6 大小の考察

以上により、$E_1\sim E_5$ はすべて $E_0=pA-qB$ によって、
\begin{displaymath}
E_1=\frac{1}{p}E_0,\hspace{0.5zw}
E_2=\frac{1-q^N}{p}E_0,\hs...
....5zw}
E_4=\frac{1}{q}E_0,\hspace{0.5zw}
E_5=\frac{1-p^N}{q}E_0
\end{displaymath}

と表されることがわかった。 よって、$E_0=0$ の場合は $E_1\sim E_5$ はすべて 0 となることになる。

さて、通常のくじでは、あたりの確率 $p$ はかなり小さく ($p\ll 1$)、 代わりにあたりの賞金 $(A-B)$ が参加料 $B$ に比べて大きい ($A-B\gg B$)。 そして、くじの主催者が損をしないように $E_0<0$ と設定されているだろう。 この条件の元で $E_1\sim E_5$ の大小を考えてみることにする。

そのために、各 $E_j$$E_0$ の係数を $t_j$ とし、 その $t_j$ を比較することにする ($E_j=t_jE_0$)。

$0<p<1$, $0<q<1$ より明らかに

\begin{displaymath}
t_1=\frac{1}{p}>\frac{1-q^N}{p}=t_2,\hspace{1zw}
t_4=\frac{1}{q}>\frac{1-p^N}{q}=t_5
\end{displaymath}

であり、また $p\ll 1$ より $q=1-p\approx 1$ であるので、
\begin{displaymath}
t_1>t_4
\end{displaymath}

となる。また、
\begin{eqnarray*}t_2
&=&
\frac{1-q^N}{p}=\frac{1-q^N}{1-q}=1+q+q^2+\cdots +q^{...
...
\frac{1-p^N}{q}=\frac{1-p^N}{1-p}=1+p+p^2+\cdots +p^{N-1}<N=t_3\end{eqnarray*}


も言える。

次に $t_2$$t_4$ を比較してみる。

\begin{eqnarray*}t_4-t_2
&=&
\frac{1}{q}-\frac{1-q^N}{p}
=
\frac{p-q(1-q^N)}{pq}
=
\frac{1-q-q(1-q^N)}{pq}
 &=&
\frac{q^{N+1}-2q+1}{pq}\end{eqnarray*}


となるので、
\begin{displaymath}
f_1(x)=x^{N+1}-2x+1\hspace{1zw}(0\leq x\leq 1)
\end{displaymath}

として、この $f_1(x)$ の符号を考える。

$N=1$ ならば、 $f_1(x)=(x-1)^2\geq 0$ となる。

$N>1$ のときは、 $f_1'(x)=(N+1)x^N-2$ より、 $\alpha_N=(2/(N+1))^{1/N}$ ($<1$) で $f_1'(\alpha_N)=0$ となり、

\begin{displaymath}
x<\alpha_N\mbox{ ならば }f_1'(x)<0,\hspace{1zw}
x>\alpha_N\mbox{ ならば }f_1'(x)>0
\end{displaymath}

なので、$f_1(0)=1$, $f_1(1)=0$ より、$f_1(x)$ のグラフは 図 1 のようになる。
図 1: $f_1(x)$ のグラフ
\includegraphics[height=0.2\textheight]{f1.eps}
よって、$f_1(x)$ は零点 $\beta_N$ で符号が分かれ、
\begin{displaymath}
0<x<\beta_N\mbox{ ならば }f_1(x)>0,\hspace{1zw}
\beta_N<x<1\mbox{ ならば }f_1(x)<0
\end{displaymath}

となる。

次に、この $f_1(x)$ の零点である $\beta_N$ の大きさについて考えてみる。

\begin{displaymath}
f_1(\beta_N)=\beta_N^{N+1}-2\beta_N+1=0
\end{displaymath}

より、
\begin{displaymath}
\beta_N^{N+1}=2\beta_N-1>0
\end{displaymath}

なので、まず $\beta_N>1/2$ であることがわかる。
\begin{displaymath}
(N+1)\log\beta_N=\log(2\beta_N-1)
\end{displaymath}

