3 解答

まず、超関数と $C^\infty$ 関数の積に対して、積の微分が成り立つかどうかを見ておく。 $(\alpha T)'$ $\alpha'T+\alpha T'$ を比較すると、
\begin{eqnarray*}\langle(\alpha T)',\phi\rangle
&=&
-\langle\alpha T,\phi'\ran...
...pha'\phi+\alpha\phi'\rangle
\ =\
-\langle T,\alpha\phi'\rangle\end{eqnarray*}
となって、確かに両者は等しい。つまり $\alpha T$ に対する積の微分は成立する。

次に、(7) であるが、これも

$\displaystyle \langle\alpha\delta,\phi\rangle
=\langle\delta,\alpha\phi\rangle
...
...pha(0)\delta,\phi\rangle
=\langle\delta,\alpha(0)\phi\rangle
=\alpha(0)\phi(0)
$
となって両者は確かに等しい。

となれば、(8) と (9) で 矛盾が起きているように思うかもしれないが、そこに一つ見落しやすい誤解がある。 それは、(7) とは違い、$\delta'(x)$ に対しては

$\displaystyle \alpha(x)\delta'(x) \neq \alpha(0)\delta'(x)
$
であることである。$\delta'(x)$$x=0$ でしか値を持たないものなので、 なんとなく $\alpha(x)\delta'(x)=\alpha(0)\delta'(x)$ は 正しく感じるかもしれないが、実際には、
\begin{eqnarray*}\langle\alpha\delta',\phi\rangle
&=&
\langle\delta',\alpha\ph...
...'(0)\langle\delta,\phi\rangle+\alpha(0)\langle\delta',\phi\rangle\end{eqnarray*}
なので、実は $\alpha(x)\delta'(x)$
  $\displaystyle
\alpha(x)\delta'(x) = \alpha(0)\delta'(x)-\alpha'(0)\delta(x)$ (10)
となるのである。

実際、これを (8) の 2 つ目の式に代入すれば、 (9) が得られるので何も矛盾は起こらない。

竹野茂治@新潟工科大学
2022-01-27