3 3 次方程式の解法

本節では、3 次方程式の一般的な解法 (解の公式) を紹介する。 本稿では、
\begin{displaymath}
x^3+ax+b=0\hspace{1zw}(a,b\in\mathbb{R})\end{displaymath} (8)

の形の 3 次方程式についてのみ説明するが、より一般の
\begin{displaymath}
\alpha x^3+\beta x^2+\gamma x+\delta=0 \hspace{1zw}(\alpha\neq 0)
\end{displaymath}

の形の 3 次方程式を (8) の形に 帰着させるのは難しいことではない (例えば [1] 参照)。 また、係数 $a$, $b$ は本節では実数とするが、 その他の節では原則有理数のみを扱う。

(8) において $x=u+v$ として代入すると、

\begin{displaymath}
u^3+v^3+3uv(u+v) + a(u+v)+b=0\end{displaymath} (9)

が得られる。ここから
\begin{displaymath}
u^3+v^3 = -b,
\hspace{1zw}uv = -\,\frac{a}{3}\end{displaymath} (10)

を満たす $u$, $v$ を求めて $x=u+v$ とする、 というのが一般的な 3 次方程式の解法 (解の公式) である。

なお、(9) から (10) が 成り立たなければいけないわけではないが、 (10) が成り立てば (9) は 当然成り立つ。そして、(10) から 3 つの解はすべて得られる、という仕組みになっている。 また、$x$, $u$, $v$ は一般には複素数である。

(10) より、$u^3$, $v^3$ は、2 次方程式

\begin{displaymath}
\lambda^2+b\lambda-\,\frac{a^3}{27}=0\end{displaymath} (11)

の解となる。この方程式の判別式
\begin{displaymath}
D_1 = b^2+\,\frac{4a^3}{27}\end{displaymath} (12)

の符号により、場合分けして考える。

まずは $D_1>0$ の場合であるが、 この場合 (11) は異なる 2 つの実数解

\begin{displaymath}
\lambda_1 = -\,\frac{b}{2}-\,\frac{\sqrt{D_1}}{2},\
\lambda_2 = -\,\frac{b}{2}+\,\frac{\sqrt{D_1}}{2}\end{displaymath} (13)

を持つ。$u^3=\lambda_1$, $v^3=\lambda_2$ と対応させれば、 $u,v\in\mathbb{C}$ より
\begin{displaymath}
u
=\sqrt[3]{\lambda_1},
\sqrt[3]{\lambda_1}\,\omega,
\sq...
...},
\sqrt[3]{\lambda_2}\,\omega,
\sqrt[3]{\lambda_2}\,\omega^2\end{displaymath} (14)

となる。ここで、$\omega$
\begin{displaymath}
\omega=e^{2\pi i/3} = -\,\frac{1}{2}+\,\frac{\sqrt{3}}{2}\,i
\end{displaymath}

で、
\begin{displaymath}
\omega^2=e^{4\pi i/3} = -\,\frac{1}{2}-\,\frac{\sqrt{3}}{2}...
...1zw}\omega^3=1,
\hspace{1zw}\omega^2+\omega+1=0,
\hspace{1zw}\end{displaymath} (15)

を満たす。 なお、(11) の解と係数の関係より、
\begin{displaymath}
\lambda_1\lambda_2 = -\,\frac{a^3}{27}
\end{displaymath}

なので、 $\lambda_1,\lambda_2\in\mathbb{R}$ より
\begin{displaymath}
\sqrt[3]{\lambda_1\lambda_2} = -\,\frac{a}{3}
\end{displaymath}

となるから、 (14) の $3\times 3$ の 組み合わせのうち、(10) の $uv=-a/3$ を 満たすものは
\begin{displaymath}
(u,v)
= \left(\sqrt[3]{\lambda_1}, \sqrt[3]{\lambda_2}\righ...
...[3]{\lambda_1}\,\omega^2,
\sqrt[3]{\lambda_2}\,\omega\right)
\end{displaymath}

の 3 種類であることがわかる。これにより、 3 次方程式 (8) の解は
\begin{displaymath}
x = u+v = \sqrt[3]{\lambda_1}+\sqrt[3]{\lambda_2},
\hspace...
...5zw}\sqrt[3]{\lambda_1}\,\omega^2 + \sqrt[3]{\lambda_2}\,\omega\end{displaymath} (16)

と表される。最初のものは実数であるが、 $\sqrt[3]{\lambda_1}<\sqrt[3]{\lambda_2}$ より後の 2 つは虚数となる。 よって、$D_1>0$ の場合は、方程式 (8) は 1 つの実数解と 2 つの虚数解を持つことになる。

