2.1 用語等

まずこの節では、双曲型保存則方程式に関する基礎的な事柄について 簡単に紹介する。 詳しくは、[竹野], [Smoller], [Dafermos], [西田-川島], [浅倉] などを参照のこと。

(1.1) の $U$$N$ 次元ベクトル

\begin{displaymath}
U= {}^T\!(u_1,u_2,\ldots,u_N) \hspace{1zw}(\mbox{$ {}^T\!{}$ は転置})
\end{displaymath}

で、$F(U)$ はある領域 $\Omega(\ni U)$ 上の滑らかな既知関数
\begin{displaymath}
F(U)= {}^T\!(f_1(U),f_2(U),\ldots,f_N(U))
\end{displaymath}

であるとする。 方程式 (1.1) では、$U=U(t,x)$ が未知関数 ($N$ 次元ベクトル値) である。

$F(U)$$U$ に関して 1 次式なら (1.1) は 線形の方程式となるが、ここでは主に非線形の方程式を扱う。

(1.1) が 双曲型 であるとは、 行列

\begin{displaymath}
\nabla_UF(U)
=
\left[\begin{array}{c}\nabla_Uf_1(U) \vdots...
...tyle \frac{\partial  f_N}{\partial  u_N}
\end{array}\right]
\end{displaymath}

が、$U\in\Omega$ に対して $N$ 個の異なる実数の固有値
\begin{displaymath}
\lambda_1(U)<\lambda_2(U)<\cdots<\lambda_N(U)
\end{displaymath}

を持つことを言う。固有値 $\lambda_j(U)$ に対する $\nabla_U F(U)$ の 右固有ベクトル (でかつ $U$ に関して滑らかなもの) を $r_j(U)$ とする:
\begin{displaymath}
\nabla_UF(U)r_j(U)=\lambda_j(U)r_j(U)\hspace{1zw}(r_j(U)\neq 0)
\end{displaymath}

これに対し、$\Omega$ 上で恒等的に

\begin{displaymath}
\nabla_U\lambda_j(U)\cdot r_j(U)
=\left(\frac{\partial  \la...
...partial  \lambda_j}{\partial  u_N}(U)\right)
\cdot r_j(U)
=0
\end{displaymath}

となるとき、$j$-特性方向は 線形退化 であるといい、 $\Omega$ 上のすべての $U$ に対し
\begin{displaymath}
\nabla_U\lambda_j(U)\cdot r_j(U)\neq 0
\end{displaymath}

であるとき、$j$-特性方向は 真性非線形 であるという。 この場合、必要なら $r_j(U)$ の代わりに $-r_j(U)$ を取ることにより、
\begin{displaymath}
\nabla_U\lambda_j(U)\cdot r_j(U)>0
\end{displaymath}

であるとする。

本稿では、初期値 $U_0(x)\in L^1_{loc}(R)$ に対する初期値問題:

\begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{ll}
U_t+F(U)_x=0 & (t>0,\hspace{0.5zw}x\in R),\\
U(0,x)=U_0(x) & (x\in R)
\end{array}\right.\end{displaymath} (2.3)

を考える。

$U(t,x)\in L^1_{loc}((0,\infty)\times R)$ ( $U(t,x)\in\Omega$) が (2.1) の 弱解 であるとは、 任意の $\phi(t,x)\in C_0^1([0,\infty)\times R)$ に対し

\begin{displaymath}
\int\!\!\!\int _{t>0}\{\phi_t U+\phi_x F(U)\}dtdx + \int_R \phi(0,x)U_0(x)dx = 0\end{displaymath} (2.4)

を満たすことを言う。

弱解は一般に一意的ではないから、弱解は次の エントロピー条件 を 満たすことも要請される:

$\eta(U)$ が凸なエントピー対 $(\eta(U),q(U))$ に対して、不等式
\begin{displaymath}
\int\!\!\!\int _{t>0}\{\phi_t \eta(U)+\phi_x q(U)\}dtdx\geq 0
\end{displaymath} (2.5)

が、任意の非負な $\phi\in C_0^1((0,\infty)\times R)$ に対して 成り立つこと。
ここで、$\Omega$ 上のスカラー関数の組 $(\eta(U),q(U))$エントロピー対 であるとは、
\begin{displaymath}
\nabla_Uq(U)=\nabla_U\eta(U)\nabla_UF(U)\end{displaymath} (2.6)

を満たすことをいう。

もし $U(t,x)$ が (1.1) の滑らかな解であれば、

\begin{eqnarray*}\lefteqn{\eta(U(t,x))_t+q(U(t,x))_x
=\nabla_U \eta U_t+\nabla_...
...U\eta(U_t+\nabla_U F U_x)}
 &=&
\nabla_U\eta (U_t+F_x)
=
0\end{eqnarray*}


となるので、これは 追加保存則 と呼ばれることもある。

(2.4) は $N$ 本の方程式なので、 これは $N\geq 3$ のときは $\eta$, $q$ に対する過剰決定系となり 一般にはエンロピー対があるかどうかは自明ではないが、 物理的に意味を持つ保存則方程式系は そのようなエントロピー対を持つことが多い。

竹野茂治@新潟工科大学
2009年1月18日