1 はじめに

例年線形代数の講義で教えているが、 一般の逆行列を与える式は教科書 [1] 定理 19.1 に書いてあるように、
\begin{displaymath}
A^{-1}=\frac{1}{\vert A\vert}\tilde{A},
\hspace{1zw}\tilde{A}={}^t\!\left[(-1)^{i+j}\Delta_{ij}\right]\end{displaymath} (1)

で与えられる。この $\tilde{A}$余因子行列と呼ばれる。

ところで、この定理を使って 3 次の行列の逆行列を計算すると、 2 次の小行列式 $\Delta_{ij}$ 9 つと、 3 次の行列式 $\vert A\vert$ 1 つを計算して求めることになるが、 2 次の小行列式 9 つを求める手順がやや煩雑であると感じる。 また、その結果があっているかどうかのチェックとして、 最後に余因子行列 $\tilde{A}$$A$ との積が

\begin{displaymath}
\tilde{A}A = \vert A\vert E\end{displaymath} (2)

となることの計算がよく行われるが、 その計算は 3 つずつの 3 次元ベクトルの内積の計算をやっていることと同じであり、 しかもそれらの大半は 0、 すなわちそのいくつかのベクトルが垂直であることを意味している。

実はそれを考察すると、 3 次元の余因子行列は 3 つのベクトルの外積で表わされることがわかるのであるが、 本稿ではそれについて簡単に紹介する。

竹野茂治@新潟工科大学
2010年7月9日