4 漸化式

今度は、(1)-(5) を数列の漸化式とみて、 その数列の一般の式を求めることを考えてみることにする。 つまり、$n$ 世代目の割合を、$A_n$, $1-A_n$, $B_n$, $C_n$, $1-B_n-C_n$ としてその漸化式を立てると、 (1)-(5) により、次が成り立つ。
\begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{lll}
A_{n+1} & = & \displaystyle B_n+...
...yle A_n+B_n + \frac{1}{2}C_n-2A_nB_n-A_nC_n
\end{array}\right.\end{displaymath} (6)

もし、この右辺が $A_n$, $B_n$, $C_n$ の一次式であれば、 $\mbox{\boldmath$X$}_n={}^t(A_n,B_n,C_n)$ とすることで、係数行列 $P$ によって
\begin{displaymath}
\mbox{\boldmath$X$}_{n+1}=P\mbox{\boldmath$X$}_n
\end{displaymath}

と書けるので、
\begin{displaymath}
\mbox{\boldmath$X$}_n=P^n\mbox{\boldmath$X$}_0
\end{displaymath}

となり、線形代数の知識を用いれば、 この行列 $P$ の固有値を求めることで $P^n$ の成分を $n$ の式で表すことができ、 それにより $\mbox{\boldmath$X$}_n$ を、 そして $A_n$, $B_n$, $C_n$$n$ の式で表すことが可能となる。

しかし、(6) の右辺は $A_n$, $B_n$, $C_n$ の 2 次式で非線形なので、 一般にはこのようなことは行えず、$n$ の式で表すことは難しい。 ただし、この漸化式 (6) の場合は、 これが特殊な形をしているので、 そこに着目してそれを求めることができる。

(6) の右辺には、$B_n$, $C_n$ が、いずれも

\begin{displaymath}
B_n+\frac{1}{2}C_n
\end{displaymath}

の形で入っているので、
\begin{displaymath}
D_n=B_n+\frac{1}{2}C_n\end{displaymath} (7)

とすると、(6) は、
\begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{lll}
A_{n+1} & = & D_n,\\
B_{n+1} & = & A_nD_n,\\
C_{n+1} & = & A_n+D_n-2A_nD_n
\end{array}\right.\end{displaymath} (8)

と書け、これにより、
\begin{eqnarray*}D_{n+1}
&=&
B_{n+1}+\frac{1}{2}C_{n+1}
=
A_nD_n+\frac{1}{2}(A_n+D_n-2A_nD_n)
\\ &=&
\frac{1}{2}A_n+\frac{1}{2}D_n\end{eqnarray*}


となり、よって、$A_n$$D_n$ について
\begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{lll}
A_{n+1} & = & D_n,\\ [.5zh]
D_{...
...\displaystyle \frac{1}{2}A_n+\frac{1}{2}D_n
\end{array}\right.\end{displaymath} (9)

という漸化式を導くことができる。

この (9) の右辺は、$A_n$, $D_n$ の 1 次式なので、 前の方針に従って、

\begin{displaymath}
\left[\begin{array}{c}A_{n+1}\\ D_{n+1}\end{array}\right]
...
...rray}\right]
\left[\begin{array}{c}A_n\\ D_n\end{array}\right]\end{displaymath} (10)

から $A_n$, $D_n$ を求めることができる。 ただ、ここでは 2 本の方程式なので、行列を用いずに、 より素朴な方法 (特性方程式法) により $A_n$, $D_n$ を求めてみる。

(9) の 1 本目から $D_n=A_{n+1}$ であり、 よって $D_{n+1}=A_{n+2}$ であるから、 これらを (9) の 2 本目に代入すれば

\begin{displaymath}
A_{n+2} = \frac{1}{2}A_{n+1} + \frac{1}{2}A_n\end{displaymath} (11)

という $A_n$ に対する 3 項漸化式が得られる。

なお、この式 (11) は、$A_{n+2}$ が、 その前の 2 つの項 $A_{n+1}$, $A_n$ の平均であることも意味しているので、 これにより、他の数列を使わなくても $A_n$ を単独で 容易に順次計算できることになる。

一般に、3 項漸化式

\begin{displaymath}
a_{n+2}+pa_{n+1}+q a_n=0\end{displaymath} (12)

に対して、2 次方程式
\begin{displaymath}
t^2+p t+q=0\end{displaymath} (13)

を (12) の 特性方程式 という。 この特性方程式の解が $t=\alpha, \beta$ であるとき、 3 項漸化式 (12) は、
\begin{displaymath}
\begin{array}{lll}
a_{n+2}-\alpha a_{n+1} &=& \beta (a_{n+1...
..._{n+2}-\beta a_{n+1} &=& \alpha (a_{n+1}-\beta a_n)
\end{array}\end{displaymath}

の形に変形できることが、 2 次方程式の解と係数の関係によって容易にわかる。

この 3 項漸化式 (11) の場合は、特性方程式は

\begin{displaymath}
t^2=\frac{1}{2}t+\frac{1}{2}
\end{displaymath}

であるが、これを解くと
\begin{displaymath}
2t^2-t-1=0
\end{displaymath}

より、$t=1,-1/2$ と求まる。(11) は、
\begin{displaymath}
\begin{array}{lll}
\displaystyle A_{n+2}-A_{n+1} & = & \dis...
...}A_{n+1} & = & \displaystyle A_{n+1}+\frac{1}{2}A_n
\end{array}\end{displaymath}

の 2 通りの形に変形できることになる。 これにより、$A_{n+1}-A_n$$A_{n+1}+A_n/2$ は、 それぞれ公比が $(-1/2)$, 1 である等比数列であることになり、よって、
$\displaystyle A_{n+1}-A_n$ $\textstyle =$ $\displaystyle \left(-\frac{1}{2}\right)^n(A_1-A_0),$ (14)
$\displaystyle A_{n+1}+\frac{1}{2}A_n$ $\textstyle =$ $\displaystyle A_1+\frac{1}{2}A_0$ (15)

となるので、(15) から (14) を引いて $2/3$ 倍すれば、
\begin{displaymath}
A_n
=\frac{2}{3}\left\{1-\left(-\frac{1}{2}\right)^n\right\}...
...2}{3}\left\{\frac{1}{2}+\left(-\frac{1}{2}\right)^n\right\}A_0
\end{displaymath}

となり、$A_1=D_0$ より、結局
$\displaystyle A_n$ $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{2}{3}\left\{1-\left(-\frac{1}{2}\right)^n\right\}D_0
+\frac{2}{3}\left\{\frac{1}{2}+\left(-\frac{1}{2}\right)^n\right\}A_0$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{A_0+2D_0}{3}+\frac{2A_0-2D_0}{3}\left(-\frac{1}{2}\right)^n$ (16)

が得られる。

$D_n$ は、$D_n=A_{n+1}$ であるから、(16) より、

$\displaystyle D_n$ $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{1}{3}\left\{2+\left(-\frac{1}{2}\right)^n\right\}D_0
+\frac{1}{3}\left\{1-\left(-\frac{1}{2}\right)^n\right\}A_0$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{A_0+2D_0}{3}+\frac{D_0-A_0}{3}\left(-\frac{1}{2}\right)^n$ (17)

となる。$B_n$, $C_n$ は、(8), (7) により、
\begin{displaymath}
B_n=A_{n-1}D_{n-1},\hspace{1zw}C_n=2D_n-2B_n\end{displaymath} (18)

より求めることができる ($B_n$, $C_n$ の一般形は複雑なので省略)。

竹野茂治@新潟工科大学
2007年9月4日