5 複素数を利用した三角関数の有理関数の積分

三角関数は、複素数を用いて指数関数に直す方が、 式の操作が容易になる場合が多い。 例えば、$e^{ax}\cos bx$ のような関数の積分は、 通常は 2 回の部分積分により元の積分の定数倍の式を導いて、
\begin{eqnarray*}I
&=&
\int e^{ax}\cos bx  dx
= \int\frac{1}{a}(e^{ax})'\c...
... \frac{e^{ax}}{a^2}(a\cos bx + b\sin bx)
- \frac{b^2}{a^2}(I+C)\end{eqnarray*}


とし、右辺の $I$ の項を左辺に移行して、
\begin{displaymath}
\left(1+ \frac{b^2}{a^2}\right)I
=\frac{e^{ax}}{a^2}(a\cos bx + b\sin bx) -  \frac{b^2}{a^2}C
\end{displaymath}

より
\begin{displaymath}
I = \frac{e^{ax}}{a^2+b^2}(a\cos bx + b\sin bx) -  \frac{b^2C}{a^2+b^2}
\end{displaymath}

という形で求めるが、これを複素数を用いて、
\begin{eqnarray*}I
&=&
\int e^{ax}\cos bx dx
=
\int e^{ax} \frac{e^{ibx}...
...e^{-ibx}\}+C
 &=&
\frac{e^{ax}}{a^2+b^2}(a\cos bx+b\sin bx)+C\end{eqnarray*}


とする方が部分積分による方法よりも直感的、機械的で分かりやすい。 これと同様のことを $I_2$ に対して考えてみる。

オイラーの公式 $e^{ix}=\cos x+i\sin x$ より、 $\cos x = (e^{ix}+e^{-ix})/2$ と書けるから、

\begin{displaymath}
\frac{1}{p+\cos x}
= \frac{2}{2p+e^{ix}+e^{-ix}}
= \frac{2e^{ix}}{e^{2ix}+2pe^{ix}+1}
\end{displaymath}

となる。形式的には、$t=e^{ix}$ と置くと $dt=ie^{ix}dx$ なので、
\begin{displaymath}
I_2
= \int\frac{2}{i} \frac{ie^{ix}}{e^{2ix}+2pe^{ix}+1} dx
= \int\frac{2}{i} \frac{dt}{t^2+2pt+1}
\end{displaymath}

となるが、このようにすると $t$ は実数変数ではなく、複素数変数となり、 厳密には複素関数論の線積分になってしまい、 実数変数の複素数値関数の範囲を越えてしまう。 よって、ここではそれを避け、(9) を 利用することにする。 すなわち、分子の $ie^{ix}$ は使わずに、
\begin{displaymath}
\frac{2}{i} \frac{1}{e^{2ix}+2pe^{ix}+1}
= \frac{\gamma}{e^{ix}+\alpha}+\frac{\delta}{e^{ix}+\beta}
\end{displaymath}

の形の部分分数分解を行い、それにより $I_2$
\begin{displaymath}
I_2
= \int\left(\frac{\gamma ie^{iex}}{e^{ix}+\alpha}
+\fr...
...alpha}
+\delta\frac{(ie^{ix}+\beta)'}{e^{ix}+\beta}\right\}dx
\end{displaymath}

のように変形して (9) を適用して 複素対数で表す、という方針である。

まず、$t^2+2pt+1=0$ の解は、 $t=-p\pm\sqrt{p^2-1}$ ($p>1$ より 実数解) なので、 $\alpha=p-\sqrt{p^2-1}$, $\beta=p+\sqrt{p^2-1}$ とすれば、 $t^2+2pt+1=(t+\alpha)(t+\beta)$ と因数分解される。 なお、解と係数の関係より $\alpha$ $\alpha = 1/\beta$ と 書けることに注意する。 これにより、

\begin{eqnarray*}\frac{2}{i} \frac{1}{e^{2ix}+2pe^{ix}+1}
&=&
\frac{2}{i} \...
...-1}}
\left(\frac{1}{e^{ix}+\alpha}-\frac{1}{e^{ix}+\beta}\right)\end{eqnarray*}


となるので、$I_2$
\begin{displaymath}
I_2
=\frac{1}{i\sqrt{p^2-1}}\int\left\{
\frac{(e^{ix}+\alph...
...^{ix}+\alpha}
-\frac{(e^{ix}+\beta)'}{e^{ix}+\beta}\right\}dx
\end{displaymath}

