2 ラフな証明

まず、この教科書[1] の合成関数の微分の公式 2.6 の、 ラフな証明を紹介する。 教科書ではこの公式の証明は付録に書かれていて、 ここで紹介する「ラフ」な証明とは、実はその証明の前半部分の (i) のことである。 後半の (ii) まで含めて厳密な証明となるが、雰囲気は (i) で十分わかると思う。 ただし、[1] の (i) の説明は、多少省略されて書かれていて ややわかりにくそうなので、それを少し丁寧に紹介する。

合成関数 $y=h(x) = f(g(x))$ に対して、$y=f(u)$, $u=g(x)$ と 分けたときに、証明すべき公式 2.6 は

  $\displaystyle
y' = h'(x) = f'(u)g'(x) = f'(g(x))g'(x)$ (1)
である。これは、通常
  $\displaystyle
\frac{dy}{dx} = \frac{dy}{du}\times \frac{du}{dx}$ (2)
の形でも書かれる。 $dy/du$$y$$u$ の関数として微分したもの、すなわち $f'(u)$ であり、 $du/dx$$u$$x$ の関数として微分したもの、すなわち $g'(x)$$dy/dx$$y$$x$ の関数として微分したもの、すなわち $h'(x)$ と なるので、(1) と (2) は同じことを 意味することになる。

(2) のように書くのは、 これが分数の約分のように見えて覚えやすい形であるから、という理由もあるが、 $dy/dx$ という記号は、少なくとも現代では「$y$$x$ で微分したもの」を 意味する記号であり、「$dy$$dx$ で割った商」ではなく、 「$\Delta y$$\Delta x$ で割った商の極限 (0/0 の不定形の極限)」と 考えるので、直接その約分により (2) が証明される わけではない。

導関数は、極限によって、

  $\displaystyle
y' = h'(x)
= \lim_{\Delta x\rightarrow 0}\frac{\Delta y}{\Delta x}
= \lim_{\Delta x\rightarrow 0}\frac{h(x+\Delta x)-h(x)}{\Delta x}$ (3)
と定義される。 ここで、$\Delta y$ は、$x$$\Delta x$ だけ増やしたときの $y$ の 増加量 (「増分」) を意味し、式で書けば
$\displaystyle \Delta y = h(x+\Delta x)-h(x)
$
である。 この、$x$$\Delta x$ の変化に対する $u$ の増分 $\Delta u$
$\displaystyle \Delta u = g(x+\Delta x)-g(x)
$
であり、これにより
$\displaystyle g(x+\Delta x) = g(x) + \Delta u = u + \Delta u
$
と書けるので、$y$ の増分 $\Delta y$ は、
$\displaystyle \Delta y
= h(x+\Delta x)-h(x)
= f(g(x+\Delta x)) - f(g(x))
= f(u+\Delta u) - f(u)
$
とも書けることになり、よって $\Delta y$ は、$u$ の変化量 $\Delta u$ に 対する $y$ の増分と見ることもできる。これにより、
$\displaystyle \frac{\Delta y}{\Delta x}$ $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{f(u+\Delta u) - f(u)}{\Delta x}
\ =\
\frac{f(u+\Delta u) - f(u)}{\Delta u}\times\frac{\Delta u}{\Delta x}$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{f(u+\Delta u) - f(u)}{\Delta u}\times\frac{g(x+\Delta x)-g(x)}{\Delta x}$ (4)
となる。 $\Delta x\rightarrow 0$ の際に、 当然 $\Delta u = g(x+\Delta x)-g(x)\rightarrow 0$ となるので、 よって (4) でその極限を考えれば
$\displaystyle \lim_{\Delta x\rightarrow 0}\frac{\Delta y}{\Delta x}
=
\lim_{\De...
...s
\lim_{\Delta x\rightarrow 0}\frac{g(x+\Delta x)-g(x)}{\Delta x}
= f'(u)g'(x)
$
となり、これと (3) を合わせれば (1) が 示されたことになる。

なお、(4) は、意味はわかりにくくなるが、 簡単に

$\displaystyle \frac{\Delta y}{\Delta x}
=
\frac{\Delta y}{\Delta u}
\times\frac{\Delta u}{\Delta x}
$
と書くこともできる。 こう書くと、これはほぼ (2) と同形で、 よって (2) は「分数の約分」ではないのだが、 その証明自体は極限を取る前の「分数の約分」の形で行われていることになり、 結局 (2) はある意味で「分数の約分」を意味することになる。

竹野茂治@新潟工科大学
2021-11-08