4 積分値

さて、$I_1$ の値であるが、$f_0$, $f_1$ ともに留数を利用しても 積分値は求まらず、別な方法が必要になる。

数学辞典[1]を見ると、付録 (公式 9 V) に

  $\displaystyle
I_1 = \int_0^1 f_0(x)dx = \frac{\pi^2}{4}$ (10)
が書かれている。また、数表[2] (2.6.5 p491) には、
  $\displaystyle
J_\mu^n = \int_0^1\frac{x^{\mu/2-1}}{1-x^\mu}\left(\log x\right)^n dx
\hspace{1zw}(\mu>0,\ n=1,2,3,\ldots)$ (11)
の値が記されていて、$n$ が奇数の場合はこれが Bernoulli 数で表されている。 $J_2^1$$f_1(x)$ の積分になっていて $I_1=-2J_2^1$ なので、 $I_1$ より一般の $J_\mu^n$ が分かれば $I_1$ の値もわかることになる。 本節ではこの $J_\mu^n$ の値を考える。

この値を求めるために、非負の関数に対する無限和と積分の 順序交換の定理を用いる。


定理 1

実数上の任意の区間 $K$ と、$K$ 上の非負の関数列 $\{g_n(x)\}_n$ に 対し、

  $\displaystyle
\int_K\sum_{n=1}^\infty g_n(x)dx = \sum_{k=1}^\infty \int_K g_n(x)dx
$ (12)
が成り立つ。


この定理は、Lebesgue 単調収束定理から直ちに従う。

さて $J_\mu^n$ の値を計算する。まず、$x^{\mu/2}=t$ と置換すると、

$\displaystyle \frac{\mu}{2}\,x^{\mu/2-1}dx = dt,
\hspace{1zw}\log x = \frac{2}{\mu}\log t
$
より $J_\mu^n$
  $\displaystyle
J_\mu^n
= \int_0^1\frac{1}{1-t^2}\,\frac{2}{\mu}
\left(\frac{2}{\mu}\log t\right)^n dt
= (-1)^n\left(\frac{2}{\mu}\right)^{n+1} L_n$ (13)
と書ける。ここで、$L_n$
$\displaystyle L_n = \int_0^1\frac{1}{1-t^2}\left(-\log t\right)^n dt
$
とした。この $L_n$ には $\mu$ は含まれず、そして $I_1=2L_1$ となる。

$0<t<1$ では、

$\displaystyle \frac{1}{1-t^2}\left(-\log t\right)^n
=\sum_{k=0}^\infty t^{2k}\left(-\log t\right)^n
$
と展開でき、この和の項の個々の積分に対して $-\log t= s$ とすると、 $t=e^{-s}$, $dt = -e^{-s}ds$ より、
$\displaystyle \int_0^1 t^{2k}\left(-\log t\right)^n dt
= \int_0^\infty e^{-(2k+1)s} s^n ds
= \frac{1}{(2k+1)^{n+1}}\int_0^\infty e^{-y} y^n dy
$
となるが、良く知られているように、 この最後の積分は $\mathit{\Gamma}$ 関数で書け、
$\displaystyle \int_0^\infty e^{-y} y^n dy
= \mathit{\Gamma}(n+1) = n!
$
となるから、定理 1 より $L_n$
$\displaystyle L_n
= \int_0^1\sum_{k=0}^\infty t^{2k}\left(-\log t\right)^n dt...
...1 t^{2k}\left(-\log t\right)^n dt
= \sum_{k=0}^\infty \frac{n!}{(2k+1)^{n+1}}
$
となることがわかる。
$\displaystyle \frac{L_n}{n!}
= \sum_{k=0}^\infty \frac{1}{(2k+1)^{n+1}}
= \sum_{k=1}^\infty \frac{1}{(2k-1)^{n+1}}
$
は、いわゆる Riemann の zeta 関数
$\displaystyle \zeta(p) = \sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n^p}
$
で表すことができる。
$\displaystyle \zeta(n+1)
= \sum_{k=1}^\infty \frac{1}{k^{n+1}}
= \sum_{k=1}^...
...^\infty \frac{1}{(2k)^{n+1}}
= \frac{L_n}{n!} + \frac{1}{2^{n+1}}\,\zeta(n+1)
$
より、
$\displaystyle \frac{L_n}{n!} = \frac{2^{n+1}-1}{2^{n+1}}\,\zeta(n+1)
$
となるから、結局 (13) より
  $\displaystyle
J_\mu^n
= (-1)^n\left(\frac{2}{\mu}\right)^{n+1} n!\,
\frac{...
...}-1}{2^{n+1}}\,\zeta(n+1)
= (-1)^n n!\,\frac{2^{n+1}-1}{\mu^{n+1}}\,\zeta(n+1)$ (14)
と表されることになる。

$I_1=-2J_2^1=2L_2$ に関しては、 良く知られているように $\zeta(2)=\pi^2/6$ なので、よって $I_1$

$\displaystyle I_1
= -2J_2^1
= 2\,\frac{3}{4}\,\zeta(2)
= \frac{3}{2}\,\frac{\pi^2}{6}
= \frac{\pi^2}{4}
$
となってこれで (10) が得られることになる。 そして元の $I_0$ $I_0=2I_1=\pi^2/2$ となる。

竹野茂治@新潟工科大学
2022-11-14