より、
\begin{displaymath}
N+1=\frac{\log(2\beta_N-1)}{\log\beta_N}
\end{displaymath}

となるので、次に関数
\begin{displaymath}
f_2(x)=\frac{\log(2x-1)}{\log x}\hspace{1zw}\left(\frac{1}{2}<x<1\right)
\end{displaymath}

を調べてみる。ロピタルの定理より、
\begin{displaymath}
\lim_{x\rightarrow 1}f_2(x)
=\lim_{x\rightarrow 1}\frac{\lef...
...ac{\displaystyle \frac{2}{2x-1}}{\displaystyle \frac{1}{x}}
=2
\end{displaymath}

であり、
\begin{displaymath}
\lim_{x\rightarrow 1/2+0}f_2(x)
=\frac{1}{-\log 2}\lim_{x\rightarrow 1/2+0}\log(2x-1)=+\infty
\end{displaymath}

となっている。導関数は、
\begin{displaymath}
f_2'(x)
=\frac{\displaystyle \frac{2}{2x-1}\log x-\frac{1}{x...
...log x)^2}
=\frac{2x\log x-(2x-1)\log(2x-1)}{x(2x-1)(\log x)^2}
\end{displaymath}

となるが、この分母は $x>1/2$ で正なので、分子を $f_3(x)$ とすると、
\begin{eqnarray*}f_3'(x)
&=&
2(x\log x)'-\{(2x-1)\log(2x-1)\}'
 &=&
2(\log...
...2\}
=2\log x-2\log(2x-1)>0
 &&
(\mbox{$x<1$ より $x>2x-1$})\end{eqnarray*}


であり、$f_3(1)=0$ なので、$1/2<x<1$$f_3(x)<0$ となる。

よって、$1/2<x<1$$f_2'(x)<0$ であり、 $f_2(x)$ のグラフは図 2 のようになる。

図 2: $f_2(x)$ のグラフ
\includegraphics[height=0.2\textheight]{f2.eps}

$N+1=f_2(\beta_N)$ であるから、 よって $\beta_N$$N$ に関して単調に減少し、

\begin{displaymath}
\lim_{N\rightarrow\infty}\beta_N=\frac{1}{2}
\end{displaymath}

となること、 そして $\{\beta_N\}_{N>1}$ で一番大きいのは $\beta_2$ であることもわかる。 次に、この $\beta_2$ を求めてみる。
\begin{displaymath}
\beta_2^3-2\beta_2+1=0,\hspace{1zw}
(\beta_2-1)(\beta_2^2+\beta_2-1)=0,\hspace{1zw}
\beta_2=1,\frac{-1\pm\sqrt{5}}{2}
\end{displaymath}

なので、$1/2<\beta_2<1$ より
\begin{displaymath}
\beta_2=\frac{\sqrt{5}-1}{2}\approx 0.618
\end{displaymath}

となる。 よって $q>\beta_2\approx 0.618$ であれば、 すべての $N>1$ に対して $q>\beta_N$ となるので $f_1(q)<0$ であり、 $t_4<t_2$ となる。

結局、$N>1$ のときは、$q>\beta_2$ であれば、

\begin{displaymath}
t_1>t_2>t_4>t_5,\hspace{1zw}t_3>t_2
\end{displaymath}

となる。ここで、$t_1=1/p$$t_3=N$ は独立な値なので、 $N$ を変えることでその大小は変わりうる。

また、$N=1$ のときは、$t_2=t_3=t_5=1$ なので、

\begin{displaymath}
t_1>t_4>t_2=t_3=t_5(=1)
\end{displaymath}

となる。

結局、今回の仮定の元 ($p\ll 1$, $E_0<0$) では、

であることになり、これらの中で一番損をしないのは $E_5$、 すなわち「はずれるまでやり、$N$ 回でやめる」であることがわかる。 そして、 $E_5=E_0(1-p^N)/q$$N$ に関して単調減少であるから、 $N=1$ のときが最も大きい、すなわち 1 回だけやってやめる ( $E_5=E_2=E_3=E_0$) のが最も損をしない、ということになる。

竹野茂治@新潟工科大学
2007年4月28日