と書ける。

ここで、$p>1$ より $\beta=p+\sqrt{p^2-1}>1$ であり、$e^{ix}+\beta $ は、 $\beta$ 中心の半径 1 の円周上を動くので、実軸の左半分とは 交わらない (図 5 の右側の円)。 一方、$e^{ix}+\alpha $$\alpha$ 中心の半径 1 の円周上を動くが、 $0<\alpha=1/\beta < 1$ だからその円周の内部に原点があり、 実軸の左半分とこの円周とは交わる (図 5 の左側の円)。

図 5: $e^{ix}+\alpha $$e^{ix}+\beta $ の描く円
\includegraphics[width=0.5\textwidth]{qf5-2circle.eps}
よって、とりあえず $-\pi<x<\pi$ の範囲で考えることにすれば、 $e^{ix}+\alpha $ は実軸の左半分とは交わらない。 この範囲では、(9) により
$\displaystyle I_2$ $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{1}{i\sqrt{p^2-1}} \{\mathop{\rm Log}(e^{ix}+\alpha)-\mathop{\rm Log}(e^{ix}+\beta)\} + C_1$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{1}{i\sqrt{p^2-1}}\left\{
\log\frac{ \vert e^{ix}+\alpha\ve...
...}
+\mathop{\rm Arg}(e^{ix}+\alpha)-\mathop{\rm Arg}(e^{ix}+\beta)\right\} + C_1$ (19)

となる。ここで、命題 1 より、
\begin{eqnarray*}\mathop{\rm Arg}(e^{ix}+\alpha)-\mathop{\rm Arg}(e^{ix}+\beta)
...
...2n_1\pi
 &=&
\arg\frac{e^{ix}+\alpha}{e^{ix}+\beta} + 2n_2\pi\end{eqnarray*}


であり、 $0<\alpha<1<\beta$ より、
\begin{eqnarray*}0<x<\pi
&\mbox{ $\Longrightarrow$ }&
0<\mathop{\rm Arg}(e^{i...
...thop{\rm Arg}(e^{ix}+\alpha) = \mathop{\rm Arg}(e^{ix}+\beta) = 0\end{eqnarray*}


なので、いずれにせよ
\begin{displaymath}
-\pi<\mathop{\rm Arg}(e^{ix}+\alpha)-\mathop{\rm Arg}(e^{ix}+\beta)<\pi
\end{displaymath}

となり、よってこれは主値の範囲なので、
\begin{displaymath}
\mathop{\rm Arg}(e^{ix}+\alpha)-\mathop{\rm Arg}(e^{ix}+\beta)
= \mathop{\rm Arg}\frac{e^{ix}+\alpha}{e^{ix}+\beta}\end{displaymath} (20)

となることがわかる。 なお、このような $2n\pi$ の差や主値の範囲の議論は不定積分では省略し、
\begin{displaymath}
\mathop{\rm Arg}(e^{ix}+\alpha)-\mathop{\rm Arg}(e^{ix}+\bet...
...= \mathop{\rm Arg}\frac{e^{ix}+\alpha}{e^{ix}+\beta} + 2n_3\pi
\end{displaymath}

として、最後の定数の部分は積分定数に含めて済ませてしまうことも多い。

結局 (20) により、(19) は

\begin{displaymath}
I_2
=\frac{1}{i\sqrt{p^2-1}} 
\log\frac{ \vert e^{ix}+\...
...^2-1}}\mathop{\rm Arg}\frac{e^{ix}+\alpha}{e^{ix}+\beta}
+ C_1\end{displaymath} (21)

となる。次は、このそれぞれの項を見てみる。

まず、 $\log(\vert e^{ix}+\alpha\vert/\vert e^{ix}+\beta\vert)$ であるが、

\begin{displaymath}
\frac{ \vert e^{ix}+\alpha\vert^2 }{\vert e^{ix}+\beta\ver...
...^2 x}
=\frac{1+2\alpha\cos x+\alpha^2}{1+2\beta\cos x+\beta^2}
\end{displaymath}

であり、 $\alpha = 1/\beta$ だったので、
\begin{displaymath}
\frac{1+2\alpha\cos x+\alpha^2}{1+2\beta\cos x+\beta^2}
=\fr...
...a^2+2\beta\cos x+1}{1+2\beta\cos x+\beta^2}
=\frac{1}{\beta^2}
\end{displaymath}

となる。よって、この対数の項は
\begin{displaymath}
\log\frac{ \vert e^{ix}+\alpha\vert }{\vert e^{ix}+\beta\vert}
= -\log\beta\end{displaymath} (22)

