1 はじめに

本稿では, 等エントロピー流方程式に対する補償コンパクト性理論における, いわゆる Tartar 方程式
$\displaystyle
\langle\nu,\eta\tilde{q}-\tilde{\eta}q\rangle
=\langle\nu,\eta...
...ngle\nu,\tilde{q}\rangle
-\langle\nu,\tilde{\eta}\rangle \langle\nu,q\rangle $ (1)
を解いて
$\displaystyle
\nu=\nu_{(t,x)}(U) = \delta_{\bar{U}(t,x)}(U)$ (2)
と決定する DiPerna ら[3,2] による証明の, 1 つの改良版を提示する.

元の方程式は, 1 次元の等エントロピー流を記述する保存則形の 偏微分方程式

$\displaystyle
\left\{\begin{array}{l}
\rho_t+(\rho u)_x = 0\\
(\rho u)_t+(\rho u^2+P(\rho))_x = 0
\end{array}\right. \hspace*{2em}(t>0, x\in\mbox{\sl R})$ (3)
で, $\rho=\rho(t,x)\geq 0$ は気体密度, $u=u(t,x)$ は速度, $P=P(\rho)=A\rho^\gamma$ は圧力, $A>0$, $1<\gamma<3$ は定数で, $\gamma$ は断熱指数とも呼ばれる. 前者は質量保存則, 後者は運動量保存則を意味し, よって (3) は「連立保存則方程式」とも呼ばれる.

この方程式の初期値問題の解の存在証明方法として, 補償コンパクト性理論 (compensated compactness theory) という ものがあり, それを用いて, $A\rho^\gamma$ 形の圧力に対しては, 大きさや変動に制限をつけない初期値に対する (3) の 初期値問題の弱解の存在が, まず DiPerna (1983)[3] によって 断熱指数 $\gamma$ $\gamma=(2m+3)/(2m+1)$ ( $m=1,2,3,\ldots$) の 場合に示され, Ding-Chen-Luo (1985,1986)[2] によってそれが 任意の $1<\gamma\leq 5/3$ に拡張され, Lions-Perthame-Tadmor (1994)[5] により $\gamma\geq 3$ の場合, そして Lions-Perthame-Souganidis (1996)[4] により $1<\gamma<3$ の 場合が示され, 等エントロピー流の $P=A\rho^\gamma$ の形に対しては, $\gamma>1$ のすべての $\gamma$ に対して弱解の問題はほぼ解決している.

その後もその理論を適用できる圧力項 $P(\rho)$ を広げる試みが行われて いるが (Chen-LeFloch[1], Makino[7], Lu[6]), それには従来の証明の方針自体の見直しも必要になる. また, DiPerna (1983)[3] の結果に対する拡張である Ding-Chen-Luo[2] の方法は, 長大な計算の連続であるためその読解も難しく, それらの証明の改良, 簡略化も, この分野の発展のためには必要だと思われる.

本稿では, Ding-Chen-Luo[2] らの証明の改良の前段階として, DiPerna[3] の結果, すなわち $\gamma=(2m+3)/(2m+1)$ の場合に 対する証明の, 特に Tartar 方程式の解法部分に関する若干の改良を紹介する.

なお, Ding-Chen-Luo[2] は DiPerna[3] の方法を そのまま実数の $\gamma$ に拡張したものなので, 本稿の手法は Ding-Chen-Luo[2] の方法にも適用が 可能であるが, Lions-Perthame-Tadmor[5], Lions-Perthame-Souganidis[4] の手法は, DiPerna[3] や Ding-Chen-Luo[2] らの Darboux エントロピーではなく, 核エントロピーを用いた方法なので, 本稿の改良はそれらには当てはまらない. むしろ, 逆に本稿の改良は, Lions らの方法[5,4] から ヒントを得ている部分もある.

竹野茂治@新潟工科大学
2023-02-18