2 微分方程式による考察

この節では、まず問題を定式化し、 運動方程式を微分方程式で考える方法を紹介する。

物体がその上を滑る斜面のグラフを $y=f(x)$ と考え、 物体は右側に向かって移動すると考える。

図 1: $y=f(x)$ の図
\includegraphics[width=0.5\textwidth]{fx.eps}
重力は下向きに考えるので、曲線には多少の起伏はあってもよいが、 おおむね右に下がっているものと考える。

物体の質量を $m$、 物体の位置ベクトルを $\mbox{\boldmath$r$}=(x(t),y(t))$ ($t$ は時刻) とし、 空気抵抗や物体と斜面との摩擦は考えないとすれば、 この物体に対する運動方程式は次の式で与えられる。

\begin{displaymath}
m\ddot{\mbox{\boldmath$r$}}=\mbox{\boldmath$N$}-mg\mbox{\boldmath$e$}_y\end{displaymath} (1)

ここで、 $\mbox{\boldmath$N$}$ は物体が斜面から受ける垂直抗力 (斜面に垂直上向き)、 $g$ は重力加速度、 $\mbox{\boldmath$e$}_y=(0,1)$ であり、 $t$ での微分を $\dot{\mbox{ }}$ で、 また $f(x)$$x$ での微分は $f'(x)$ のように $\mbox{ }'$ で表すことにする。 $\dot{\mbox{\boldmath$r$}}=d\mbox{\boldmath$r$}/dt$ は物体の速度ベクトル、 $\ddot{\mbox{\boldmath$r$}}=d^2\mbox{\boldmath$r$}/dt^2$ は物体の加速度ベクトルである。

$\mbox{\boldmath$r$}=(x(t),y(t))$$y=f(x)$ 上を動くので、

\begin{displaymath}
y(t)=f(x(t))\end{displaymath} (2)

を満たしている。

この曲線上の点 $(x,f(x))$ での接線方向のベクトルは $\mbox{\boldmath$a$}=(1,f'(x))$ であり、これに垂直な上向きのベクトルは $\mbox{\boldmath$b$}=(-f'(x),1)$ となるので、 $\mbox{\boldmath$N$}$ $\mbox{\boldmath$b$}$ と同じ向きである。 よって、垂直抗力の大きさを $N=\vert\mbox{\boldmath$N$}\vert$ とすれば、

\begin{displaymath}
\mbox{\boldmath$N$}=N\frac{\mbox{\boldmath$b$}}{\vert\mbox{\boldmath$b$}\vert}=N\frac{(-f',1)}{\sqrt{1+(f')^2}}\end{displaymath} (3)

と書けることになる。これにより、(1) は成分で書くことができ、
$\displaystyle m\ddot{x}$ $\textstyle =$ $\displaystyle -N\frac{f'}{\sqrt{1+(f')^2}},$ (4)
$\displaystyle m\ddot{y}$ $\textstyle =$ $\displaystyle N\frac{1}{\sqrt{1+(f')^2}}-mg$ (5)

となる。

(2) を用いると、$\ddot{y}$$x$ で表すことができる。 (2) に合成関数の微分、積の微分を適用すれば、

$\displaystyle \dot{y}$ $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{dy}{dt}
=\frac{d}{dt}f(x(t))
=\frac{df(x)}{dx} \frac{dx}{dt}
=f'(x)\dot{x}(t),$ (6)
$\displaystyle \ddot{y}$ $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{d}{dt}(f'(x)\dot{x}(t))
=\left(\frac{d}{dt}f'(x(t))\right)\dot{x}(t)
+f'(x)\frac{d}{dt}\dot{x}(t)$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{df'(x)}{dx} \frac{dx}{dt}\dot{x}(t)+f'(x)\ddot{x}(t)
=f''(x)(\dot{x}(t))^2+f'(x)\ddot{x}(t)$ (7)

となる。よって、(5) は
\begin{displaymath}
f''(\dot{x})^2+f'\ddot{x}=\frac{N}{m\sqrt{1+(f')^2}}-g\end{displaymath} (8)

と書けることになる。ここで、(4) より、
\begin{displaymath}
f'\ddot{x}-\frac{N}{m\sqrt{1+(f')^2}}
=-\frac{N(f')^2}{m\sqr...
...')^2}}-\frac{N}{m\sqrt{1+(f')^2}}
=-\frac{N}{m}\sqrt{1+(f')^2}
\end{displaymath}

となるので、(8) は、
\begin{displaymath}
f''(\dot{x})^2=\frac{N}{m}\sqrt{1+(f')^2}-g\end{displaymath} (9)

と書くこともできる。 この (4), (9) が物体の運動方程式であり、 この 2 本から $N$ を消去すれば $x$ の単独の微分方程式を導くこともできる。

速度ベクトルを $\mbox{\boldmath$v$}=\dot{\mbox{\boldmath$r$}}$ と書くことにすれば、 (6) より

\begin{displaymath}
\mbox{\boldmath$v$}=\dot{\mbox{\boldmath$r$}}=(\dot{x},\dot{y})=(\dot{x},f'\dot{x})=(1,f')\dot{x}
\end{displaymath}

となるので、速さ $v=\vert\mbox{\boldmath$v$}\vert$ は、
\begin{displaymath}
v^2=(1+(f')^2)(\dot{x})^2\end{displaymath} (10)

と表されることになる。

さて、物体が斜面から離れる瞬間は垂直抗力 $N$ が 0 となるときであり、 逆に $N>0$ のときは物体は斜面を押していて その反作用として $N$ が正の値になっていて、斜面からは離れないことになる。 つまり斜面から物体が離れない条件は、(9) より

\begin{displaymath}
f''(\dot{x})^2+g>0\end{displaymath} (11)

と書くことができる。(10) より、これは
\begin{displaymath}
\frac{f''}{1+(f')^2}v^2+g>0\end{displaymath} (12)

と書くこともでき、 これが斜面から物体が離れないための速度と斜面の条件式であり、 この不等号が等号になるときに離れることになる。

これは、$f''\geq 0$、すなわち斜面が下に凸なら無条件であり、 逆に離れるには $f''<0$、すなわち斜面が上に凸で、 かつ $v$ がある程度大きくないと起こらない。 $v$$f$ だけでは決まらず、$t=0$ での初期値によって変化しうるので、 (12) を $f$ だけの式として表すことはできない1

なお、$N=0$ は (4) から $\ddot{x}=0$ も導くが、 これは $x$ が等速に変化する状態であることを意味していて、 物体が斜面から離れれば物体には下向きの重力しかかからず、 $\ddot{x}=0$ はそれを示していて、 斜面から離れるための斜面の形状等に関する条件には寄与しない。 よって (12) が求める条件 (離れないための条件) となる。

竹野茂治@新潟工科大学
2009年2月27日