1 はじめに

$n$ 次正方行列 $A,B$ に対し、一般には $AB=BA$ とはならず、 逆に $AB=BA$ が成り立つとき $A$$B$ は可換であるという。

$A^k$$A$ とは、 $AA^k=A^kA=A^{k+1}$ より $A$$A^k$ は可換で あるから、一般に多項式 $\displaystyle f(x)=\sum_{k=0}^m a_kx^k$ に 対して $\displaystyle B=f(A)=\sum_{k=0}^m a_kA^k$$A$ は可換になる。

本稿では、この逆が成り立つか、すなわち $B$$A$ と可換ならば、 なんらかの多項式 $f(x)$ によって $B=f(A)$ の形に書けるだろうか、 について考えてみる。

なお、$A=kE$ ($k$ はスカラー、$E$ は単位行列) や $A=O$ (零行列) の 場合は任意の $B$$A$ と可換になってしまうので、 本稿では $A$ はそのどちらの形でもないと仮定する。

また、ケーリー・ハミルトンの定理により、$A^n$$A$$(n-1)$ 次 以下の多項式で表せるので、$f(x)$$(n-1)$ 次以下 ($m<n$) の 多項式と考えてよいことに注意する。

竹野茂治@新潟工科大学
2022-05-09