2 不定形の場合のマクローリン展開

まず、関数
$\displaystyle f_1(x) = \frac{x}{1-e^{-x}}\hspace{1zw}(x\neq 0)
$
について考える。 これは、$x=0$ では分母は 0 になってしまうが、分子もそこで 0 なので、 $x=0$ では 0/0 の不定形になっていて、 $x=0$ への極限値は 1 となることが容易にわかる。 関数論の言葉を使えば、この $x=0$$f_1(x)$ の 除去可能特異点になっていて、よって、
$\displaystyle f_1(x) =
\left\{\begin{array}{ll}
\displaystyle \frac{x}{1-e^{-x}} & (x\neq 0)\ [1zh]
1 & (x=0)\end{array}\right.$
と定義すれば、$f_1(x)$ は滑らかな関数、特に解析関数になり、 当然マクローリン展開も可能である。 そのマクローリン展開の方法を紹介する。

一般に、$f(x),g(x)$$x=a$ でのテイラー展開が、

\begin{eqnarray*}f(x) & = & a_k(x-a)^k + a_{k+1}(x-a)^{k+1}+\cdots\\
g(x) & = & b_k(x-a)^k + b_{k+1}(x-a)^{k+1}+\cdots,\hspace{1zw}(b_k\neq 0)\end{eqnarray*}
のように $k$ 位 ($k\geq 1$) の零点を持つ場合、 商 $f(x)/g(x)$ は 0/0 となるが、$(x-a)^k$ で約分ができるため $x=a$ での 極限は存在し、$x=a$ はこの商の除去可能特異点となる。よってこの商を
\begin{eqnarray*}\frac{f(x)}{g(x)}
&=&
\frac{a_k(x-a)^k + a_{k+1}(x-a)^{k+1}+\...
...^2+\cdots}%
{1 + (b_{k+1}/b_k)(x-a)+(b_{k+2}/b_k)(x-a)^2+\cdots}\end{eqnarray*}
と変形し、
$\displaystyle h_1(x)$ $\textstyle =$ $\displaystyle a_k + a_{k+1}(x-a)+a_{k+2}(x-a)^2+\cdots
 =\
\frac{f(x)}{(x-a)^k}$ (1)
$\displaystyle h_2(x)$ $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{b_{k+1}}{b_k}(x-a)+\frac{b_{k+2}}{b_k}(x-a)^2+\cdots
 =\
\frac{g(x)}{b_k(x-a)^k}  - 1$ (2)
とすれば、$h_2(x)=O(x-a)$ であるから、分母は
  $\displaystyle
\frac{f(x)}{g(x)}
= \frac{1}{b_k}\times\frac{h_1(x)}{1+h_2(x)}
= \frac{h_1(x)}{b_k}\times(1-h_2(x)+h_2^2(x)+\cdots)$ (3)
のように展開ができることになる。 この式に、(1), (2) を代入して形式的に展開すれば、 $f(x)/g(x)$$x=a$ でのテイラー展開が得られることになる。 例えば、3 次以上の項を $\delta_3$ と書くことにして 2 次の項まで 計算すれば、
\begin{eqnarray*}\frac{f(x)}{g(x)}
&=&
\frac{1}{b_k}(a_k+a_{k+1}(x-a)+a_{k+2}(...
...+2})a_k-b_kb_{k+1}a_{k+1}+b_k^2a_{k+2}}%
{b_k^3}(x-a)^2+\delta_3\end{eqnarray*}
のようになる。

これと同じようにすれば、$f_1(x)$ のマクローリン展開も得られ、

\begin{eqnarray*}e^{-x} &=& 1-\frac{x}{1!}+\frac{x^2}{2!}-\frac{x^3}{3!}+O(x^4),...
...(x^3)\right)^2
\\ &=&
1 + \frac{x}{2} + \frac{x^2}{12} + O(x^3)\end{eqnarray*}
のようになる。

つまり、0/0 の場合は、テイラー展開レベルで約分をし、 それから商のテイラー展開の手法を利用すればいいわけである。

なお、元の質問者は、

$\displaystyle \frac{1}{1-e^{-x}}
=
1+e^{-x}+(e^{-x})^2+\cdots
$
のように展開しようとしていたようだがこれは無理で、 $x=0$ の近くでは $e^{-x}$ は 0 に近くない (1 に近い) ため このような展開はできない。
$\displaystyle \frac{1}{1-y}=1+y+y^2+\cdots
$
が利用できるのは、あくまで $y$ が 0 に近い場合 (正確には $\vert y\vert<1$ の 場合) だけである。 このように、合成関数の形でテイラー展開を行う場合には、 そういう点に注意する必要がある。

竹野茂治@新潟工科大学
2022-09-14