8 <Bn> が 0 に収束すること

次は、 $\langle B_n\rangle =\langle \eta_n\hat{q}_n-\hat{\eta}_n q_n\rangle $ の 0 への収束性を示す。 ここでは DiPerna の方法を多少改良した方法を紹介する。

DiPerna ([5]) は、

\begin{eqnarray*}B^{(0)}_n &=& B^{(0)}_n(a) = \eta^{(0)}(a)q_n(a)-\eta_n(a)q^{(0...
...\\
B_n &=& B_n(a) = \eta_n(a)\hat{q}_n(a)-\hat{\eta}_n(a)q_n(a)\end{eqnarray*}


を考え、これらの組み合わせによって
\begin{displaymath}
\lim_{n\rightarrow\infty}\langle B_n\rangle =0\end{displaymath} (43)

を示している。 しかし、[4],[5] では (43) を示すために $\psi_0$, $\hat{\psi}_0$ に強い制限を与えることで
$\langle \eta_n\rangle $, $\langle q_n\rangle $ が有界で、 $\langle B^{(0)}_n\rangle \rightarrow 0$, $\langle B^{(1)}_n\rangle $ が有界
となるようにしている。 しかし、その議論を見直してみると、以下の式を用いれば $\psi_0$, $\hat{\psi}_0$ の制限を多少緩くできることがわかる。


補題 9

$B_{0,1}=B_{0,1}(a)=\eta^{(0)}q^{(1)}-\eta^{(1)}q^{(0)}$ とすると、 次が成り立つ。

\begin{displaymath}
\langle B_n\rangle \langle B_{0,1}\rangle
-\langle B^{(0)...
...
+\langle \hat{B}^{(0)}_n\rangle \langle B^{(1)}_n\rangle =0
\end{displaymath} (44)

なお、 $\hat{B}^{(j)}_n$$B^{(j)}_n$$\eta_n$, $q_n$$\hat{\eta}_n$, $\hat{q}_n$ で置き換えたものを意味する。


証明

一般に、Tartar の関係式を満たすようなエントロピー対 $(\eta_i,q_i)$, $(\eta_j,q_j)$ ( $1\leq i<j\leq 4$) に対して、 $B_{i,j}=\eta_i q_j - \eta_j q_i$ とするとき、

\begin{displaymath}
\langle B_{1,2}\rangle \langle B_{3,4}\rangle
-\langle B_...
...4}\rangle
+\langle B_{1,4}\rangle \langle B_{2,3}\rangle =0
\end{displaymath} (45)

が成り立つことを示せばよい。 (45) は、Tartar の関係式
\begin{displaymath}
\langle B_{i,j}\rangle =\langle \eta_i\rangle \langle q_j\r...
...a_j\rangle \langle q_i\rangle
\hspace{1zw}(1\leq i<j\leq 4)
\end{displaymath}

を直接代入して整理しても得られるが、 4 次の行列式
\begin{displaymath}
\determC{\langle \eta_1\rangle ,\langle \eta_2\rangle ,\lan...
...ngle q_2\rangle ,\langle q_3\rangle ,\langle q_4\rangle }
=0
\end{displaymath}

を、1,2 列目に関して 2 次の小行列式同士の積の形にラプラス展開して、 Tartar の関係式
\begin{displaymath}
\determC{\langle \eta_i\rangle ,\langle \eta_j\rangle :\langle q_i\rangle ,\langle q_j\rangle }=\langle B_{i,j}\rangle
\end{displaymath}

を用いても得られる ((45) を 2 倍した式が得られる)。


[4],[5] でも、 実質的には (44) を用いたような議論はしているのであるが、 直接 (44) を積極的には使っていないために $\psi_0$, $\hat{\psi}_0$ に強い制限が必要になっていて、 特に [4] ではその $\psi_0$ の選択がかなり複雑になっている。 本稿では、(44) を積極的に用いることで、 $\psi_0$, $\hat{\psi}_0$ には強い制限を与えないような議論を行う。

なお、関係式 (45) は [11] p450 にも見られるが、 Lions ら ([6]) はこれを用いてはおらず、 内エントロピー $\eta^{(0)}(a)$ のみを用い、 そのパラメータを変えたエントロピー対に対する 3 次の行列式

\begin{displaymath}
\determC{\langle \eta^{(0)}(a)\rangle ,\langle \eta^{(0)}(b)...
...gle ,\langle q^{(0)}(b)\rangle ,\langle q^{(0)}(c)\rangle }
=0
\end{displaymath}

を 1 列目に関して展開して
\begin{eqnarray*}\lefteqn{\langle \eta^{(0)}(a)\rangle \langle B^{(0)}(b,c)\rang...
...&& (B^{(0)}(a,b)=\eta^{(0)}(a)q^{(0)}(b)-\eta^{(0)}(b)q^{(0)}(a))\end{eqnarray*}


