7 球面、球体の等積図形

本稿では、まず 6 節の計算に 出てきた (19) の式に関連する球面の等積性の性質や、 球体の等積性の話を紹介し、それに基づく重心計算についても説明する。

(10)、および (19) より、 $h_a(x)$ の回転体である 球面の $a\leq x\leq b$ の範囲の帯状領域の面積 $S$ は、

\begin{displaymath}
S
= 2\pi\int_a^b h_a(x)\sqrt{1+(h_a'(x))^2} dx
= 2\pi\int_a^b R dx
= 2\pi R(b-a)\end{displaymath} (31)

となる。 つまり、この帯状の部分の面積は、半径 $R$ の円筒上の、 幅 $(b-a)$ の帯の面積に等しい (図 2)。
図 2: 球の帯と円筒の帯
\includegraphics[height=6cm]{grv3-band1.eps}
当然、球の帯の方が長さは短いのであるが、 斜めになっているために円筒の帯よりも幅は広くなっていて、 それが丁度釣り合うことで面積が一致している。

なお、ここから、球の表面積は、その球と同じ半径で同じ高さの円筒の 面積 $2R\times 2\pi R = 4\pi R^2$ と等しくなることもわかる。

この球からこの円筒、すなわち球に外接する同じ高さの円筒への、 中心軸から水平方向の射影

\begin{displaymath}
(r\cos\phi\cos\theta, r\sin\phi\cos\theta, r\sin\theta)
\mapsto
(r\cos\phi, r\sin\phi, r\sin\theta)
\end{displaymath}

は、帯の面積を等しくするだけでなく、 それを帯の垂直方向に分割すれば、どの場所でも 局所的な面積を変えない写像であることがわかる。 これを利用すると、地球表面上の地図を、面積を変えない形で 円筒の上に写像することができ、それを展開して平面図にすることができる。 それがいわゆる「ランベルト正積円筒図法」である。 ランベルト正積円筒図法は、高緯度地域は緯線の間隔が狭くなるので、 その付近ではあまり実用的ではないが、 赤道に近いところでは見易くて面積も正しいシンプルな地図を与える。

6 節で、$g_a$$x$ の範囲の中心になっていたが、 これも、球面から円筒への射影が面積を変えないことからいえる。 つまり、この面積の不変性が、 図 2 の帯同士の重心の不変性も導き、 円筒上の帯の重心は当然 $x$ の範囲の中心になるからである。

ついでに、(31) のように、 曲線 $y=h(x)$$x$ 軸に関する回転面 $S$ の、 横幅 $\Delta x$ に対する帯状部分の面積が、 場所によらずに $\Delta x$ の定数倍になるための条件を考えてみよう。 $\Delta x\approx 0$ であるとすると、 それに対する曲線 $y=h(x)$ 上の部分の長さ $\Delta\ell$ は、 $\Delta\ell\approx\sqrt{1+(h'(x))^2} \Delta x$ であり、 よって、その帯状部分の面積 $\Delta S$ は、

\begin{displaymath}
\Delta S
\approx2\pi h(x)\Delta\ell
\approx2\pi h(x)\sqrt{1+(h'(x))^2} \Delta x
\end{displaymath}

となる。よって、その面積が $\Delta x$ の定数倍となる条件は、
\begin{displaymath}
h(x)\sqrt{1+(h'(x))^2} =  定数\end{displaymath} (32)

となる。この定数を $R$ とすると、

\begin{displaymath}
(h'(x))^2 = \frac{R^2}{h(x)^2} - 1
\end{displaymath}

より、
\begin{displaymath}
h'(x) = \pm \frac{\sqrt{R^2-h(x)^2}}{h(x)}\end{displaymath} (33)

となる。これが、その条件を満たす曲線の微分方程式となる。

条件 (32) を図形的に解釈すると、 $h'(x)$ はグラフの接線の傾きで、 その仰角を $\theta$ とすると ( $-\pi/2<\theta<\pi/2$)、 $h'(x)=\tan\theta$ なので、

\begin{displaymath}
\sqrt{1+(h'(x))^2} = \sqrt{1+\tan^2\theta} = \frac{1}{\cos\theta}
\end{displaymath}

となり、よって (32) の左辺は $h(x)/\cos\theta$ となる。 これは、グラフ上の点 $\mathrm{P}(x,h(x))$ での法線と $x$ 軸との 交点を Q としたときの、PQ の長さに等しい (図 3)。
図 3: 法線方向の $x$ 軸までの距離
\includegraphics[height=6cm]{grv3-dist1.eps}
すなわち、円のように、$x$ 軸に関する回転面の面積が $x$ 幅の 定数倍になる曲線は、 その法線方向の $x$ 軸までの距離が一定 ($=R$) である ような曲線となる。

