9 他の硬貨系について

4 節で述べたように、これまでに見てきた命題は、 通常の 1 円、5 円、10 円、...の硬貨系 (5-2 硬貨系と呼ぶ) 以外の (10) の形の硬貨系でも成り立つ。 例えば、1 円、2 円、4 円、8 円、...($N_j=2$) の 2 進数の硬貨系等の $n$ 進数の硬貨系、 あるいは、12 進数を基本とした 6-2 硬貨系 (1 円、6 円、12 円、72 円、...) や 3-4 硬貨系 (1 円、3 円、12 円、36 円、...) なども作ることができる。

例えばアメリカのように、基本的に 5-2 硬貨系だけれども、 基本となる額の 1/4 硬貨 (25 セント硬貨) を入れているところもある。 それは、実際には冗長 (表現が一意にならない) でややこしいのだが、 便利な場合もあるらしい。 なお、日本の 5-2 硬貨系だと 25 円硬貨を入れると冗長で一意性がなくなる が、例えば 10 円硬貨等を除いて、

のようにすれば一意性のある硬貨系となる。

さらに、イギリス (やユーロ) では、歴史的な経緯もあるらしいが、 通常の 5-2 系に 2 ペンスや 20 ペンスなどの硬貨もあり、 これも冗長である。例えば 1 円、2 円、5 円を考えると、 1 円は 1 枚でいいが (2 枚あると冗長)、 2 円は 4 円を表現するためには 2 枚なければいけない。 しかし、そうすると 5 円が 2 円 2 枚と 1 円 1 枚でも 表現されてしまうことになる。

さて、2 進数硬貨系などは、10 進数と 2 進数の変換をやらないといけないので、 とても実用にはならないと思うかもしれないが、 もし硬貨系が最初から 2 進硬貨系であれば、 例えば両者での数字の併記であるとか、 金額の計算には 10 進数を使わない等、 2 進と 10 進の変換をやらずに生活する工夫がなされているはずだろう。 だから、変換が面倒だろうから 2 進硬貨系はありえない、 と考えるのは早計だと思う。

2 進硬貨系だと、1000 円未満の数字を表現するには、

の 10 種類の硬貨が必要になる。これも大変だと思うかもしれないが、 2 進硬貨系では各硬貨は 2 枚以上持つ必要はなく、 それぞれ 1 枚だけあればすべての金額が表現できる。 つまり、財布の中の最大小銭枚数は 10 枚で済むことになる。

一方、通常の 5-2 系では、1 円、10 円、100 円は最大 4 枚、 5 円、50 円、500 円は最大 1 枚必要だから最大で合計 15 枚となり、 2 進硬貨系よりむしろ 5-2 系の方が財布がふくらみやすいことになる。

ついでに他の硬貨系についても 1000 円未満の最大枚数を見てみると、

これを見ても、2 進硬貨系の 10 枚が少ないことがわかる。 もちろん、現在の 10 進数の日常から 2 進硬貨系に切りかえるのは ほぼ不可能であるが、それなりに優れたところもあるように思う。

ちなみに、5-2 系の逆の 2-5 系 (1, 2, 10, 20, 100, 200 円硬貨) の場合も 最大は 15 枚となるし、 例えば 5 円玉だけを 2 円玉に変えるといった場合も同じになるが、 便利さや計算しやすさ、また平均的な小銭の枚数などには、 もしかしたら違いが出てくるかもしれない。

1 円玉を 1 枚作るのに、実際は 1 円以上必要だと何かで見たような気がするが、 もしそうだとすると、5 円玉の代わりに 2 円玉を使うようにすると、 1 円玉の流通量はずっと少なくすることができるだろう。

竹野茂治@新潟工科大学
2014年11月19日