3 2 変数関数の極限
次に 2 変数関数 の極限や連続性の定義について考える。
2 変数の極限 (5) は、
と書かれることもあるが、これは 2 重極限
(6)
とは意味が異なり、実際にこれらは等しいとは限らない。
また、この 2 変数の極限 (5) において、
は、
と同じ意味になるが、しかし極限の記述については注意が必要である。
すなわち、(5) を
(7)
と書いてもよいかというと、それは少し問題があると思う。
上に書いた、
(5) と (6) の違い、
および (5) と (7) の
違いについて例を用いて説明しよう。
まずは (5) と (6) の
違いから。今、, に対して、 を
(8)
と定める。
これは については で連続で、
任意の に対して
(9)
となる。これに対し、2 変数関数 を、
(10)
と定めると、 に対しては (9) より
(11)
となる。一方、 に対して
とすると、
(8) より では
なので、
では
(12)
となる。
よって、(11), (12) より の 2 重極限は
となって両者は一致しない。
なお、(8), (10) より、
なので、 の近くには、
が 0 になる点と 1 になる点がいくらでも存在し、
よって は では連続ではないことがわかる。
では、 が で連続であれば、
2 重極限 (6) も、
(5) の極限である に
一致するだろうか。
それについては、次のような例を考える。
とすると、
のとき
となるので、
は の範囲を限りなく振動し、極限を持たない。
よって、 に対し、
は存在しない。
一方、 は有界なので、
となる。そして が の近くの場合、例えば、
, では、
となり、 の近くで はいくらでも
小さくできるので、
となる。
よって、 は、 で連続であるが、
が存在しない例になっている。
つまり、 で連続であっても 2 重極限 (6) は に
一致するとは限らない。
この では
となっているが、
を少し変えれば (6) の両方が存在しない
ものも作れる。
とすると、
はどちらも存在しないが、, ならば、
なので、 は の近くでいくらでも小さくでき、
よって は (0,0) で連続であるが、
(6) の両方が存在しない例となっている。
一方で、 が で連続で、
のように 2 重極限が存在すれば、, と
なることが言える。(両方存在する必要はなく、
一方が存在すればそれは になる。)
つまり、 が で連続であれば、
や が存在しない例は作れても、
や が存在してそれが と異なるような例を
作ることはできない。これを以下に示そう。
の方のみ考えれば十分である。
今、 が で連続で、
の極限は存在するが、それが とは違うと仮定し、
矛盾を示す (背理法)。
は で連続なので の近くでは
の値はいくらでも に近づけることができる。
よって、
より、
「, の に対し
(13)
となる」
ような正数 を取ることができる。
この (13) で
とすると
が成り立つ。さらにこの式で
とすれば
となり、これは でしか成り立たず、
の仮定に矛盾する。
よって、 であることが示されたことになる。
次は、(5) と (7) の
違いについて考える。
これは、(5) の「2 変数の極限」を、
(7) の「1 変数の極限」のように書くと
誤解を招きかねない、という話である。
は 2 変数の関数だが、
と、 を使って、極座標的に
のようにして、
では と を 1 対 1 に変数変換できる。これにより
(14)
と書くことにすると、(7) の極限は、
であるようにも見えてしまうが、
この最後の極限は、(4) で説明した 2 変数関数の、
片方の変数 を固定した極限になってしまう。
(5) は
がどの方向から に近づいても が に
近づくことを意味するので、当然この最後の極限も含んでいて
(15)
となる。
一方、すべての に対して (15) が
成り立ったとしても (5) が成り立つとは
限らない。そのような例を次に示す。
,
に対し、
とし、この (および ) に対応する (14) の の関数 を とする (
)。
すると、(9) より、
すべての
に対し
となるが、
という曲線を考えると、
は に関して減少し、
で 0 に近づくので、
この曲線上の点は
に対して
らせん状に原点に近づいていく。
しかし、この 上では、 は、
となり、よって
となる。
すなわち、 は各固定した に関して
と
すると 0 に、 に沿っては 1/2 に近づくことになり、よって
は存在しないことになる。
つまり、すべての に対して (15) が
成り立ったとしても、(5) が成り立つとは
限らないことになる。
より細かく考えれば、(5) の方は、
任意の
に対し、
「, ならば
」
となるような正数 が取れるということを意味するが、
この「, 」の条件は、
より、
「
」という条件に書き直すことができる。
すなわち、
「
ならば
」
とできるので、よって で書けば
「 ならば
」
という形になる。問題は、
これが「すべての に対して成り立つ必要がある」ことで、
すなわち、
「 ならば
」
であることであるから、
つまり (5) と同値なのは、
「すべての に対して (15) が成り立つこと」
ではなく、
「(15) が に対して一様に成り立つこと」、
すなわち
が (5) と同値だということになる。
こう見ると、これと (15) の違いはよくわかるであろう。
このように考えると、(5) を
(7) のような「1 変数の極限」のように
書くことは危険だといえるだろう。
なお、 の例で、 とすれば、
は、各 方向にはいずれも連続、すなわち
であるが、2 変数関数としては で連続ではない、
という例にもなっている。
竹野茂治@新潟工科大学
2023-06-19