3 転置行列


定理 2

転置行列 ${}^t\!A$ に対して、

\begin{displaymath}
\vert{}^t\!A\vert=\vert A\vert
\end{displaymath} (4)


この定理の証明は、次のように帰納法を使って証明される。

$n=1,2$ のときは明らかに成立する。 よって、$(n-1)$ 次、$(n-2)$ 次に対しては成り立つとして、 $n$ 次の場合に成り立つことを証明する $(n\geq 3)$

定義 (1) より、

\begin{displaymath}
\vert{}^t\!A\vert
=
\vert[a_{ji}]\vert
=
\sum_{p=1}^n(-1)^{p...
...=
a_{11}\Delta_{11}({}^t\!A)-a_{12}\Delta_{21}({}^t\!A)+\cdots
\end{displaymath}

となるが、 $\Delta_{ij}({}^t\!A)$
${}^t\!A$ から $i$ 行目、$j$ 列目を取り除いた行列の行列式」
なので、よって
$A$ から $j$ 行目、$i$ 列目を取り除いた行列を転置したものの行列式」
となり、これは $(n-1)$ 次の行列式であるから、 帰納法の仮定により、転置したものの行列式は転置する前の行列の行列式に等しい。 よって、
\begin{displaymath}
\Delta_{ij}({}^t\!A)=\Delta_{ji}(A)\end{displaymath} (5)

となることが言える。 よって、
\begin{displaymath}
\vert{}^t\!A\vert
=
\sum_{p=1}^n(-1)^{p+1}a_{1p}\Delta_{1p}(A)
=
a_{11}\Delta_{11}(A)-a_{12}\Delta_{12}(A)+\cdots\end{displaymath} (6)

となる1。 この (6) の 2 番目以降の $\Delta_{1p}(A)$ ($p\geq 2$) は、$A$ の 1 行目と $p$ 列目を取り除いた行列式であり、 その行列式の 1 列目は、$A$ の 1 列目の 2 行目以下の成分に等しい。

よって、 $\Delta_{1p}(A)$ を 1 列目で展開すると、

\begin{displaymath}
\Delta_{1p}(A) = \sum_{q=2}^n(-1)^q a_{q1}\Delta_{1p,q1}(A)\end{displaymath} (7)

となる。ここで、 $\Delta_{ij,kl}(A)$ は、 $A$ から $i$ 行目と $j$ 列目、 および ($A$ の) $k$ 行目と $l$ 列目を取り除いた $(n-2)$ 次の行列式を 表すものとする。

一方で $q\geq 2$ に対し (5) より

\begin{displaymath}
\Delta_{q1}(A)= \Delta_{1q}({}^t\!A)
\end{displaymath}

であり、この右辺の行列式を 1 列目で展開すれば、 これは (6) で見たように $\Delta_{q1}(A)$ を 1 行目で展開した式となるが、 $q\geq 2$ より $\Delta_{q1}(A)$ の 1 行目は $A$ の 1 行目の 2 列目以降の成分に等しいので、
\begin{displaymath}
\Delta_{q1}(A)=\sum_{p=2}^n(-1)^p a_{1p}\Delta_{q1,1p}(A)\end{displaymath} (8)

となる。

明らかに $\Delta_{1p,q1}(A)=\Delta_{q1,1p}(A)$ であるので よって、(6), (7), (8) と行列式の定義より、

\begin{eqnarray*}\vert{}^t\!A\vert
&=&
a_{11}\Delta_{11}(A) + \sum_{p=2}^n (-1...
...sum_{q=1}^n (-1)^{q+1} a_{q1}\Delta_{q1}(A)
\\ &=&
\vert A\vert\end{eqnarray*}


となる。

竹野茂治@新潟工科大学
2006年12月8日