2 方向微分係数

2 変数関数 $z=f(x,y)$ に対する $x$ 方向の偏微分係数 $f_x(a,b)=(\partial f/\partial x)(a,b)$ の値は、 $(x,y)=(a,b)$ における $x$ 方向の $f$ の変化率、 $x$ 方向の接線の傾きを示す。 それは、$f_x(a,b)$ の定義が、
  $\displaystyle
f_x(a,b) = \lim_{\Delta x\rightarrow 0}\frac{f(a+\Delta x,b)-f(a,b)}{\Delta x}$ (1)
だからであり、$(a,b)$ から $(a+\Delta x,b)$ への $x$ 方向の変化を見ているからである。

同様に、$y$ 方向の偏微分係数 $f_y(a,b)$ は、その定義

  $\displaystyle
f_y(a,b) = \lim_{\Delta y\rightarrow 0}\frac{f(a,b+\Delta y)-f(a,b)}{\Delta y}$ (2)
より、$(x,y)=(a,b)$ における $y$ 方向の $f$ の変化率、 $y$ 方向の接線の傾きを示す。

これらに対し、一般の方向の変化率、一般の方向の接線の傾きを示すのが 「方向微分係数」である。 今、 $\overrightarrow{u}=(u_1,u_2)$ を単位ベクトル (長さ 1 のベクトル) とする。 平面ベクトルの場合、単位ベクトルは、 角 $\theta$ ( $0\leq\theta < 2\pi$) を用いて

  $\displaystyle
\overrightarrow{u}=(\cos\theta,\sin\theta)$ (3)
と表すこともでき、$\theta$ は、 $\overrightarrow{u}$ の方位を示す。 この $\overrightarrow{u}$ 方向の $f$ の変化率を考える。

$(a,b)$ から $\overrightarrow{u}$ 方向に長さ $\Delta t$ だけ離れた点は、 $\vert\overrightarrow{u}\vert=1$ より、

$\displaystyle (a,b)+\overrightarrow{u}\Delta t
=(a+u_1\Delta t,b+u_2\Delta t)
=(a+(\Delta t)\cos\theta, b+(\Delta t)\sin\theta)
$
と書くことができる。よって、
  $\displaystyle
\frac{\Delta f}{\Delta t}
=\frac{f(a+u_1\Delta t,b+u_2\Delta t) - f(a,b)}{\Delta t}$ (4)
$\overrightarrow{u}$ 方向の平均変化率を表し、 $\overrightarrow{u}$ 方向 (角 $\theta$ 方向) の $(a,b)$ での方向微分係数は、
  $\displaystyle
\frac{\partial f}{\partial u}(a,b)
=\lim_{\Delta t\rightarrow 0...
...{\Delta t\rightarrow 0}\frac{f(a+u_1\Delta t,b+u_2\Delta t) - f(a,b)}{\Delta t}$ (5)
と定義される。

今、合成関数 $g(t)$

  $\displaystyle
g(t) = f(a+u_1t, b+u_2 t)$ (6)
と定めると、(5) は、
  $\displaystyle
\lim_{\Delta t\rightarrow 0}\frac{f(a+u_1\Delta t,b+u_2\Delta t)...
...elta t}
=\lim_{\Delta t\rightarrow 0}\frac{g(\Delta t)-g(0)}{\Delta t}
=g'(0)$ (7)
となる。一方、(6) の導関数は、 偏微分に関する合成関数の微分法により、
$\displaystyle g'(t)
=\frac{\partial f}{\partial x}\,\frac{dx}{dt}
+\frac{\partial f}{\partial y}\,\frac{dy}{dt}
=f_x(a+u_1t,b+u_2t)u_1+f_y(a+u_1t,b+u_2t)u_2
$
となるので、$t=0$ とすれば
  $\displaystyle
g'(0) = f_x(a,b)u_1+f_y(a,b) u_2$ (8)
となる。ここで、 $\nabla f=\nabla f(x,y)$ (成分が関数のベクトル) を、
  $\displaystyle
\nabla f(x,y) = (f_x(x,y),f_y(x,y))$ (9)
と定めると、(8) は $\nabla f(a,b)$ $\overrightarrow{u}$ との 内積となる。 よって (3), (5), (7), (8) より、次のことがわかる。


命題 1

$\displaystyle \frac{\partial f}{\partial u}(a,b)
= \nabla f(a,b)\mathop{・}\overrightarrow{u}
= f_x(a,b)\cos\theta+f_y(a,b)\sin\theta
$
このように、一般の方向の傾きである 方向微分係数は、$x$,$y$ 方向の傾き $f_x(a,b)$, $f_y(a,b)$ を用いて 表されることになるが、それは接平面が $f_x(a,b)$, $f_y(a,b)$ のみ で決定することにも対応する。

竹野茂治@新潟工科大学
2023-04-24