微分方程式 (33) を解いてみればわかるが、 それは $x$ 軸上に中心があり、半径 $R$ の円周のみと なる ( $y=\sqrt{R^2-(x+C)^2}$)。 そのような円周の場合は、曲線上の点の法線は、 $x$ 軸上の中心で $x$ 軸と交わるので、 その距離は確かに常に半径 $R$ に一致し一定となる。 逆にそうなる曲線はそのような円のみだということになる。

なお、ついでに言えば、(33) を少し発展させ、 法線方向の $x$ 軸までの長さが 与えられた関数 $r(x)$ になるような微分方程式

\begin{displaymath}
y' = \pm \frac{\sqrt{r(x)^2-y^2}}{y}
\end{displaymath}

を一般に解くのは難しそうで、 求積法で解けるのかどうかは私にはわからない。

ここまでは、球面から円筒への射影の等積性を見てきたが、 良く知られているように、 球の体積にも円柱に関係する簡単な等積図形がある。 (b) で考察したような $x$ 軸のある範囲、 地球で言えばある緯度からある緯度までの球の体積は、 図 4 のような三角形 $D$$x$ 軸の まわりに回転させた図形、 すなわち球と同じ半径、同じ幅の円柱 (図 2 右) から、 半径 $R$ 高さ $R$ の円錐を 2 つ取り除いた図形の 同じ幅の体積に一致する。

図 4: 球と等積な図形を作る三角形
\includegraphics[height=6cm]{grv3-equi1.eps}

それは、$x$ 軸に垂直な面での両者の立体図形の断面積を比べればわかるが、 球の方の $x$ での断面積は

\begin{displaymath}
\pi h_a(x)^2 = \pi(R^2-x^2) = \pi R^2-\pi x^2
\end{displaymath}

であり、これは、半径 $R$ の円から半径 $x$ の円を取り除いた円環図の面積、 すなわち $D$ の回転図形の $x$ での断面積に一致し、 よって $x$ の同じ幅に対する両者の体積は一致する。

これにより、球面の場合と同様に、球のある $x$ 幅の重心は、 $D$ の回転体の同じ幅の重心に一致するので、 そちらで置き換えて求めることもできる。 試しに、$g_b$ をその考え方で計算してみよう。

まず、 $\beta=\cos\alpha$ とし、 $0\leq x\leq R\beta$ の範囲での $D$ の 回転体の重心の $x$ 座標 $g_1$ を考える。 これを、同じ範囲での半径 $R$、高さ $R\beta$ の円柱から、 半径 $R\beta$、高さ $R\beta$ の円錐を取り除いたものと考え、 円柱の重心の $x$ 座標 $g_2$ と 円錐の重心の $x$ 座標 $g_3$ で表せば、

\begin{displaymath}
g_2\pi R^3\beta
= g_3\frac{\pi}{3}R^3\beta^3
+ g_1\left(\pi R^3\beta - \frac{\pi}{3}R^3\beta^3\right)
\end{displaymath}

と書けるが、$g_2=R\beta/2$ で、 $g_3$ は [1] の命題 2 より $g_3=3R\beta/4$ となり、 よって

\begin{displaymath}
g_1
= \frac{3g_2-g_3\beta^2}{3-\beta^2}
= \frac{3R}{4} \frac{\beta(2-\beta^2)}{3-\beta^2}
\end{displaymath}

となる。

一方、半球に対応する $0\leq x\leq R$ の範囲での $D$ の 回転体は、 $\beta=\cos\alpha$ が 1 の場合に対応するので、 その重心の $x$ 座標 $g_4$

\begin{displaymath}
g_4 = \frac{3R}{8}
\end{displaymath}

となる。 $g_b$ は、$0\leq x\leq R$$g_4$ に対応する図形から、 $0\leq x\leq R\beta$$g_1$ に対応する図形を 取り除いたものであるから、

\begin{displaymath}
g_4\frac{2\pi R^3}{3}
= g_1\frac{\pi R^3}{3}\beta(3 - \beta^...
...frac{2\pi R^3}{3} - \frac{\pi R^3}{3}\beta(3 - \beta^2)\right)
\end{displaymath}

となる。この $g_b$ の係数は、

\begin{displaymath}
\frac{2\pi R^3}{3} - \frac{\pi R^3}{3}\beta(3 - \beta^2)
= \...
...}{3}(2-3\beta+\beta^3)
= \frac{\pi R^3}{3}(1-\beta)^2(2+\beta)
\end{displaymath}

であり、また、

\begin{displaymath}
g_4\frac{2\pi R^3}{3} - g_1\frac{\pi R^3}{3} \beta(3 - \bet...
...\pi R^4}{4}\beta^2(2-\beta^2)
= \frac{\pi R^4}{4}(1-\beta^2)^2
\end{displaymath}

なので、よって

\begin{displaymath}
g_b
= \frac{\pi R^4(1-\beta^2)^2/4}{\pi R^3(1-\beta)^2(2+\beta)/3}
= \frac{3R}{4} \frac{(1+\beta)^2}{2+\beta}
\end{displaymath}

となり、積分計算なしで (22) が得られることがわかる。

竹野茂治@新潟工科大学
2019-03-05