1 はじめに

先日、ふとインターネット上で、「$\tan x$ はフーリエ級数に展開可能?」 という質問を見つけた (http://okwave.jp/qa/q1251359.html、 2005 年 3 月 5 日の書き込み)。 以下に全文を引用する (数式は LATEX 用に一部編集):
$L^2$ に属する関数は $L^2$ ノルムの近似の意味でフーリエ級数展開ができるが、 $L^2$ に属さない関数はフーリエ級数展開してはいけないということでは ないと思います。 実際、クーロンポテンシャルの様に $L^2$ に属さない関数のフーリエ変換が 必要になることはしばしばあります。区間 $[-\pi/2, \pi/2]$ で 形式的にフーリエ展開すると
\begin{displaymath}
\tan x \sim 2(\sin 2x - \sin 4x + \sin 6x - \sin 8x +\cdots)
\end{displaymath} (1)

になると思います。 右辺の関数のグラフを描いてみると振動が大きいが 平均すれば $\tan x$ に近いようにも見えます。 したがって $\tan x$$L^2$ の意味ではフーリエ展開できないが、 振動を平均化する操作を行えばフーリエ展開可能とも考えられます。 $\tan x$ は何らかの意味でフーリエ級数に展開可能と 考えることはできるのでしょうか。
これに対して、「超関数 (distribution) の空間ならうまくいくのでは」という 回答がついていた。

超関数 (distribution) の理論は、 現在数学科で偏微分方程式を学ぶ大学院生はほぼ必須の学問なので、 これに答えられる人は少なくないと思うが、 実は最近ちゃんとした超関数の和書を手に入れにくく、 例えば「超関数のフーリエ級数」といった話を調べることは あまり容易ではないように思う。

もちろん、洋書か、大学の数学科の図書室にはちゃんとした超関数の 本があり、それで普通は足りているのであろうが、 せっかくなので、少しこの問題を題材として、 超関数のフーリエ級数の理論について紹介しておこうと思う。

なお、本稿では、超関数の基本 ($\mathcal{D}$, $\mathcal{S}$, $\mathcal{D}'$, $\mathcal{S}'$ 等) や フーリエ級数の基本的な性質については既知のこととして話を進める。 超関数については、例えば比較的新しい和書である [1] や [2] 等を、フーリエ級数については たくさんあるフーリエ級数の入門書のいずれかを参照のこと。

竹野茂治@新潟工科大学
2015年6月1日