4.1 相互作用評価の定理

Glimm 差分に関する、基本的で重要な評価に、 「相互作用評価」というものがある。 この相互作用評価の Glimm の証明 ([Glimm]) はやや煩雑なので、 ここでは Yong ([Yong]) による比較的やさしい証明を紹介する。


定理 4.1 (相互作用評価)

任意の $U_L,U_M,U_R\in B_{\hat{\delta}_{3}}(\bar{U})$ に対し、 $\gamma=\alpha(U_L,U_M)$, $\delta=\alpha(U_M,U_R)$, $\varepsilon =\alpha(U_L,U_R)$ とすると、

\begin{displaymath}
\vert\varepsilon -\gamma-\delta\vert\leq M_3D(\gamma,\delta)
\end{displaymath} (4.30)

となる、 $\hat{\delta}_3$ にのみ依存する正の定数 $M_3$ が取れる。


ここで、 $D(\gamma,\delta)$ は、

\begin{displaymath}
D(\gamma,\delta)
= \sum_{\mbox{\scriptsize$\gamma_i$ と $\delta_j$ は近づく}}\vert\gamma_i\vert \vert\delta_j\vert
\end{displaymath}

であり、この和は $\gamma_i$$\delta_j$ が近づく波、すなわち、 であるものすべてに対する和である。

この定理は、$U_M$ を挟んで 2 つの Riemann 問題の波 $\gamma $, $\delta $ があるとき、この $U_M$ を取りはらってできる波 $\varepsilon $ とそれらとの関係を 意味する (図 4.1, 4.2)。

図 4.1: $\gamma $$\delta $
\includegraphics[height=0.15\textheight]{inter_1.eps}
図 4.2: $\varepsilon $
\includegraphics[height=0.15\textheight]{inter_2.eps}

初期値

\begin{displaymath}
U_0(x)=\left\{\begin{array}{ll}
U_L & (x<-a),\\
U_M & (-a<x<a),\\
U_R & (a<x)
\end{array}\right.\end{displaymath} (4.31)

に対する解 (図 4.1) は、 小さい $t$ に関しては Riemann 問題の解 $\gamma $$\delta $ を 2 つ並べたものであるが、 ある時刻でその波はぶつかり相互作用する。

一方、方程式 (1.1) は スケール変換 $(t,x)\mapsto (at,ax)$ に関して不変なので、 この初期値 (4.2) に対する解 $U_a(t,x)$ は、 $a=1$ に対する解 $U_1(t,x)$ に対するスケール変換

\begin{displaymath}
U_a(t,x)=U_1\left(\frac{t}{a},\frac{x}{a}\right)\end{displaymath} (4.32)

で表される。 この $a$ を 0 に近づけていくと、 初期値 (4.2) は、 Riemann 問題の初期値 (1.2) に近づいていくから、 $U_a(t,x)$ $a\rightarrow +0$ の極限は、 Riemann 問題の解だろうと予想される。

$a\rightarrow +0$ のとき (4.3) の $U_a(t,x)$ は、 $U_1(t,x)$ をスケール変換して段々遠くの方から 見たようなものになっていくので、 その極限は $U_1(t,x)$ の漸近的な解の様子を表すことになる。

結局、(4.2) に対する解 (図 4.1) の波 $\gamma $, $\delta $ がぶつかって相互作用をした後の漸近的な様子が、 Riemann 問題 (1.2) の解 $\varepsilon $ (図 4.2) であることになるので、 それでこの $\varepsilon $$\gamma $, $\delta $ の関係を示す 定理 4.1 は「相互作用評価」 の定理と呼ばれるのである。

竹野茂治@新潟工科大学
2009年1月18日