\begin{displaymath}
\int_{p_n}^{p_n+1/a_n}\frac{\phi_n}{x}\,dx
=
\int_1^2 \frac{...
...n}\,dy
\leq \frac{1}{a_np_n}\int\phi_0\, dy = \frac{1}{a_np_n}
\end{displaymath}

となるので、例えば $a_n=n^4$, $p_n=1/n^2$ とすれば

\begin{displaymath}
\int_0^1\frac{f(x)}{x}\,dx =\sum \int\frac{\phi_n(x)}{x}\, dx
\leq \sum\frac{1}{n^2}<\infty
\end{displaymath}

は満たされる。つまり、$f(+0)=0$ となるためには $f\geq 0$ と (30) だけでは不十分であり、 「$xf(x)$ が非減少」のような条件が必要であることがわかる。

さて命題 5 を背理法で証明する。 もし、$f(+0)=0$ でないとすると、

  $\displaystyle
f(x_n)\geq \varepsilon_0 > 0,
\hspace{1zw}x_n\downarrow 0
\hspace{1zw}(x_1<1)$ (31)
となるような正数 $\varepsilon_0$ と数列 $\{x_n\}$ が存在する。

$g(x)=xf(x)$ は増加関数なので、 $x_n\leq x\leq x_{n-1}$ では、

\begin{displaymath}
g(x)\geq g(x_n) = x_nf(x_n)\geq \varepsilon_0 x_n
\end{displaymath}

となる。よって、 $f(x)=g(x)/x\geq \varepsilon_0 x_n/x$ となり、

\begin{eqnarray*}\int_0^{x_1} \frac{f(x)}{x}\,dx
&=&
\sum_{n=2}^\infty \int_{x...
...um_{n=2}^\infty
x_n\left(\frac{1}{x_n}-\frac{1}{x_{n-1}}\right)\end{eqnarray*}

より、(30) より
  $\displaystyle
\sum_{n=1}^\infty \left(1-\frac{x_{n+1}}{x_n}\right)<\infty$ (32)
が成り立つことになる。しかしこれが不合理であることを示す。

今、 $b_n=1-x_{n+1}/x_n$ とすると、 $x_n\downarrow 0$ より $0<b_n<1$ で、 (32) より $\sum b_n<\infty$ であるから $\lim b_n=0$ となり、 よって $n\geq N$ ならば $0<b_n<1/2$ となるような $N$ が存在する。

$x_{n+1}=x_n(1-b_n)$ より、$n\geq N$ に対して $\displaystyle x_n = x_N\prod_{k=N}^n (1-b_k)$、 よって、

\begin{displaymath}
\log x_n = \log x_N + \sum_{k=N}^n \log(1-b_k)
\end{displaymath}

となる。ここで、 $x_n\downarrow 0$ であったから、
  $\displaystyle
\sum_{k=N}^\infty \{-\log(1-b_k)\} = \infty$ (33)
が言えることになるが、$0<x<1/2$ では $(-\log(1-x))/x$ は 正でかつ有界な関数なので、 $(-\log(1-x))\leq c_0x$ となる定数 $c_0>0$ が取れる。 よって、

\begin{displaymath}
\sum_{k=N}^\infty \{-\log(1-b_k)\}
\leq
c_0\sum_{k=N}^\infty b_k < \infty
\end{displaymath}

となるが、これは (33) に矛盾する。

よって (31) となるような $\varepsilon_0$$\{x_n\}$ は 取れないことになり、命題 5 が成り立つことが示された。

竹野茂治@新潟工科大学
2020-02-28