2.2 基本波

Riemann 問題 とは、初期値 (1.2) に対する初期値問題 (2.1) のことをいう。 Riemann 問題の解は、[竹野] で見たように 次の基本波 (エントロピー条件を満たす弱解) によって構成される:
  1. $j$-特性方向が真性非線形の場合の $j$-膨張波:
    \begin{displaymath}
U(t,x)=\left\{\begin{array}{ll}
U_1 & (x<\lambda_j(U_1)t),...
...da_j(U_2)t),\\
U_2 & (\lambda_j(U_2)t<x)
\end{array}\right. \end{displaymath} (2.7)

    ここで、$U_1$, $U_2$ は定ベクトル、$V=V(\xi)$ は、
    \begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{ll}
V'(\xi) \mathrel{/\!/}r_j(V(\xi))...
...ambda_j(U_1)),\\
V(\lambda_j(U_1)) = U_1
\end{array}\right. \end{displaymath} (2.8)

    を満たす関数。 各 $U_1$ に対して、$\Omega$ 内での $U_2$ の取りうる集合 ($\Omega$ 上の $U_1$ から始まる半曲線) を、 $R_j(U_1)$ ($\ni U_2$) と書き、膨張波曲線 と呼ぶ。

    $R_j(U_1)$ は、(2.6) を満たす $V(\xi)$ の値の集合でもあり、 ベクトル場 $r_j(U)$ の積分曲線 (の一部) でもあり、 また、$x$ を左から右に見ていくと、 膨張波解の値がこの $R_j(U_1)$ 上を連続的に移動することもわかる。

  2. $j$-特性方向が真性非線形の場合の $j$-衝撃波:
    \begin{displaymath}
U(t,x)=\left\{\begin{array}{ll}
U_1 & (x<st),\\
U_2 & (x>st)
\end{array}\right. \end{displaymath}

    ここで、$U_1$, $U_2$ は定ベクトルで、 これらと $s$Rankine-Hugoniot 条件:
    \begin{displaymath}
s(U_2-U_1)=F(U_2)-F(U_1)
\end{displaymath} (2.9)

    Lax 条件:
    \begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{l}
\lambda_{j-1}(U_1)<s<\lambda_j(U_1),\\
\lambda_j(U_2)<s<\lambda_{j+1}(U_2)
\end{array}\right. \end{displaymath} (2.10)

    (ただし、$j=1$、または $j=N$ のときは、それぞれ $\lambda_{j-1}$, $\lambda_{j+1}$ に関する不等式部分は無条件) を満たすもの。

    $U_1$ に対し、この $U_2$ の取りうる集合 ($U_1$ から始まる半曲線) を $S_j(U_1)$ と書いて 衝撃波曲線 と呼ぶ。

    $R_j(U_1)$$S_j(U_1)$$U=U_1$$C^2$ 級でつながり、 $1$ パラメータ $\varepsilon $ を使って、 以下のものを満たすものとして $U=\hat{U}_j(\varepsilon )=\hat{U}_j(\varepsilon ; U_1)$ と書ける:

    \begin{displaymath}
R_j(U_1)=\{\hat{U}_j(\varepsilon );\hspace{0.5zw}\varepsilo...
..._1)=\{\hat{U}_j(\varepsilon );\hspace{0.5zw}\varepsilon <0\}
\end{displaymath}

    \begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{ll}
\hat{U}_j(0)=U_1,\\
\hat{U}'_j(...
...}_j(\varepsilon ))
& (\varepsilon \geq 0)
\end{array}\right. \end{displaymath} (2.11)

    (詳しくは、例えば [竹野] 参照)。
  3. $j$-特性方向が線形退化の場合の $j$-接触不連続:
    \begin{displaymath}
U(t,x)=\left\{\begin{array}{ll}
U_1 & (x<st),\\
U_2 & (x>st)
\end{array}\right. \end{displaymath}

    ここで、$U_1$, $U_2$, $s$ は Rankine-Hugoniot 条件 (2.7) と
    \begin{displaymath}
s=\lambda_j(U_1)=\lambda_j(U_2)
\end{displaymath} (2.12)

    を満たすもの。$U_1$ に対して $U_2$ の取りうる集合 ($U_1$ を通る曲線) を $C_j(U_1)$ と書いて 接触不連続曲線 と呼ぶ。 これは、1 パラメータ $\varepsilon $ を使って、
    \begin{displaymath}
U=\hat{U}_j(\varepsilon )=\hat{U}_j(\varepsilon ; U_1),\hspace{1zw}
C_j(U_1)=\{\hat{U}_j(\varepsilon )\}
\end{displaymath}

    \begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{l}
\hat{U}_j(0)=U_1,\\
\hat{U}'_j(\...
...ilon )) \cdot r_j(\hat{U}_j(\varepsilon ))
\end{array}\right. \end{displaymath} (2.13)

    を満たすものと書ける。 $j$-特性方向が真性非線形の場合は、 $\hat{U}_j(\varepsilon )$$U_1$ から出る $j$-衝撃波曲線と $j$-膨張波曲線の 2 本の半曲線をつないだものであるのに対し、 $j$-特性方向が線形退化の場合は、 $\hat{U}_j(\varepsilon )$$U_1$ を通る $j$-接触不連続曲線だけであり、 $r_j(U)$ の積分曲線そのものとなっている。
(2.9), (2.11) より、 線形退化、真性非線形、いずれの場合も、 $\hat{U}_j(\varepsilon )$ は、
\begin{displaymath}
\hat{U}_j(\varepsilon )=\hat{U}_j(\varepsilon ;U_1)
=
U_1+\v...
...psilon ^2}{2}\nabla_U r_j(U_1)\cdot r_j(U_1)+O(\varepsilon ^3)
\end{displaymath}

と書けることになる。
竹野茂治@新潟工科大学
2009年1月18日