2 定義

双曲線関数とは、次のように定義されるものである。
\begin{displaymath}
\sinh x = \frac{e^x-e^{-x}}{2},\hspace{1zw}
\cosh x = \frac{e^x+e^{-x}}{2}\end{displaymath} (1)

$\sinh$ は「ハイパボリックサイン」、 $\cosh$ は「ハイパボリックコサイン」と読む 4 文字の関数名である。 ハイパボリック (hyperbolic) とは、 「ハイパーボラ (hyperbola) $=$ 双曲線」という言葉の形容詞形で、 「双曲的な」という言葉を指している。 そのため、双曲線関数と呼ばれるのであるが、 この「双曲的」という言葉がなぜついているのかについては、 3 節で紹介する。

$\cosh x$

\begin{displaymath}
\cosh(-x) = \frac{e^{-x}+e^x}{2} = \cosh x\end{displaymath} (2)

より偶関数、$\sinh x$ は、
\begin{displaymath}
\sinh(-x) = \frac{e^{-x}-e^x}{2} = -\frac{e^{x}-e^{-x}}{2} = -\sinh x\end{displaymath} (3)

より奇関数である。

$y=\cosh x$, $y=\sinh x$ のグラフは、 $y=e^x$, $y=e^{-x}$ のグラフから容易にわかるが、 図 1 のようになる。

図 1: $y=\cosh x$, $y=\sinh x$ のグラフ
\includegraphics[height=6cm]{graph1c}

$\sin x$, $\cos x$ 以外の三角関数が、

\begin{displaymath}
\tan x=\frac{\sin x}{\cos x},\hspace{1zw}
\cot x=\frac{\cos ...
...c{1}{\cos x},\hspace{1zw}
\mathop{\rm cosec}x=\frac{1}{\sin x}
\end{displaymath}

と定義されるのと同様に、$\sinh x$, $\cosh x$ 以外の双曲線関数は、
\begin{displaymath}
\begin{array}{llll}
\tanh x & = \displaystyle \frac{\sinh ...
...laystyle \frac{1}{\sinh x}
= \frac{2}{e^x-e^{-x}}
\end{array}\end{displaymath} (4)

と定義される。 $\cosh x$, $\sinh x$ 以外でよく用いられるのは $\tanh x$ 程度であり、 $\tanh x$, $\coth x$ のグラフは図 2 のようになる。
図 2: $y=\tanh x$, $y=\coth x$ のグラフ
\includegraphics[height=6cm]{graph2c}

なお、$\tan$ (タンジェント)、$\cot$ (コタンジェント) は、 特に東欧では tg, ctg のように書かれることも多い。 その流儀では、$\sinh$, $\cosh$, $\tanh$, $\coth$ なども、 sh, ch, th, cth のように書かれるようである (例えば [2] 参照)。

次の式は、双曲線関数の最も基本的な性質である。

\begin{displaymath}
\cosh^2 x-\sinh^2 x = 1,\hspace{1zw}
1-\tanh^2 x = \frac{1}{\cosh^2 x}\end{displaymath} (5)

なお三角関数と同様に、自然数 $n$ に対し、
\begin{displaymath}
\cosh^n x = (\cosh x)^n,\hspace{1zw}
\sinh^n x = (\sinh x)^n,\hspace{1zw}
\tanh^n x = (\tanh x)^n
\end{displaymath}

のように書くことになっている。

(5) の最初の式は、 定義の式 (1) を代入して展開すれば容易に得られるし、 2 本目の式は最初の式の両辺を $\cosh^2 x$ で割れば得られる。

この性質 (5) は、三角関数の性質

\begin{displaymath}
\cos^2 x+\sin^2 x = 1,\hspace{1zw}
1+\tan^2 x = \frac{1}{\cos^2 x}
\end{displaymath}

に対応している。

竹野茂治@新潟工科大学
2010年3月19日