3 ゲーム差の平均

次に、ゲーム差の平均について考察する。

プロ野球のように、6 チームのリーグ戦だと考察が難しいので、 ここでは単純なモデルとして A,B 2 チームのみの試合を考えて、 その $n$ 試合後のゲーム差の平均を考えることにする。

A が B に勝つ確率を $p$ ($0\leq p\leq 1$) とし、 独立に $n$ 試合をすると考えると、A の勝数は 2 項分布 $B(n,p)$ に従う。 よって A の勝数が $k$ である確率は

\begin{displaymath}
\left(\begin{array}{c} n \\ k \end{array}\right)p^kq^{n-k}\hspace{1zw}(q=1-p)
\end{displaymath}

であり、またこのとき、A の貯金は $k-(n-k)=2k-n$、 B の貯金は $(n-k)-k=n-2k$ なので、 A を上位と考えたゲーム差は $2k-n$ となる。

ここでは、2 種類の平均を考えてみることにする。

  1. 符号つきのゲーム差 $2k-n$ の平均 $E_n$
  2. 符号なしのゲーム差 $\vert 2k-n\vert$ の平均 $F_n$
通常の勝敗表には負のゲーム差というものは表示されないので、 その勝敗表に現われるゲーム差の平均という場合は 多分 $F_n$ の方が適当であろうと思われるが、 計算は $E_n$ の方が易しく $F_n$ の方が難しい。 本節では、まず $E_n$ を考えてみる。

$2k-n$ の平均、すなわち期待値は、

\begin{displaymath}
E_n=E_n(p)=\sum_{k=0}^n(2k-n)\left(\begin{array}{c} n \\ k \end{array}\right)p^kq^{n-k}\end{displaymath} (4)

となる。これを易しい式に変形するには、次の二項定理を用いる。
\begin{displaymath}
(a+x)^n=\sum_{k=0}^n\left(\begin{array}{c} n \\ k \end{array}\right)x^ka^{n-k}\end{displaymath} (5)

この (5) を $x$ で微分すると、
\begin{displaymath}
n(a+x)^{n-1}=\sum_{k=1}^n\left(\begin{array}{c} n \\ k \end{array}\right)kx^{k-1}a^{n-k}
\end{displaymath}

となるから、
\begin{displaymath}
n(a+x)^{n-1}x=\sum_{k=1}^n\left(\begin{array}{c} n \\ k \end{array}\right)kx^ka^{n-k}
\end{displaymath}

が得られる。これらを用いれば、(4) は、
\begin{displaymath}
E_n
=
2\sum_{k=1}^nk\left(\begin{array}{c} n \\ k \end{array...
... n \\ k \end{array}\right)p^kq^{n-k}
=
2n(q+p)^{n-1}p-n(p+q)^n
\end{displaymath}

となるが、$q=1-p$ だから結局
\begin{displaymath}
E_n=n(2p-1)
\end{displaymath}

となることがわかる。

$p=1/2$、すなわち A と B の戦力が互角であれば、 $E_n=0$ となるが、これは自然であろう。 だからこの平均が正の値になるのは $p>1/2$ のように互角でない場合である。 例えば、100 試合後にこの平均が 10 となるのは $100(2p-1)=10$ より

\begin{displaymath}
p=\frac{1}{2}+\frac{10}{100}=0.6
\end{displaymath}

の場合となる。

竹野茂治@新潟工科大学
2009年7月27日