$\lambda_1$, $\lambda_2$ は (13) のように平方根で表されるので、 一般にはこの解には (1) の形の 2 重根号が 含まれることになる ( $a,b\in\mathbb{Q}$, $\sqrt{D_1}\not\in\mathbb{Q}$ の 場合)。

次は $D_1=0$ の場合であるが、この場合は

\begin{displaymath}
\lambda_1 = \lambda_2 = -\,\frac{b}{2}
\end{displaymath}

となり、また (15) より $\omega+\omega^2=-1$ なので、 解は
\begin{displaymath}
x
= 2\sqrt[3]{\lambda_1}, -\sqrt[3]{\lambda_1}
= -2\sqrt[3]{\frac{b}{2}}, \hspace{0.5zw}\sqrt[3]{\frac{b}{2}}
\end{displaymath}

の 2 つであることがわかる (後者は重解)。 この場合は解には 2 重根号は現れない。

最後は $D_1<0$ の場合であるが、この場合 $\lambda_1$, $\lambda_2$

\begin{displaymath}
\lambda_1 = -\,\frac{b}{2}-\,\frac{\sqrt{-D_1}}{2}\,i,\
\lambda_2 = -\,\frac{b}{2}+\,\frac{\sqrt{-D_1}}{2}\,i\end{displaymath} (17)

の虚数となる。つまり $u$, $v$ は「虚数の 3 乗根」となるが、 それを認めれば、形式的に (16) と同じ式が 解となる。以下でこの虚数の 3 乗根について少し説明し、 その式の意味をもう少し明らかにする。

虚数 $z=a+bi$ ( $a,b\in\mathbb{R}$, $b\neq 0$) に対して、 $p^3=z$ となる複素数 $p$$z$ の 3 乗根と呼ぶが、 その実部と虚部を $a$, $b$ で表すのは難しい。 $z$ を極座標表示して $z=re^{i\theta}$ ($r\geq 0$) とすると、 $p^3=z$ となる $p$

\begin{displaymath}
p
=\sqrt[3]{r}\,e^{i\theta/3},
\sqrt[3]{r}\,e^{i(\theta+2\p...
...3]{r}\,e^{i\theta/3}\omega,
\sqrt[3]{r}\,e^{i\theta/3}\omega^2
\end{displaymath}

と表される。これが $z$ の 3 乗根であり、複素数では 3 つあることになる。

今、(17) の $\lambda_1$ $\lambda_1 = Re^{i\phi}$ ($R\geq 0$) と極座標表示すると、 (12) より

\begin{displaymath}
R = \sqrt{\frac{b^2}{4}+\,\frac{-D_1}{4}}
= \sqrt{-\,\frac{a^3}{27}}\end{displaymath} (18)

となる。また、 $\lambda_2$$\lambda_1$ の共役であるから $\lambda_2=Re^{-i\phi}$ となり、よって $u$, $v$ はそれぞれ
\begin{displaymath}
\begin{array}{ll}
u
& = \displaystyle \sqrt[3]{R}\,e^{i\ph...
...-i\phi/3}\omega,
\sqrt[3]{R}\,e^{-i\phi/3}\omega^2
\end{array}\end{displaymath}

となる。この中で (10) の $uv=-a/3$ となるのは、 (18) より $\sqrt[3]{R}=\sqrt{-a/3}$ なので、
\begin{eqnarray*}(u,v)
&=&
\left(\sqrt[3]{R}\,e^{i\phi/3},\ \sqrt[3]{R}\,e^{-...
...-i\phi/3}\,\omega^2,
\ \sqrt[3]{R}\,e^{-i\phi/3}\,\omega\right)\end{eqnarray*}


の 3 種類となる。これらはいずれも $v=\bar{u}$ となっているので、結局
\begin{displaymath}
x = u+v = 2\sqrt[3]{R}\,\cos\frac{\phi}{3},
\hspace{0.5zw}...
...+2\pi}{3},
\hspace{0.5zw}2\sqrt[3]{R}\,\cos\frac{\phi+4\pi}{3}\end{displaymath} (19)

のように表されることになる。 よって、この $D_1<0$ の場合は 3 つの実数解が得られる。

なお、この 3 つの実数解 (19) については、 最初から方程式を $\cos$ の 3 倍角の公式と比較して 解を三角関数 (と逆三角関数) で表現する方法もあるが ([1] 参照)、それは結果的に (19) と ほぼ同等である。

本稿で必要となる、「実数の範囲での 3 乗根と平方根の 2 重根号」 が現れるのは、結局 $D_1>0$ の場合の唯一の実数解となる。

竹野茂治@新潟工科大学
2018-03-02