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5 最後に

今回証明した定理 1 により、確かに教科書に書かれているような 部分分数分解が行なえることが保障され、 ただ一組存在することにより未定係数法の係数に関する方程式が ちゃんと解けることが保障される。

また、この証明で用いた方法を利用して、 互除法によって実際に部分分数分解を行うことも可能ではあるが、 通常の未定係数法による方がずっと楽であり、手間もかからない。 よって、この証明自体は部分分数分解の計算にはさほど意味はない。

なお、4 節で述べたように、 原理的には実数係数の $n$ の整式は、 常に実数係数の 1 次式と 2 次式の積の因数の形に 因数分解されるはずなのであるが、 しかし、実際にそれを行うのは容易ではない。

例えば、4 次までの代数方程式には累乗根による解の公式が知られているので、 分母が 4 次式以下ならばとりあえずそのような形に因数分解することは可能であるが、 5 次以上の代数方程式には累乗根による解の公式はない。 「ない」というのは、そのような公式がまだ見つかっていないということではなく、 実は「そういう公式を作ることができない」ということまでちゃんと証明されている。 例えば 5 次方程式は複素数の範囲で確かに 5 つの複素数解を持つのであるが、 それを具体的に累乗根を使って求めることは一般には無理であり (もちろんちゃんと解ける 5 次方程式もある)、 よって、分母が 5 次式の場合は、特殊な場合を除いては手がだせないことになる。

「理論的に正しい」ことと、「それが計算可能であること」の間には 大きな違いがあるが、この辺りの事情もそのようなものを意味している。


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竹野茂治@新潟工科大学
2006年6月2日