1 はじめに

[2] では、等エントロピー的な気体の 1 次元運動方程式に対する 補償コンパクト性理論による弱解の存在証明について、 $\tau$ が整数である場合の従来の方法 [3] の一つの 簡略化を示した。 ここで、$\tau$ は、気体の断熱定数 $\gamma$ ($1<\gamma<3$) に 対して、
  $\displaystyle
\tau = \frac{3-\gamma}{2(\gamma-1)}$ (1)
によって決まる正の定数。

$\tau$ が非整数の場合は、Darboux の公式によってあたえられる 一般化エントロピーの分数階微分の計算、評価によって、 補償コンパクト性理論により [4],[5],[6] 等で 弱解の存在証明が得られているが、$\tau$ が整数の場合に対して それは格段に難しく複雑である。

その一般化エントロピーは、 以下のような関数 $F_\ell(x)$ を用いて構成される。

  $\displaystyle
F_\ell(x)=\left\{\begin{array}{ll}
\displaystyle \int_0^1 y^{\t...
...1-y)^\tau(x-y)^{-(\tau)}dy & (0<x<1)
\end{array}\right. \hspace{1zw}(\ell=0,1)$ (2)
ここで $(\tau)$$\tau$ の小数部分を意味する。

[2] を $\tau$ が非整数な場合に拡張、 すなわち [4],[5],[6] の証明の簡略化を行うには、 $F_\ell$$[\tau]+2$ 階までの導関数、 およその $x\rightarrow +0$, $x\rightarrow 1\pm 0$, $x\rightarrow \infty $ の 極限とその収束 order の評価が必要になる。

本稿では、(2) を少し一般化した以下の関数を考える。

$\displaystyle H_{+}(x;\alpha,\beta,\gamma)$ $\textstyle =$ $\displaystyle \int_0^1 y^{\alpha-1}(1-y)^{\beta-1}(x-y)^{\gamma}dy
\hspace{1zw}(x>1,\alpha>0,\beta>0)$(3)
$\displaystyle H_{-}(x;\alpha,\beta,\gamma)$ $\textstyle =$ $\displaystyle \int_0^x y^{\alpha-1}(1-y)^{\beta-1}(x-y)^{\gamma}dy$ 
    $\displaystyle \hspace{1zw}(0<x<1,\alpha>0,\gamma>-1)$(4)
ここで、$\alpha$, $\beta$, $\gamma$ はいずれも整数ではないとする。 (3), (4) の条件を満たす $\alpha$, $\beta$, $\gamma$ についてはこれらの積分は収束し、 $H_{\pm }$ により (2) の $F_\ell$
$\displaystyle F_\ell(x)=\left\{\begin{array}{ll}
H_{+}(x;\tau+\ell+1,\tau+1,-(\tau)) & (x>1)\\
H_{-}(x;\tau+\ell+1,\tau+1,-(\tau)) & (0<x<1)\end{array}\right.$
と表される。

この $H_{\pm}(x;\alpha,\beta,\gamma)$ は変数変換により、 いわゆる超幾何関数 (hyper geometric function)

$\displaystyle F(a,b,c;z)$ $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{\mathop{\mathit{\Gamma}}(c)}{\mathop{\mathit{\Gamma}}(b)\mathop{\mathit{\Gamma}}(c-b)}
\int_0^1t^{b-1}(1-t)^{c-b-1}(1-tz)^{-a}dt$ 
    $\displaystyle \hspace{1zw}(c>b>0,\ \vert z\vert<1)$(5)
を用いて表すことも可能であり、実際に
$\displaystyle H_{+}(x;\alpha,\beta,\gamma)$ $\textstyle =$ $\displaystyle x^\gamma\int_0^1y^{\alpha-1}(1-y)^{\beta-1}
\left(1-\,\frac{y}{x}\right)^\gamma dy$ 
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{\mathop{\mathit{\Gamma}}(\alpha)\mathop{\mathit{\Gamma}}(\b...
...}}(\alpha+\beta)}x^\gamma
F\left(-\gamma,\alpha,\alpha+\beta;\frac{1}{x}\right)$ 
    $\displaystyle \hspace{1zw}(x>0,\ \alpha>0,\ \beta>0),$(6)
$\displaystyle H_{-}(x;\alpha,\beta,\gamma)$ $\textstyle =$ $\displaystyle x^{\alpha+\gamma}\int_0^1t^{\alpha-1}(1-xt)^{\beta-1}
(1-t)^\gamma dt\hspace{1zw}(y=xt)$ 
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{\mathop{\mathit{\Gamma}}(\alpha)\mathop{\mathit{\Gamma}}(\g...
...Gamma}}(\alpha+\gamma+1)}
x^{\alpha+\gamma}
F(1-\beta,\alpha,\alpha+\gamma+1;x)$ 
    $\displaystyle \hspace{1zw}(0<x<1,\alpha>0,\gamma>-1)$(7)
のようになる。 ただし、超幾何関数の性質、漸近性はあまり一般的に知られている わけではないし、(6), (7) の形は それほど解析が易しいわけでもない。

よって本稿では、超幾何関数に関する既知の結果を用いず、 (3), (4) の形の $H_{+}$, $H_{-}$ のままで [2] の拡張のために必要となる性質や、 境界への極限とその収束 order などを考察する。

竹野茂治@新潟工科大学
2023-01-19