1 はじめに

2 変数 (および 3 変数以上) の関数について、 工学部の講義では偏微分の計算や接平面、1 次近似式としての全微分
  $\displaystyle
dz = \frac{\partial z}{\partial x}\,dx + \frac{\partial z}{\partial y}\,dy$ (1)
などは説明するが、「全微分可能性」について触れることはあまりないし、 そもそも工学部向けの教科書は「全微分可能性」について書いて なかったりもする。

しかし、「全微分可能性」は、1 変数の微分可能性に対応する 多変数関数の「微分可能性」を示すものであるし、 講義では説明しないが接平面の存在を保証したり、 合成関数の微分の公式にも関係するものでもあるから、 それなりに重要な概念であり、 可能であれば工学部の学生も知っておいた方がいいものだと思う。 そこで、本稿ではこの「全微分可能性」とその周辺の話題について いくつか取り上げる。

また、「複素関数論」で出てくる複素関数の複素微分可能性も、 この全微分可能性と深い関係がある。 本稿ではそれについても解説する。

竹野茂治@新潟工科大学
2023-06-19