3 ブラウアーの不動点定理と中間値の定理

ブラウアーの不動点定理は、以下のようなものである。


定理 3 (ブラウアーの不動点定理)

$D=[0,1]^n$ ($n$ 次元の立方体) に対して、 $f:\ D\rightarrow D$ が 連続写像であるとき、$f$$D$ 内に不動点を持つ。すなわち、 $f(x)=x$ となる $x\in D$ が存在する。


実はこの定理は、1 次元 ($n=1$) では中間値の定理と同等である。 まず、それを紹介する。

$n=1$ の場合は、ブラウアーの定理の $f$ $f:[0,1]\rightarrow [0,1]$ の連続関数なので、 中間値の定理からブラウアーの不動点定理を示すのは易しい。 すなわち、この $f$ に対して、$g(x)=f(x)-x$ とすれば、

\begin{displaymath}
g(0)=f(0)\geq 0,\hspace{1zw}g(1)=f(1)-1\leq 0
\end{displaymath}

であり、もしこれらの一方で等号が成り立てば それが明らかに $f$ の不動点を与えているし、 いずれも等しくなければ、$g(0)g(1)<0$ となるので、 中間値の定理により $g(c)=0$ となる $c$ ($0<c<1$) が存在し、 これが $f$ の不動点となる。

問題はこの逆であるが、$f$$[a,b]$ 上の連続関数とし、 $f(a)>f(b)$ であるとする。 中間値として、$f(a)>p>f(b)$ となる $p$ を任意に取り、 $f(c)=p$ となる $c$ ($a<c<b$) が存在するかどうかを考える。

まず、$[a,b]$$[0,1]$ と、および $p$ を 0 としてよいことは容易にわかる。 それは、必要ならば $f(x)$ の代わりに $h(t)=f(a+t(b-a))-p$ を 考えればいいからである。 よって、$f$$[0,1]$ 上の連続関数で、$f(0)>0>f(1)$ であるとする。

次に、

\begin{displaymath}
g(x) = g(x;\epsilon) = x+\epsilon f(x)\end{displaymath} (3)

とすると ($\epsilon >0$)、$\epsilon$ を十分小さくとれば、 すべての $x\in [0,1]$ に対して $0\leq g(x)\leq 1$ となることを示す。

もしそうでなければ、どんな $n=1,2,3,\ldots $ に対しても $g(x;1/n)=x+f(x)/n$$[0,1]$ に収まることはないので、

\begin{displaymath}
x_n+\frac{1}{n}f(x_n) \not\in [0,1]
\end{displaymath}

となるような点列 $\{x_n\} \subset [0,1]$ が存在することになるが、 この場合、$x_n+f(x_n)/n$ は 1 より大きいか、0 より小さいかのどちらかなので、 1 より大きくなるような $x_n$ 全体と、 0 より小さくなるような $x_n$ 全体の、 少なくとも一方は無限点列となる。

もし、

\begin{displaymath}
x_n+\frac{1}{n}f(x_n) >1\end{displaymath} (4)

となる $x_n$ が無限に存在するとすると、 $f$$[0,1]$ 上の連続関数なので有界だから、 その点列の極限を考えれば (4) より
\begin{displaymath}
1\geq x_n>1-\frac{1}{n}f(x_n) \rightarrow 1
\end{displaymath}

となるので、$x_n$ は 1 に収束することになる。 よって、仮定より $f(1)<0$ なので、 $f(x_{n_0})<0$ となる $n_0$ が取れるはずであるが、 (4) より
\begin{displaymath}
0>f(x_{n_0}) > n_0(1-x_{n_0})\geq 0
\end{displaymath}

となるので矛盾となる。

\begin{displaymath}
x_n+\frac{1}{n}f(x_n) <0\end{displaymath} (5)

となる $x_n$ が無限に存在するとしても、
\begin{displaymath}
0\leq x_n<-\frac{1}{n}f(x_n) \rightarrow 0
\end{displaymath}

より $x_n\rightarrow 0$ となり、$f(0)>0$ なので $f(x_{n_0})>0$ となる $n_0$ が存在することになり、 (5) より
\begin{displaymath}
0<f(x_{n_0})<-n_0x_{n_0}\leq 0
\end{displaymath}

となるので矛盾となる。

よって、$\epsilon$ を十分小さくとれば、 すべての $x\in [0,1]$ に対して $0\leq g(x)\leq 1$ となることがわかり、 これにより $g$$[0,1]$ から $[0,1]$ への連続関数となるから、 ブラウアーの不動点定理を $g(x)$ に適用すれば、 $g(c)=c$ となる $c\in [0,1]$ が存在することが言えることになり、

\begin{displaymath}
g(c)=c+\epsilon f(c) = c
\end{displaymath}

より $f(c)=0$ となる。$f(0)>0>f(1)$ なので、 もちろん $c$$0<c<1$ となるから、 これでブラウアーの定理から中間値の定理が言えたことになる。

なお、$f(a)<f(b)$ の場合も同様であり、 $\epsilon$$-\epsilon$ に変えて同じ議論をすればよい。

竹野茂治@新潟工科大学
2012年4月16日