とし、この式をパラメータ $a$, $b$ などについて $\tau+1$ 回微分する、 といった手法を用いている。


補題 10

$h(a)=\langle B_{0,1}(a)\rangle $ とすると、$h(a)$ は有界で、 $a\not\in\mathcal{C}$ に対しては $h(a)=0$ $a\in\mathcal{C}$ に対しては $h(a)>0$ となる。


証明

$B_{0,1}$ は、

\begin{eqnarray*}B_{0,1}
&=&
\eta^{(0)}q^{(1)}-\eta^{(1)}q^{(0)}
 &=&
\et...
...\frac{1}{3}(a+w+z)\eta^{(0)}
 &=&
\frac{1}{3}(\eta^{(0)})^2
\end{eqnarray*}


であるから $\Sigma _1$ 上有界で、(42) より
\begin{displaymath}
\langle \eta^{(0)}\rangle \leq\sqrt{3\langle B_{0,1}\rangle }
\end{displaymath}

となるが、 $a\in\mathcal{C}$ に対して $\langle \eta^{(0)}(a)\rangle >0$ なので
\begin{displaymath}
h(a)=\langle B_{0,1}(a)\rangle \geq\frac{1}{3}\langle \eta^{(0)}(a)\rangle ^2>0
\end{displaymath}

となる。一方、 $a\not\in\mathcal{C}$ に対しては、 命題 81. より $a\leq z_1$ か、$a\geq w_1$ であるが、いずれの場合も
\begin{displaymath}
B_{0,1}
= \frac{1}{3}(\eta^{(0)})^2
= \frac{1}{3}(w-a)^2(a-z)^2X(a)
\end{displaymath}

$(w,z)\in\Sigma_1$ に対して 0 になってしまうので、 $h(a)=\langle B_{0,1}(a)\rangle =0$ となる。


次に、$B^{(0)}_n$, $B^{(1)}_n$ の極限を考える。 それには次の補題を用いる。


補題 11

$\psi_n(s)=\psi_n(s;a)=n\psi_0(n(s-a))$ ( $\psi_0\in C_0^\infty(]0,1[)$)、 および任意の有界な区間 $I=[p,q]$ に対して、次が成り立つ。

  1. $(s-a)^k\psi_n(s)$ ($k\geq 1$) は、$s,a\in I$, $n$ に関して有界で、
    \begin{displaymath}
\lim_{n\rightarrow\infty}(s-a)^k\psi_n(s)=0
\end{displaymath}

  2. $f(s)$$I$ 上連続ならば、
    \begin{displaymath}
I_n=\int_z^w f(s)\psi_n(s) ds
\end{displaymath}

    は、$z,w,a\in I$ ($z\leq w$), $n$ に関して有界で、 以下が成り立つ。
    \begin{displaymath}
\lim_{n\rightarrow\infty}I_n = f(a)c_0 X(a)
\hspace{1zw}\left(c_0=\int_0^1\psi_0\right)
\end{displaymath}


証明

1.
$S_n=n(s-a)$ と書くことにすれば、

\begin{displaymath}
(s-a)^k\psi_n(s)=n(s-a)^k\psi_0(n(s-a))=(s-a)^{k-1}S_n\psi_0(S_n)
\end{displaymath}

であり、 $\psi_0\in C_0^\infty(]0,1[)$ だから $x\psi_0(x)$ は有界で、 $(s-a)^{k-1}$ も有界である。

$n\rightarrow\infty$ のとき、 $s\neq a$ ならば $S_n=n(s-a)\rightarrow\pm\infty$ なので 大きい $n$ に対しては $S_n$$\psi_0$ のサポートを越えてしまうので $S_n\psi_0(S_n)\rightarrow 0$ となる。

$s=a$ ならば $S_n=0$ なので OK.

2.
$W_n=n(w-a)$, $Z_n=n(z-a)$ とすると、

\begin{displaymath}
\int_z^w\vert\psi_n(s)\vert ds
=\int_z^w n\vert\psi_0(n(s-...
..._n}^{W_n}\vert\psi_0(y)\vert dy
\leq \Vert\psi_0\Vert _{L^1}
\end{displaymath}

なので、
\begin{displaymath}
\vert I_n\vert\leq \max\{\vert f(s)\vert; s\in I\}\cdot\Vert\psi_0\Vert _{L^1}
\end{displaymath}

となり $I_n$ は確かに有界となる。$\psi_n(s)$ のサポートは
\begin{displaymath}
\mathop{\mathrm{supp}}\nolimits \psi_n(s)
=\mathop{\mathrm...
...\nolimits \psi_0(n(s-a))
\subset\left[a,a+\frac{1}{n}\right]
\end{displaymath} (46)

なので、$w\leq a$ ならば $I_n=0$ であり、 $a<z$ ならば十分大きい $n$ に対して $a+1/n\leq z$ となり、 そのような $n$ に対しては $I_n=0$ だから $I_n\rightarrow 0$ となる。

