4 Tartar 方程式の解法

Tartar 方程式 (1) から $\nu$ を決定する議論は, 前半部分と後半部分に分かれていて, その前半部分は,
$\nu_{(t,x)}$ の台, すなわち $\nu_{(t,x)}$ が 0 でない集合の閉包 ( $\subset\Sigma(w_0,z_0)$) を含む, 最小の三角領域を $\Sigma(w_1,z_1)$ とすると, その台は点 $(w_1,z_1)$ を含む.
であるが, ここは標準的な方法でよいので本稿では省略する. なお, その部分は, DiPerna[3] の漸近エントロピー対を 使用する方法よりも, Lions-Perthame-Souganidis[4] による 核エントロピー対を利用する方法の方がスマートである. 詳しくは参考文献[9] を参照.

また, 本節では断わらない限り $(t,x)$ は固定して考えるので, $\nu_{(t,x)}$$\nu$ とも略記する ($(w_1,z_1)$$(t,x)$ 毎に 決まる値). そして $\nu$ での積分において, 本節では被積分関数は, $\rho$, $u$ ではなく $w$, $z$ を変数とする関数と見て考える.

本稿では, 後半部分, すなわち $\nu$ の台が $(w_1,z_1)$ のみである, ということを示す部分についての改良を行う. この後半部分では, 3 節で紹介した Darboux エントロピー対, 核エントロピー対から, (1) の左辺に表われる以下のような $B=\eta\tilde{q}-\tilde{\eta}q$ の式を主に考える.

$\displaystyle
\left\{\begin{array}{lll}
B_{0,1}
&= \eta^{(0)}q^{(1)}-\eta^{...
...nq_n
&= \eta_n\widehat{\sigma}_n-\widehat{\eta}_n\sigma_n.
\end{array}\right.$ (23)
また, $B^{(j)}_{n}$ ($j=0,1$) の $(\eta_n,q_n)$ $(\widehat{\eta}_n,\widehat{q}_n)$ に変えたものを $\widehat{B}^{(j)}_{n}$ とする.

DiPerna[3], Ding-Chen-Luo[2] は, $\psi_0$, $\widehat{\psi}_0$$C^\infty_0$ から取り, 強い制限を与えることで, $\langle\eta_n\rangle $, $\langle q_n\rangle $, $\langle B^{(1)}_n\rangle $ が有界で, $\langle B^{(0)}_n\rangle \rightarrow 0$ を示すことで $\langle B_n\rangle \rightarrow 0$ を示すのであるが, むしろ次の関係式を用いることでその議論を易しくし, $\psi_0$, $\widehat{\psi}_0$ の制限を緩くすることができる.

補題 1
弱エントロピー対 $(\eta_i,q_i)$ ($1\leq i\leq 4$) に対して $B_{i,j}=\eta_i q_j-\eta_j q_i$ とすると,
$\displaystyle
\langle B_{1,2}\rangle \langle B_{3,4}\rangle -\langle B_{1,3}\r...
... \langle B_{2,4}\rangle
+\langle B_{1,4}\rangle \langle B_{2,3}\rangle = 0.
$ (24)


補題 1 の証明 Tartar 方程式 (1) より

$\displaystyle \langle B_{i,j}\rangle =\langle\eta_i\rangle \langle q_j\rangle -\langle\eta_j\rangle \langle q_i\rangle
$
となるから, これをそれぞれに代入して展開すれば得られる. なお, これは 4 次の行列式
$\displaystyle \left\vert\begin{array}{cccc}
\langle\eta_1\rangle & \langle q_1...
...rangle & \langle\eta_4\rangle & \langle q_4\rangle \end{array}\right\vert
=0
$
の, 2 次の小行列式による Laplace 展開と同等である.


この補題 1 と (23) により,

$\displaystyle
\langle B_{0,1}\rangle \langle B_n\rangle
-\langle B^{(0)}_n\r...
...1)}_n\rangle
+\langle\widehat{B}^{(0)}_n\rangle \langle B^{(1)}_n\rangle
=0$ (25)
が得られるが, 本稿では Tartar の方程式 (1) を 直接使うのではなく, 表面上は $\eta$, $q$ に現れない $B$ だけの 関係式 (25) を用いて, さらに $a$ による積分を用いることで, DiPerna[3], Ding-Chen-Luo[2] の行う長い評価の議論を 簡略化する. なお, $a$ による積分の利用は, Lions-Perthame-Souganidis[4] も 用いている手法である.

命題 2
$h(a)=\langle B_{0,1}\rangle $ とすると, $h(a)$ は, $z_1<a<w_1$ では正で, その外では 0 の連続関数.


命題 2 の証明 (13), (15) より,

\begin{eqnarray*}B_{0,1}
&=&
\eta^{(0)}\sigma^{(1)} -\eta^{(1)}\sigma^{(0)}
\...
...\eta^{(0)}\eta^{(1)}
\\ &=&
\theta(\eta^{(0)})^2
\ \geq\
0
\end{eqnarray*}
なので $h(a)=\theta\langle(\eta^{(0)})^2\rangle \geq 0$ となる.

また, $\eta^{(0)}=(w-a)^m(a-z)^mX_0(w,z;a)$ は, $z>a$ または $w<a$ では 0 であり, $\nu$ の台は $\Sigma(w_1,z_1)$ に含まれるので, $a<z_1$$a>w_1$ ならば $B_{0,1}$ の台と$\nu$ の台は 交わらないので $h(a)=\langle B_{0,1}\rangle =0$ となる.

そして, $\nu$ の台は点 $(w_1,z_1)$ を含み, $z_1<a<w_1$ の場合は $(w_1,z_1)$ では $\eta^{(0)}>0$ なので $h(a)>0$ となる こともわかる.

最後に $h(a)$ の連続性であるが, $B_{0,1}=\theta(\eta^{(0)})^2$$z_1<a<w_1$ で有界で $a$ に関して連続なので, Lebesgue 収束定理により $h(a)$ の 連続性も成り立つ.


竹野茂治@新潟工科大学
2023-02-18