6 楕円積分への帰着

[2] と同様に、(15) の式の 楕円積分の標準形への帰着を行うことで、 (15) が一般には初等的には積分できないことを示す。 ここでは、[2] 7 節と同様に、$a=b=p=R$, $q=0$、 すなわち底面が半径 $R$ の円で、 頂点 $\mathrm {P}$ がその円周上の一点の真上にある場合のみを考える。

また、[2] では、0 から $2\pi$ までの定積分であったが、 今回の (15) は 0 から $t$ までの定積分、 つまり実質的に不定積分の計算なので、 積分範囲は外して、不定積分の変数変換の計算のみを行う。 ただし、厳密には、$t$ の範囲によっては 0 から $t$ までの積分を 2 つ、 4 つなどと分けないといけないのであるが、 そういう話もほぼ省略する (一つだけ紹介する)。

(15) で、$a=b=p=R$, $q=0$ とし、 それを不定積分の形に書いたものを $J_0$ とすると

\begin{displaymath}
J_0
=\int\frac{\sqrt{h^2R^2+(R^2-R^2\cos t)^2}}{%
R^2(1-\...
...=\int\frac{R\sqrt{h^2+R^2(1-\cos t)^2}}{h^2+2R^2(1-\cos t)} dt\end{displaymath} (16)

となる。$h=\hat{h}R$ ($\hat{h}>0$) とすると、
\begin{displaymath}
J_0
=\int\frac{\sqrt{\hat{h}^2+(1-\cos t)^2}}{\hat{h}^2+2(1-\cos t)} dt
\end{displaymath}

となるので、[2] と同様に、 まず $\tan t/2 = y$ と置換すると、
\begin{displaymath}
\cos t = \frac{1-y^2}{1+y^2},\hspace{1zw}
dt = \frac{2dy}{1+y^2}
\end{displaymath}

となるので、$J_0$
\begin{eqnarray*}J_0
&=&
\int\sqrt{\hat{h}^2+\left(1-\frac{1-y^2}{1+y^2}\right...
...h}^2y^2+\hat{h}^2}}{%
\{(\hat{h}^2+4)y^2+\hat{h}^2\}(1+y^2)} dy\end{eqnarray*}


となる。

しかし、本来は $0\leq t\leq 2\pi$ なので、$\tan t/2 = y$ とす場合は、 $0\leq t\leq \pi$ の場合と $\pi\leq t\leq 2\pi$ の場合に分けて考え、 後者の場合は積分を 0 から $\pi$ までの積分と $\pi$ から $t$ までの積分の 2 つに分けた上で置換する必要がある。 これが、この節の冒頭に書いた「厳密には積分を分けて考えないといけない」 という話である。 ただ、分けた積分でもほぼ同じ置換を行うので、 不定積分の計算では本質的には分けて考える必要はない。

さらに、 $A=\sqrt{(\hat{h}^2+4)/\hat{h}^2}$ とした上で $y^2=s$ と置換すると、 $dy=ds/(2\sqrt{s})$ より、

\begin{eqnarray*}J_0
&=&
2\int\frac{\hat{h}\sqrt{A^2y^4+2y^2+1}}{\hat{h}^2(A^2...
...t)}
 \frac{ds}{\displaystyle (s+1)\left(s+\frac{1}{A^2}\right)}\end{eqnarray*}


となるので、 $z=(s-1/A)/(s+1/A)$ とすると
\begin{eqnarray*}s
&=&
\frac{1}{A} \frac{1+z}{1-z},\hspace{1zw}ds=\frac{2}{A...
...\frac{1}{A^2}+\frac{1+z}{A(1-z)}}
=\frac{A^2(1-z)}{(A+1)+(A-1)z}\end{eqnarray*}


なので、$J_0$
\begin{eqnarray*}J_0
&=&
\frac{1}{A\hat{h}}\int\frac{\sqrt{2}}{A} 
\sqrt{\fr...
...rt{\frac{(A+1)+(A-1)z^2}{1-z^2}} 
\frac{dz}{(A+1)^2-(A-1)^2z^2}\end{eqnarray*}


と変形できるから、 $\alpha=(A+1)/(A-1)$ とすると
\begin{displaymath}
J_0
=
\frac{2\sqrt{2}}{\hat{h}(A-1)^{3/2}}\int
\frac{1}{\alpha^2-z^2} \sqrt{\frac{\alpha+z^2}{1-z^2}} dz
\end{displaymath}

となる。ここまでは、[2] の置換の計算とほぼ同じである。

この被積分関数は、 $f(z)=(1-z^2)(\alpha+z^2)$ とすると、

\begin{eqnarray*}\frac{1}{\alpha^2-z^2} \sqrt{\frac{\alpha+z^2}{1-z^2}}
&=&
\...
...{\sqrt{f(z)}}
+\frac{\alpha+\alpha^2}{(\alpha^2-z^2)\sqrt{f(z)}}\end{eqnarray*}


と変形でき、これらの積分はそれぞれ、 [2] 7 節 p16 の $I_1$$I_2$ に対応することがわかる (よって [2] より少し易しい)。 そして、$I_1$ は第 1 種楕円積分に、 $I_2$ は [2] p17 により第 1 種と第 3 種の楕円積分に 帰着されることがわかる。

以上により、$J_0$ が楕円積分に帰着されることがわかり、 (15) は一般には初等関数で 表すことはできないことがわかる。

竹野茂治@新潟工科大学
2009年9月18日