3 3 次の場合

次は、$n=3$ の 3 次の正方行列について考える。 実はこの場合は $A$, $B$ が可換でも、$B$$A$ の 2 次式で 書けるとは限らない。すなわち容易に反例が作れる。 $C$, $D$
$\displaystyle C = \left[\begin{array}{ccc}0&1&0\\ 0&0&0\\ 0&0&0\end{array}\righ...
...space{1zw}
D = \left[\begin{array}{ccc}0&0&0\\ 0&0&0\\ 0&1&0\end{array}\right]
$
とすると、容易にわかるがこれは可換で、$CD=DC=O$ となる。 これも実は反例の一つなのであるが、さらに
$\displaystyle A = E+aC = \left[\begin{array}{ccc}1&a&0\\ 0&1&0\\ 0&0&1\end{arra...
...ce{1zw}
B=bD = \left[\begin{array}{ccc}0&0&0\\ 0&0&0\\ 0&b&0\end{array}\right]
$
とすると、
\begin{eqnarray*}AB &=& (E+aC)bD \ =\ bD + O \ =\ B,\\
BA &=& bD(E+aC) \ =\ bD + O \ =\ B\end{eqnarray*}
となって $AB=BA$ となる。

しかし、$A$ (および $C$) は上三角行列なので、$A$ (および $C$) の 多項式も (さらに言えば $A$ の負のべきも) すべて上三角行列となる。 一方 $B$ (および $D$) は下三角行列なので、 $A$ (および $C$) の多項式で表わされることはない。

$n\geq 4$ の場合も、容易に $n=3$ の場合と同じ形の反例が作れるので、 結局 $n\geq 3$ では $A$, $B$ が可換であっても $B$$A$ の 多項式で表されるとは限らないことになり、 可換ならば $B$$A$ の多項式で表されるのは $n=2$ の場合のみ、 ということになる。

竹野茂治@新潟工科大学
2022-05-09