1 はじめに

たいていの微積分の教科書には、連続関数の性質として、 中間値の定理が紹介されている。


定理 1 (中間値の定理)

閉区間 $[a,b]$ 上の連続関数 $f(x)$ は、 その内部で $f(a)$$f(b)$ の間のすべての値を、 少なくとも一度は取る。 特に、$f(a)f(b)<0$ であれば ($f(a)$$f(b)$ が異符号)、 $f(c)=0$ となるような $c$ ($a<c<b$) が存在する。


これは、連続曲線の始点と終点が直線 $y=0$ の両側にあるとき、 その曲線が必ずその直線と交わる、と見ることもできる。 実際に以下を示すことは容易である。


命題 2

平面内の連続曲線 $C$ の始点と終点が、 同じ平面内の直線 $\ell$ のそれぞれ別の側にあるとき、 $C$$\ell$ とは交点を持つ。


ここで、連続曲線とは以下のようなものであると定義する:

$x(t)$, $y(t)$ が閉区間 $[a,b]$ 上の連続関数のとき、
\begin{displaymath}
(x,y)=(x(t),y(t)) \hspace{1zw}(a\leq t\leq b)
\end{displaymath} (1)

で表される点の集合と $x(t)$, $y(t)$ を セットにして考えたものを 連続曲線 と呼び、 $(x(a),y(a))$始点$(x(b),y(b))$終点 と呼ぶ。
(1) は、曲線の媒介変数表示と呼ばれるが、 曲線 (の点集合) に対して媒介変数表示は一意ではなく、 例えば逆向きの媒介変数表示
\begin{displaymath}
(x,y)=(x(-s),y(-s)) \hspace{1zw}(-b\leq s\leq -a)
\end{displaymath}

などもあるが、この場合は始点と終点が逆になってしまうので、 ここでは媒介変数表示を一つ固定し、それを合わせて曲線と考えることにする。

連続曲線は、回転しても平行移動しても連続曲線なので、 命題 2 は、 連続曲線と $x$ 軸 ($y=0$) の関係に直して考えることができ、 結局 $y=y(t)$ に対する中間値の定理によって 命題 2 が成り立つことが示される。

ところが、命題 2 の直線の方もまた連続曲線である場合、 すなわち連続曲線同士の交点の存在となるとどうであろうか。 連続曲線にはペアノ曲線など、かなり複雑なものがあることも知られていて、 例えば Jordan の閉曲線定理のように、 「連続」という仮定しかないような曲線の性質の証明は結構難しい。

本稿では、その連続曲線同士の交点について考察する。

竹野茂治@新潟工科大学
2012年4月16日