1 はじめに

以前 [3] で、離散的な断熱定数 $\gamma=5/3,7/5,\ldots$ に対する 1 次元等エントロピー流の方程式の弱解の存在証明に 使われる Tartar 方程式の解法の改良を紹介した。 その断熱定数は DiPerna の結果 [5] に対応するが、 その場合、Darboux エントロピーに出てくる指数が自然数なので、 必要な弱エントロピー対の核部分が多項式となり、 部分積分やそれらの評価は比較的易しい。

本稿では、DiPerna の結果 [5] を Ding, Chen, Luo らが $1<\gamma \leq 5/3$ に拡張した [7] に対して、 以前の改良の方法を適用したものを紹介する。

Ding-Chen-Luo は [7] で、Darboux エントロピーの核の指数が 非整数の実数の場合、[5] の指数が整数の場合の手法を そのまま非整数の場合に拡張していて、 Darboux エントロピーの特異性を出す整数階の微分と整数回の部分積分を、 非整数階の微分と非整数回の部分積分に置き換えているのであるが、 部分積分で大量の項が出てくる上に、 非整数階微分の非局所性により広義積分が一つ余計に追加されるために 計算式も長く、その評価にも相当な労力が必要となる。

[3] による [5] の改良では、

を行ったが、本稿は [7] の改良のために、これらだけではなく、 を行うことで Ding-Chen-Luo の [7] における証明の 簡便化を計ることを目標とする。

さらに、この改良により、Ding-Chen-Luo の [7] の結果を $\gamma$ のより広い範囲 $1<\gamma<3$ に広げることが可能かどうか についても合わせて考察を行う。

なお、すでに $1<\gamma<3$$\gamma$ については、 Lions, Perthame, Souganidis らが [9] で核エントロピーを用いた 別の手法により Tartar 方程式を解いているので、 本稿の内容により未知の存在定理が得られるわけでは ないことに注意する。

竹野茂治@新潟工科大学
2023-04-03