と定数になり、この部分は積分定数に取り込まれることになる (実際は $1/(i\sqrt{p^2-1})$ 倍がつくので純虚数の定数)。 なお、この計算は、$\cos x$, $\sin x$ に直さなくても、 最初から $\alpha = 1/\beta$ を使って、
\begin{displaymath}
\frac{ \vert e^{ix}+\alpha\vert }{\vert e^{ix}+\beta\vert...
...^{ix}+\beta}\vert }{\vert e^{ix}+\beta\vert}
=\frac{1}{\beta}\end{displaymath} (23)

とすることもできる (少し高度) し、元々 $I_2$ は実数値なので、 (21) の実数部分のみ考えればよく、 よって $\log$ の方の項は最初から不要である、と見ることもできる。

次は、 $(e^{ix}+\alpha)/(e^{ix}+\beta)$ の偏角であるが、 正の実数 $a$ に対して $\mathop{\rm Arg}az = \mathop{\rm Arg}z$ となること、 および $\alpha=p-\sqrt{p^2-1}$, $\beta=p+\sqrt{p^2-1}$, $\alpha = 1/\beta$ であることに注意すると、

\begin{eqnarray*}\lefteqn{\mathop{\rm Arg}\frac{e^{ix}+\alpha}{e^{ix}+\beta}
=
...
...=&
\mathop{\rm Arg}\left(1+p\cos x +i\sqrt{p^2-1} \sin x\right)\end{eqnarray*}


となるが、$p>1$ より $1+p\cos x$ は、$0<x<\pi$ の範囲、 および $-\pi<x<0$ の範囲で符号が変わりうるので、 (6) ではなく (7) を 用いると
\begin{displaymath}
\mathop{\rm Arg}\frac{e^{ix}+\alpha}{e^{ix}+\beta}
= -\arctan\frac{1+p\cos x}{\sqrt{p^2-1} \sin x}+\gamma(x)\end{displaymath} (24)

と書くことができる。ここで $\gamma(x)$ は、 $0<x<\pi$ ならば $\gamma(x)=\pi/2$, $0>x>-\pi$ ならば $\gamma(x)=-\pi/2$ である。 なお、(24) の右辺は一見 $x=0$ で不連続なようだが、
\begin{eqnarray*}\lim_{x\rightarrow +0}{\left\{-\arctan
\frac{1+p\cos x}{\sqrt{...
...=&
- \lim_{y\rightarrow -\infty}{\arctan y} - \frac{\pi}{2} = 0\end{eqnarray*}


となり、連続になっている。

(21), (22), (24) より $I_2$ は、

\begin{displaymath}
I_2
= -\frac{1}{\sqrt{p^2-1}}\left(\arctan
\frac{1+p\cos x}{\sqrt{p^2-1} \sin x}-\gamma(x)\right)
+ C_2\end{displaymath} (25)

となる。しかし、この式と (14) とは かなり違った形になっている。

偏角の計算で他の方法を取ると、また違う式が得られる。 $\alpha = 1/\beta$ を用いると、

\begin{displaymath}
\mathop{\rm Arg}\frac{e^{ix}+\alpha}{e^{ix}+\beta}
=
\mathop...
...=
\mathop{\rm Arg}e^{ix} \frac{\beta + e^{-ix}}{e^{ix}+\beta}
\end{displaymath}

と書けるが、 $e^{ix}+\beta=\overline{\beta + e^{-ix}}$ より $\mathop{\rm Arg}(e^{ix}+\beta)=-\mathop{\rm Arg}(\beta + e^{-ix})$ なので、
\begin{eqnarray*}\mathop{\rm Arg}e^{ix} \frac{\beta + e^{-ix}}{e^{ix}+\beta}
&...
...\beta - i\sin x)
 &=&
x-2\arctan\frac{\sin x}{\cos x + \beta}\end{eqnarray*}


となる。

なお、$0<x<\pi$ のとき $-\pi/2<\mathop{\rm Arg}(\beta + e^{-ix})<0$ より $-\pi<x+2\mathop{\rm Arg}(\beta + e^{-ix})<\pi$ で、 $-\pi<x<0$ のときも $0<\mathop{\rm Arg}(\beta + e^{-ix})<\pi/2$ より $-\pi<x+2\mathop{\rm Arg}(\beta + e^{-ix})<\pi$ となるから、 この式には $\pm\pi$ は必要ない。

よって、$I_2$

\begin{displaymath}
I_2
= \frac{1}{\sqrt{p^2-1}}\left(x
-2\arctan\frac{\sin x}{p+\sqrt{p^2-1}+\cos x}\right)
+ C_3\end{displaymath} (26)

