4 cosjx が現れる場合

(6) の被積分関数の分子の $(\sin^nx)^{(m-1)}$$\sin jx$ で表せる場合は、前節の $I_{5,3}$ と同様に ディリクレ積分に帰着して値が求まるが、 $\cos jx$ が現れる場合はそうはいかない。

一般に $\sin^n x$ は、 $n$ が奇数であれば $\sin jx$ の線形結合で、 $n$ が偶数であれば $\cos jx$ と 1 の線形結合で表わされる。 よって、$I_{n,1}$$n$ が奇数の場合は (9) により ディリクレ積分に帰着し、よってそれが有限値となることがわかるし、 また、$m\geq 2$ の場合 $(\sin^nx)^{(m-1)}$ は、

で表されることになる。よって、$n+m$ が偶数の場合は ディリクレ積分に帰着し、$n+m$ が奇数の場合は $\cos jx$ が 残ることになる。

ここで、

$\displaystyle \int_0^\infty\frac{\cos x}{x}\,dx
$

は、$x=0$ の近くで積分は収束せず、 また $x\rightarrow +0$ で有界となるように

$\displaystyle \int_0^\infty\frac{\cos x-1}{x}\,dx
$

としても、

$\displaystyle \int_0^\infty\frac{\cos x-1}{x}\,dx
=
-\int_0^\infty\frac{2\sin^2(x/2)}{x}\,dx
=
-2\int_0^\infty\frac{\sin^2 t}{t}\,dt
=
-2I_{2,1} = -\infty
$

となってやはり収束しない。 つまり、分子に $\cos jx$ が残る場合の積分には注意が必要である。


補題 1

  1. $a>0$, $b>0$ に対し、
      $\displaystyle
\int_0^\infty\frac{\cos ax-\cos bx}{x}\, dx
= \log\frac{b}{a} = \log b-\log a
$ (10)
  2. $a_j>0$ ( $j=1,2,3,\ldots n$), $\displaystyle \sum_{j=1}^n p_j=0$ に対し、
      $\displaystyle
\int_0^\infty\frac{1}{x}\left(\sum_{j=1}^np_j\cos a_jx\right)dx
= -\sum_{j=1}^n p_j\log a_j
$ (11)


証明

1. $M>0$ に対して

$\displaystyle I_M = \int_0^M\frac{\cos ax-\cos bx}{x}\, dx
$

とし、これを $x=0$ で特異性を持たないように変形すると

\begin{eqnarray*}I_M
&=&
\int_0^M\frac{1-\cos bx}{x}\, dx - \int_0^M\frac{1-\c...
...1-\cos x}{x}\, dx
\ =\
\int_{aM}^{bM}\frac{1-\cos x}{x}\, dx
\end{eqnarray*}

となって正の範囲での積分となり、さらに

\begin{eqnarray*}I_M
&=&
\int_{a}^{b}\frac{1-\cos Mx}{x}\, dx
\ =\
\int_{a}...
...{Mx}\right]_a^b
-\,\frac{1}{M}\int_a^b\frac{\sin Mx}{x^2}\, dx
\end{eqnarray*}

となるが、この後ろの 2 項はいずれも $M\rightarrow\infty$$O(1/M)$ なので、 $I_M\rightarrow \log(b/a)$ となる。

2. $\displaystyle \sum_{j=1}^n p_j=0$ より $\displaystyle p_n=-\sum_{j=1}^{n-1}p_j$ なので、

$\displaystyle \sum_{j=1}^n p_j\cos a_j x
=
\sum_{j=1}^{n-1} p_j\cos a_j x
- ...
...}^{n-1} p_j\right)\cos a_n x
= \sum_{j=1}^{n-1} p_j(\cos a_j x - \cos a_n x)
$

となるから、1. により、

\begin{eqnarray*}\lefteqn{\int_0^\infty\frac{1}{x}\left(\sum_{j=1}^np_j\cos a_jx...
...\sum_{j=1}^{n-1}p_j\log a_j
\ =\
- \sum_{j=1}^{n}p_j\log a_j
\end{eqnarray*}

が得られる。


この補題により、$\cos jx$ が残る場合は、 その係数の和が 0 であれば計算できることになる。

以上により、$I_{n,m}$ は、$n+m$ が偶数の場合は $\pi/2$ の有理数倍、 $n+m$ が奇数の場合は $\log j$ の有理数倍の和の形となることが 期待される。

竹野茂治@新潟工科大学
2020-12-17