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5 準線形方程式

特性曲線が、解 $u$ 自身によって変化する場合はまた事情は異なる。 例えば、非粘性バーガース方程式と呼ばれる次の非線形方程式

\begin{displaymath}
u_t+uu_x=0\end{displaymath} (17)

を考えてみる。この方程式の場合特性曲線は
\begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{l}
\displaystyle \frac{d x}{d t}=u(t,x),\\
x(0)=x_0
\end{array}\right.\end{displaymath} (18)

によって決定する。しかし、この $u$ は与えられているものではなく、 方程式によって決まる $u$ であるから、これをこのまま解くことはでき ない。しかし、とりあえず、(17) の解 $u$ があったと して、その $u$ に対し (18) を満たす関数 $x=\phi(t)$ が存在したとして話を進めてみる。つまり $\phi(t)$
\begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{l}
\phi'(t)=u(t,\phi(t)) \hspace{1zw}(t>0),\\
\phi(0)=x_0
\end{array}\right.\end{displaymath} (19)

を満たすとする。このとき、この特性曲線 $x=\phi(t)$ に沿っての $u$ の 値を調べてみる。

$v(t)=u(t,\phi(t))$ とすると (19) などにより

\begin{eqnarray*}
\frac{d v}{d t} & = & \frac{\partial u}{\partial t}(t,\phi(t)...
... \\
& = & \left. u_t+uu_x\right\vert _{x=\phi(t)} \\
& = & 0
\end{eqnarray*}



となる。よってこの特性曲線に沿って $v(t)$ は定数になるので、前と同様 に $v(t)=v(0)$ となり $u(t,\phi(t))=u(0,x_0)$ を得る。 特性曲線に沿って $u$ が定数であるということは、これを (19) に戻してみれば

\begin{displaymath}
\phi'(t)=u(t,\phi(t))=u(0,x_0)
\end{displaymath}

ということであり、つまりこの曲線の傾きは定数で、

\begin{displaymath}
\phi(t)=\phi(0)+\int_0^tu(0,x_0)dt=\phi(0)+u(0,x_0)t = x_0 + u(0,x_0)t
\end{displaymath}

となる。

特性曲線が存在するとして、方程式を用いると、特性曲線上での $u$ の値が求まり、 それによって特性曲線自身を求めることができる、ということになるわけである。 この特性曲線

\begin{displaymath}
x=u(0,x_0)t+x_0
\end{displaymath}

は、$t$ の一次式で直線となるが、前の場合と違いその傾き $u(0,x_0)$ は 定数ではなく、出発点 $x_0$ によって変わり得る。 言い替えれば、$x_0$ を出発して特性曲線に沿って動く点の速度は $x_0$ によって異なる。

図 10: さまざまな速度を持つ特性曲線
\includegraphics[width=\textwidth]{image/variety.eps}

その傾きは $u(0,x_0)=f(x_0)$、すなわち $f$ によって変化し、$f$ によっ ては特性曲線全体が領域を埋め尽くさないこともあるし、特性曲線が交わるこ とも起こりうる。

図 11: 特性曲線の空白域
\includegraphics[width=\textwidth]{image/charR.eps}
図 12: 交差する特性曲線
\includegraphics[width=\textwidth]{image/charS.eps}

線形、半線形の方程式ではこういうことは起こらないが、$u_x$ の係数が $u$ にも関係する形

\begin{displaymath}
u_t+\alpha(t,x,u)u_x = \beta(t,x,u) \hspace{1zw}
\left(\frac{\partial \alpha}{\partial u}\neq 0\right)
\end{displaymath}

の場合はこのようなことが起こる。このような形の非線形方程式を 準線形 と呼ぶ。

今の方程式 (17) の場合、特性曲線

\begin{displaymath}
x=f(x_0)t+x_0\end{displaymath} (20)

に沿って $u$ の値は定数であったので、その $u$ の値は
\begin{displaymath}
u=u(0,x_0)=f(x_0)\end{displaymath} (21)

に等しい。特性曲線に沿って定数であるということは、 $x$ 方向の点の運動という形で考えてみれば、 $t=0$ のときに $x_0$ を出発し速度 $f(x_0)$ で運動する点から見れば $u$ のグラフの高さは $u=f(x_0)$ のまま変わらない、ということになる。

グラフの高さ $u=f(x_0)$ と特性曲線に沿う点の速度 $f(x_0)$ とが等しい ということは、$u$ のグラフの、高い位置にある点ほど速く進み、 低い位置にある点ほど遅く進む、ということになる。

図 13: 特性速度と波の高さ
\includegraphics[width=\textwidth]{image/height.eps}

これが進行していくと、高い位置の点が低い位置の点を追い越してしまうよ うなことが起きて、$u$ の値が一つに決まらなくなってしまう。これは 複数の特性曲線が交わるような場合に起こる。

図 14: 追い越して $u$ が関数でなくなる例
\includegraphics[width=\textwidth]{image/passing.eps}

この問題は、``弱解'' という、不連続な解の概念を導入することにより 解決されている。この不連続な解は、流体力学での物理現象 との対応により衝撃波と呼ばれている。


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Shigeharu TAKENO
2001年 9月 21日