とも書けることになる。

さらに、最初から (14) を意識し、分子分母を $e^{ix/2}$ で 割って

\begin{displaymath}
\mathop{\rm Arg}\frac{e^{ix}+\alpha}{e^{ix}+\beta}
=
\mathop...
... Arg}\frac{\beta e^{ix/2}+e^{-ix/2}}{e^{ix/2}+\beta e^{-ix/2}}
\end{displaymath}

と変形すると、この分母は分子の共役なので、
\begin{eqnarray*}\mathop{\rm Arg}\frac{\beta e^{ix/2}+e^{-ix/2}}{e^{ix/2}+\beta ...
...\left((\beta+1)\cos\frac{x}{2}
+i(\beta-1)\sin\frac{x}{2}\right)\end{eqnarray*}


となる。$-\pi<x<\pi$ より $\cos(x/2)>0$ なので、 (6) より、
\begin{displaymath}
2\mathop{\rm Arg}\left((\beta+1)\cos\frac{x}{2}
+i(\beta-1)...
...right)
=
2\arctan\frac{(\beta-1)\sin(x/2)}{(\beta+1)\cos(x/2)}
\end{displaymath}

となるが、
\begin{displaymath}
\frac{\beta-1}{\beta+1}
=
\frac{p-1+\sqrt{p^2-1}}{p+1+\sq...
... {\sqrt{p+1}(\sqrt{p+1}+\sqrt{p-1})}
=
\sqrt{\frac{p-1}{p+1}}\end{displaymath} (27)

なので、結局
\begin{displaymath}
\mathop{\rm Arg}\frac{e^{ix}+\alpha}{e^{ix}+\beta}
=
2\arcta...
...=
2\arctan\left(\sqrt{\frac{p-1}{p+1}} \tan\frac{x}{2}\right)
\end{displaymath}

となり、よって、(21), (22) よりこの場合は直接 (14) が得られることがわかる。

さて、(25), (26) と (14) の 関係についても見ておこう。

まず、(25) であるが、$T=\tan(x/2)$ と書くこととし、 倍角の公式を用いると、

\begin{eqnarray*}\cos x &=& 2\cos^2\frac{x}{2}-1 = \frac{2}{1+\tan^2(x/2)}-1
=...
...rac{x}{2} = 2\tan\frac{x}{2}\cos^2\frac{x}{2}
= \frac{2T}{1+T^2}\end{eqnarray*}


となるので、
\begin{eqnarray*}\frac{1+p\cos x}{\sqrt{p^2-1} \sin x}
&=&
\frac{1+T^2+p(1-T^...
...2T}\sqrt{\frac{p+1}{p-1}} - 
\frac{T}{2}\sqrt{\frac{p-1}{p+1}}\end{eqnarray*}


と書ける。ここで、 $\phi=\arctan\left(T\sqrt{(p-1)/(p+1)}\right)$ と すると、
\begin{eqnarray*}\lefteqn{\frac{1}{2T}\sqrt{\frac{p+1}{p-1}} - 
\frac{T}{2}\s...
...ac{\pi}{2}-2\phi\right)
=
\tan\left(-\frac{\pi}{2}-2\phi\right)\end{eqnarray*}


となる。

$0<x<\pi$ なら $T=\tan(x/2)>0$ より $0<\phi<\pi/2$、よって $-\pi/2<\pi/2-2\phi<\pi/2$ となるので、

\begin{displaymath}
\arctan\frac{1+p\cos x}{\sqrt{p^2-1} \sin x}
=\arctan\left(\tan\left(\frac{\pi}{2}-2\phi\right)\right)
=\frac{\pi}{2}-2\phi
\end{displaymath}

となる。 同様に、$0>x>-\pi$ なら $T=\tan(x/2)<0$ より $0>\phi>-\pi/2$、 よって $-\pi/2<-\pi/2-2\phi<\pi/2$ となるので、
\begin{displaymath}
\arctan\frac{1+p\cos x}{\sqrt{p^2-1} \sin x}
=\arctan\left(...
...\left(-\frac{\pi}{2}-2\phi\right)\right)
=-\frac{\pi}{2}-2\phi
\end{displaymath}

となる。よって、いずれの場合も、
\begin{displaymath}
\arctan\frac{1+p\cos x}{\sqrt{p^2-1} \sin x} - \gamma(x)
=-...
...=-2\arctan\left(\sqrt{\frac{p-1}{p+1}} \tan\frac{x}{2}\right)
\end{displaymath}

