1 はじめに

基礎数理 IV の教科書 [1] に、 2 変数関数の極大、極小の判別の定理として以下の定理 38.2 が紹介されている。

定理 38.2.
$f(x,y)$ について $(a,b)$ の近くで 2 次偏導関数が連続で
\begin{displaymath}
f_x(a,b)=0,\hspace{1zw}f_y(a,b)=0
\end{displaymath} (1)

とする。
\begin{displaymath}
f_{xx}(a,b)=A,
\hspace{0.5zw}f_{xy}(a,b)=B,
\hspace{0.5zw}f_{yy}(a,b)=C
\end{displaymath} (2)

とおくと、
  1. $B^2-AC<0$ のとき、$f(a,b)$ は極値であり、
    $A>0$ ならば極小、$A<0$ ならば極大である。
  2. $B^2-AC>0$ のとき、$f(a,b)$ は極値でない。

この定理の証明は、この教科書 [1] もそうだが、 2 変数関数のテイラー展開と、2 次形式の評価によるものが多い。 しかし、その方法は、微小評価や 2 次形式に不慣れな学生には 不向きではないかと思う。

本稿では、方向微分を用いることで、 1 変数関数の場合の極の判別法を応用した、 定理 38.2 の別の証明法を紹介することにする。

1 変数関数の場合の極の判別法として、 この教科書 [1] には、凸性を利用した次の定理が紹介されている。

定理 17.4.
$f(x)$ について、$x=c$ を含む区間で $f''(x)$ が連続で、 $f'(c)=0$ とする。このとき、
  1. $f''(c)>0$ ならば、$f(x)$$x=c$ で極小となる。
  2. $f''(c)<0$ ならば、$f(x)$$x=c$ で極大となる。
$f''(c)>0$ ならば $c$ の付近で $f''(x)>0$ となり、 よって $c$ の近くでは下に凸となるから、 $f'(c)=0$ より極小となることが言える、という論法である。

この定理 17.4 では、$f''(c)=0$ の場合に極かどうかの判定ができないものの、 通常の、増減表を書いて $f'(x)$$x=c$ 以外での符号を調べる方法に比べ、 $c$ での $f'(x)$, $f''(x)$ の符号を見るだけで良いという点で優れている。

2 変数の極の判別では、増減表を 2 次元的に書くことはできないので、 定理 38.2 は、むしろこの定理 17.4 に近く、 停留点での 2 階微分係数の符号を利用したものなのであるが、 本稿では、その定理 17.4 をより積極的に利用した証明を提示する。

竹野茂治@新潟工科大学
2014年11月14日