$z\leq a<w$ ならば十分大きい $n$ に対し $a+1/n\leq w$ となるから、 そのような $n$ に対して

\begin{eqnarray*}I_n
&=&
\int_a^{a+1/n}f(s)\psi_n(s)ds
=
\int_0^1 f\left(a+\...
...i_0(y)dy
 &\rightarrow &
\int_0^1 f(a)\psi_0(y)dy = f(a)c_0
\end{eqnarray*}


となる。ゆえにこれをまとめて $I_n\rightarrow f(a)c_0X(a)$ となる。


ここまでは $(\eta,q)$, $(\bar{\eta},\bar{q})$ に対して、

\begin{displaymath}
B=\eta\bar{q}-\bar{\eta}q
\end{displaymath}

のようにしてきたが、 $\sigma=q-\lambda_2\eta$ を用いれば
\begin{displaymath}
B
=\eta(\bar{\sigma}+\lambda_2\bar{\eta})-\bar{\eta}(\sigma+\lambda_2\eta)
=\eta\bar{\sigma}-\bar{\eta}\sigma
\end{displaymath}

となるので、この形で考えることにする。 まず $B^{(0)}_n$ は、(17), (21), (23) より
\begin{eqnarray*}B^{(0)}_n
&=&
\eta^{(0)}\sigma_n-\sigma^{(0)}\eta_n
=
\eta^...
...left.
-2\int_z^w\left(s-\frac{w+z+a}{3}\right)\psi_n(s)ds\right]\end{eqnarray*}


となるので、補題 11 より $B^{(0)}_n$ $w,z,a\in[z_1,w_1]$, $n$ に関して有界で、
\begin{eqnarray*}B^{(0)}_n
&\rightarrow &
-2\eta^{(0)}\left(a-\frac{w+z+a}{3}\...
...(0)}(w+z-2a)c_0X(a)
 &=&
\frac{2}{3} c_0\eta^{(0)}\eta^{(1)}\end{eqnarray*}


となる。同様に $B^{(1)}_n$ を考えると、
\begin{eqnarray*}B^{(1)}_n
&=&
\eta^{(1)}\sigma_n-\sigma^{(1)}\eta_n
=
\eta^...
...}\left\{(w-z)(\psi_n(w)+\psi_n(z))
-2\int_z^w\psi_n(s)ds\right\}\end{eqnarray*}


となるが、
\begin{displaymath}
\eta^{(0)}(\psi_n(w)+\psi_n(z))
=\{(w-a)\psi_n(w)(a-z)+(a-z)\psi_n(z)(w-a)\}X(a)
\end{displaymath}

等より、補題 11 から $B^{(1)}_n$ $w,z,a\in[z_1,w_1]$, $n$ に関して有界であることがわかり、 $X(a)^2=X(a)$ なので
\begin{eqnarray*}B^{(1)}_n
&\rightarrow &
-2\eta^{(1)}\left(a-\frac{w+z+a}{3}\...
...0)}c_0X(a)
 &=&
\frac{2}{3} c_0\{\eta^{(0)}+(\eta^{(1)})^2\}\end{eqnarray*}


となる。よって Lebesgue 収束定理により、
\begin{displaymath}
\langle B^{(0)}_n\rangle \rightarrow \frac{2}{3} c_0\langle...
...rrow \frac{2}{3} c_0\langle \eta^{(0)}+(\eta^{(1)})^2\rangle
\end{displaymath}

が言え、同様に
\begin{displaymath}
\langle \hat{B}^{(0)}_n\rangle \rightarrow
\frac{2}{3} \ha...
...angle
\hspace{1zw}\left(\hat{c}_0=\int_0^1\hat{\psi}_0\right)
\end{displaymath}

が言えるから、補題 9 より
\begin{displaymath}
\langle B_n\rangle \langle B_{0,1}\rangle
= h(a)\langle B_n...
...\hat{B}^{(0)}_n\rangle \langle B^{(1)}_n\rangle
\rightarrow 0
\end{displaymath}

となる。よって補題 10 より、 $a\in\mathcal{C}=]z_1,w_1[$ に対しては
\begin{displaymath}
\langle B_n\rangle \rightarrow 0
\end{displaymath}

となることもわかる。


命題 12

$h(a)\langle B_n\rangle $ はすべての $a$ に対して有界で、

\begin{displaymath}
\lim_{n\rightarrow\infty}h(a)\langle B_n\rangle =0
\end{displaymath} (47)

となる。特に $a\in\mathcal{C}=]z_1,w_1[$ に対しては
\begin{displaymath}
\lim_{n\rightarrow\infty}\langle B_n\rangle =0\end{displaymath}

となる。


なお、本稿では [4],[5] とはやや異なり、 $\langle B_n\rangle \rightarrow 0$ よりもむしろ $h(a)\langle B_n\rangle \rightarrow 0$ の方を用いる。

竹野茂治@新潟工科大学
2010年1月6日