となるので、よって $-\pi<x<\pi$ の範囲で (25) は 確かに (14) に一致することがわかる。

次は (26) と (14) の関係を見る。

$\displaystyle x-2\arctan\frac{\sin x}{\cos x + \beta}$ $\textstyle =$ $\displaystyle 2\left(\frac{x}{2}-\arctan\frac{\sin x}{\cos x + \beta}\right)$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle 2\left\{\arctan\left(\tan\frac{x}{2}\right)
-\arctan\frac{\sin x}{\cos x + \beta}\right\}$ (28)

となるが、次の加法定理によりこれを一つにまとめることができる。


命題 4

$\alpha=\arctan X$, $\beta=\arctan Y$ に対して、


証明

$\tan\alpha=X$, $\tan\beta=Y$ より、 $\alpha+\beta\neq\pm\pi/2$ のとき、

\begin{displaymath}
\tan(\alpha+\beta)
= \frac{\tan\alpha+\tan\beta}{1-\tan\alpha\tan\beta}
= \frac{X+Y}{1-XY}
\end{displaymath}

となる。よって、 $\alpha+\beta<-\pi/2$ ならば、 $-\pi<\alpha+\beta<-\pi/2$ より
\begin{displaymath}
\tan(\alpha+\beta+\pi) = \tan(\alpha+\beta)
= \frac{X+Y}{1-XY},
\hspace{0.5zw}0<\alpha+\beta+\pi<\frac{\pi}{2}
\end{displaymath}

なので、
\begin{displaymath}
\alpha+\beta+\pi = \arctan\frac{X+Y}{1-XY}
\end{displaymath}

となり、よって
\begin{displaymath}
\arctan X + \arctan Y = \alpha+\beta = \arctan\frac{X+Y}{1-XY} - \pi
\end{displaymath}

が得られる。 $-\pi/2<\alpha+\beta<\pi/2$ の場合、 $\pi/2<\alpha+\beta$ の場合も同様である。

(30) は、(29) で $Y$$-Y$ と すれば得られる。


今、$-\pi<x<\pi$ として (28) の $\arctan$ の差を 考えると、$0<x<\pi$ ならば $\tan(x/2)>0$, $\sin x/(\cos x+\beta)>0$ より それらの $\arctan$ の値はそれぞれ $0$ から $\pi/2$ の間にあり、 その差は $-\pi/2$ から $\pi/2$ の間にある。 $0>x>-\pi$ の場合も $\tan(x/2)<0$, $\sin x/(\cos x+\beta)<0$ より それらの $\arctan$ の差は $-\pi/2$ から $\pi/2$ の間にある。 よって、命題 4 により

\begin{displaymath}
\arctan\left(\tan\frac{x}{2}\right)
-\arctan\frac{\sin x}{\c...
...(x/2)-\sin x/(\cos x+\beta)}{1+\tan(x/2)\sin x/(\cos x+\beta)}
\end{displaymath}

となる。 ここで、前と同様に $T=\tan(x/2)$ とすれば、
\begin{eqnarray*}\frac{\sin x}{\cos x+\beta}
&=&
\frac{2T/(1+T^2)}{(1-T^2)/(1...
...{(1-T^2)+(1+T^2)\beta}
 &=&
\frac{2T}{(\beta+1)+(\beta-1)T^2}\end{eqnarray*}


より、 (27) より、
\begin{eqnarray*}\lefteqn{%
\frac{\tan(x/2)-\sin x/(\cos x+\beta)}{1+\tan(x/2)\...
...a-1}{\beta+1} T
 &=&
\sqrt{\frac{p-1}{p+1}} \tan\frac{x}{2}\end{eqnarray*}


となることがわかる。 これと (28) により、 $-\pi<x<\pi$ では (26) が (14) に 一致することがわかる。

しかも、(26) の右辺のかっこの中の式を $H(x)$ と すると、$p>1$ より $H(x)$ はすべての $x$ に対して滑らかであり、 明らかに $H(-x) = H(x)$, $H(x+2\pi)=H(x)+2\pi$ が成り立つので、 この $H(x)$ は実は (18) の $G_0\left(x/2,\sqrt{(p-1)/(p+1)}\right)$ に等しく、 つまり (26) は、$I_2$ の、すべての $x$ で連続な 原始関数を与えていることがわかる。

(14) の式は元々 $-\pi<x<\pi$ に対してしか成り立たず、 すべての $x$ に対して滑らかな原始関数を持つはずの $I_2$ を 表現するためには、(18) のように $G_0$ を 導入しなければいけなかったが、 それは実は (26) のような式で容易に表わされることがわかり、 よって (14) よりも (26) の方が むしろ優れていると見ることもできる。

しかし、逆に複素数を使わずに普通に置換積分による不定積分を行っても、 なかなか (26) の式にはたどりつけない。

竹野茂治@新潟工科大学
2016年12月22日