3 その他の不等式

2 節の $P_1$$r$ との違いをよりわかりやすく見るために、 (3) を $r$ の関数とみて、グラフに書いてみることにする。 なお、ここでは簡単のため $R_M=3$ としてみる。

このとき、$P_1$ は (3) より、

\begin{displaymath}
P_1=\frac{\lfloor 3r\rfloor+1}{4}
\end{displaymath}

となるので、グラフは図 2 のようになる。

図 2: $P_1$$r$ (破線) のグラフ
\includegraphics[width=0.4\textwidth]{P1.eps}

このグラフの横軸は 3 等分されているが、縦軸は 4 等分されている。 これは、$x$ の値が 0 から $R_M$ までの $(R_M+1)$ 通りあるのに、 $P_1$ では

\begin{displaymath}
\frac{x}{R_M}\leq r\end{displaymath} (6)

という不等式を利用していることに由来する。よって、むしろこれに変えて、
\begin{displaymath}
\frac{x+1}{R_M+1}\leq r\end{displaymath} (7)

や、
\begin{displaymath}
\frac{x}{R_M+1}\leq r\end{displaymath} (8)

という不等式を利用する方が自然であると思われる。 (7) を利用する場合は、この左辺は $(0,1]$ の実数値で、 (8) を利用する場合は、この左辺は $[0,1)$ の実数値となる。

これらの不等式を利用した場合の確率をそれぞれ $P_2$, $P_3$ とすると、 (2) より、

$\displaystyle P_2$ $\textstyle =$ $\displaystyle \mathrm{Prob}\{(x+1)/(R_M+1)\leq r\}
=
\mathrm{Prob}\{x+1\leq (R_M+1)r\}$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \mathrm{Prob}\{x+1\leq \lfloor (R_M+1)r\rfloor\}
=
\mathrm{Prob}\{x\leq \lfloor (R_M+1)r\rfloor-1\}$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{\lfloor (R_M+1)r\rfloor}{R_M+1},$ (9)
$\displaystyle P_3$ $\textstyle =$ $\displaystyle \mathrm{Prob}\{x/(R_M+1)\leq r\}
=
\mathrm{Prob}\{x\leq (R_M+1)r\}$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \mathrm{Prob}\{x\leq \lfloor (R_M+1)r\rfloor\}$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{\lfloor (R_M+1)r\rfloor+1}{R_M+1}$ (10)

となる。

(4) より、$P_2$, $P_3$ は、

\begin{eqnarray*}&& \frac{(R_M+1)r-1}{R_M+1}<P_2\leq \frac{(R_M+1)r}{R_M+1}=r,
 &&
r=\frac{(R_M+1)r}{R_M+1}<P_3\leq \frac{(R_M+1)r+1}{R_M+1}\end{eqnarray*}


を満たすので、$r$ との差は、
\begin{displaymath}
-\frac{1}{R_M+1}<P_2-r\leq 0,
\hspace{1zw}
0<P_3-r\leq \frac{1}{R_M+1}\end{displaymath} (11)

と評価される。

$R_M$ が十分大きければ、(11) から $P_2$, $P_3$$r$ に十分近いことがわかるが、 $P_2$$r$ 以下、$P_3$$r$ 以上であり、 (5) と比較してみても、(11) の $P_2$, $P_3$ はそれほどよいとも言えないように見える。

$P_2$, $P_3$$r$ の関数と見ると、$R_M=3$ の場合は、

\begin{displaymath}
P_2=\frac{\lfloor 4r\rfloor}{4},
\hspace{1zw}
P_3=\frac{\lfloor 4r\rfloor+1}{4}
\end{displaymath}

であるので、グラフは図 3 のようになる。

図 3: $P_2$$P_3$ のグラフ
\includegraphics[width=0.7\textwidth]{P2P3.eps}

見てわかる通り、この $P_2$, $P_3$ の中間のようなグラフが むしろ $r$ に近いことがわかる。 $P_2$, $P_3$ の中間のようなグラフとしては、 例えば次の 2 種類が考えられる:

$\displaystyle P_4$ $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{\lfloor(R_M+1)r\rfloor+1/2}{R_M+1}$ (12)
$\displaystyle P_5$ $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{\lfloor(R_M+1)r+1/2\rfloor}{R_M+1}$ (13)

例えば $R_M=3$ のときは、
\begin{displaymath}
P_4=\frac{\lfloor 4r\rfloor}{4}+\frac{1}{8},
\hspace{1zw}
P_5=\frac{\lfloor 4r+1/2\rfloor}{4}
\end{displaymath}

であり、これらのグラフは図 4 のようになる。

図 4: $P_4$$P_5$ のグラフ
\includegraphics[width=0.7\textwidth]{P4P5.eps}

$P_4$$P_2$ を上に $1/8$ ずらしたもの、 $P_5$$P_2$ を左に $1/8$ ずらしたものとなっている。 方向は違うが、いずれも $r$ とのずれは同じ位になっている。

$P_4$ は、(9), (10), (12) より

\begin{displaymath}
P_4=\frac{1}{2}P_2+\frac{1}{2}P_3
\end{displaymath}

なので、例えば 2 回に 1 回 (7) を使い、 2 回に 1 回 (8) を使えば、その確率は $P_4$ となる。

一方 $P_5$ は、

\begin{eqnarray*}P_5
&=&
\frac{\lfloor(R_M+1)r+1/2\rfloor}{R_M+1}
=
\mathrm{...
...R_M+1)r-1/2\rfloor\}
 &=&
\mathrm{Prob}\{x\leq (R_M+1)r-1/2\}\end{eqnarray*}


であるので、
\begin{displaymath}
\frac{x+1/2}{R_M+1}\leq r\end{displaymath} (14)

という不等式を用いれば $P_5$ になる。 もちろん、$P_4$ よりも $P_5$ の方が実装は容易である。
竹野茂治@新潟工科大学
2007年5月31日