1 はじめに

本稿では、双曲型保存則方程式の初期値問題の弱解の存在定理の証明法の 一つである、波面追跡法について解説する。

以前、その問題の解の別の存在証明法である Glimm 差分法と、 補完測度法 (補償コンパクト法) の入門を書いたが ([13], [14], [15])、 この波面追跡法を合わせれば ほぼ代表的な存在証明法の 3 つが出揃うことになる。

波面追跡法の解の構成法にはいくつかの流儀があるようだが、 本稿ではその分野の世界的権威による代表的な解説書である [1] (Bressan) に沿って解説を行う。

なお当初は、[13], [14] のように自己完結する 形の解説を書こうと思ったのだが、 [1] が比較的わかりやすく、過不足なくとても良く書かれていて、 追加や行間を補足するところが少なく、 自己完結的に書くとほぼ [1] の翻訳になりかねないので、 それはあきらめ、 [1] を持っている人を対象に、それを読み進める際の補足や、 分かりにくい部分の解説だけを行うことにした。 よって [1] が前提となっていて、 本稿はそれがないと読めない形式であることを了解して頂きたい。

また、[13], [14] では、 説明の仕方を複数の論文等から取り入れているのだが、 上記の理由から本稿ではそれができず、 あくまで [1] に関する説明を行っているので、 逆に無理をしている部分、ややこしい部分もあるかもしれない。

なお、本稿のようなものは、[1] に正面から取り組もうとする 大学院生などには、むしろその勉強に邪魔や迷惑となるかもしれないが、 [1] が波面追跡法入門の一つの定番である以上、 その難点を共有することはそれなりに意味があるのではないかと考えている。 それについてもお許し頂きたい。

竹野茂治@新潟工科大学
2020-06-03