7 三角領域の頂点がサポートに含まれること

本節では、$(w_1,z_1)$$\nu$ のサポートに含まれることなどを示す、 Lions らの方法 ([6]) を紹介する。 ここで使用するのは、 任意の $a$ に対するエントロピー対 $(\eta^{(0)}(a),q^{(0)}(a))$ (内エントロピー) である。

以後、 $\mathop{\mathrm{supp}}\nolimits \nu \cap\{(w,z); w>z\}\neq\emptyset$ の場合を考え、

\begin{displaymath}
\Sigma_1=\Sigma(w_1,z_1) (\subset \Sigma(A,B))
\end{displaymath}

を、それを含む最小の三角領域とする ($w_1>z_1$)。
図 4: $\Sigma _1$
\includegraphics[height=0.25\textheight]{figb1.eps}

なお、 $\nu=\nu_{(t,x)}$$(t,x)$ 毎に異なるので、 この $\Sigma _1$、すなわち $(w_1,z_1)$ ももちろん $(t,x)$ 毎に異なり、 $(w_1,z_1)$ は正確には $(t,x)$ の関数 $(w_1(t,x),z_1(t,x))$ である。

もし $\nu$$\delta $ であるとすれば、 $\Sigma _1$ の頂点である $(w_1,z_1)$ のみが $\nu$ のサポートであることが期待されるが、 本節では $\mathop{\mathrm{supp}}\nolimits \nu\ni (w_1,z_1)$ などを示す。

$q^{(0)}(a)=(a+w+z)\eta^{(0)}(a)/3$ であるから、 $(\eta^{(0)}(a),q^{(0)}(a))$, $(\eta^{(0)}(b),q^{(0)}(b))$ に対する Tartar 関係式は、

\begin{eqnarray*}\lefteqn{\langle \eta^{(0)}(a)\rangle \left\langle \frac{1}{3}(...
...t\langle \frac{1}{3}(b-a)\eta^{(0)}(a)\eta^{(0)}(b)\right\rangle \end{eqnarray*}


となり、これを変形して、
$\displaystyle {\langle \eta^{(0)}(a)\rangle \langle (w+z)\eta^{(0)}(b)\rangle
-\langle \eta^{(0)}(b)\rangle \langle (w+z)\eta^{(0)}(a)\rangle }$
  $\textstyle =$ $\displaystyle (b-a)\{\langle \eta^{(0)}(a)\eta^{(0)}(b)\rangle
-\langle \eta^{(0)}(a)\rangle \langle \eta^{(0)}(b)\rangle \}$ (40)

を得る。 今、
\begin{displaymath}
\mathcal{C}=\{a\in R; \langle \eta^{(0)}(a)\rangle >0\}
\end{displaymath}

とすると、$a\leq z_1$ または $a\geq w_1$ ならば $(w,z)\in\Sigma_1$ に対して
\begin{displaymath}
\eta^{(0)}(a)=\eta^{(0)}(w,z;a)\equiv 0
\end{displaymath}

であるから、もちろん $\langle \eta^{(0)}(a)\rangle =0$ となるので、 少なくとも $\mathcal{C}\subset ]z_1,w_1[$ であることが分かる。

$a,b\in\mathcal{C}$ のとき、(40) の両辺を $\langle \eta^{(0)}(a)\rangle \langle \eta^{(0)}(b)\rangle $ で割ると、

\begin{displaymath}
\frac{\langle (w+z)\eta^{(0)}(b)\rangle }{\langle \eta^{(0)...
...e \eta^{(0)}(a)\rangle \langle \eta^{(0)}(b)\rangle }-1\right\}\end{displaymath} (41)

を得る。ここから次が示される。


命題 7

  1. $\mathcal{C}\neq\emptyset$
  2. $a\in\mathcal{C}$ に対し $\zeta(a)=\langle (w+z)\eta^{(0)}(a)\rangle /\langle \eta^{(0)}(a)\rangle $ とすると、 $\zeta(a)$$a$ に関して微分可能で、
    \begin{displaymath}
\zeta'(a)=\frac{\langle \eta^{(0)}(a)^2\rangle }{\langle \eta^{(0)}(a)\rangle ^2}-1
\end{displaymath}

  3. $\mathcal{C}$ の連結成分上 $\zeta(a)$ は非減少


証明

1.
$\Sigma _1$ の最小性により、$\Sigma _1$ の下辺は $\mathop{\mathrm{supp}}\nolimits \nu$ と交わっているはずである。

\begin{displaymath}
\mathop{\mathrm{supp}}\nolimits \nu\cap\{(w,z); z=z_1<w\}\neq\emptyset
\end{displaymath}

そこから 1 点 $(w_2,z_1)$ を取って、 $\varepsilon =(w_2-z_1)/3$ とし、 $\mathcal{A}$ をその点を中心とする正方形の $\varepsilon $ 近傍とする。
図: $\mathcal{A}$
\includegraphics[height=0.25\textheight]{figb2.eps}
\begin{displaymath}
\mathcal{A}=\{(w,z); w_2-\varepsilon \leq w\leq w_2+\varepsilon ,
 z_1-\varepsilon \leq z\leq z_1+\varepsilon \}
\end{displaymath}

このとき $\mathcal{A}\subset\{w>z\}$ であり、かつ $\mathcal{A}$$(w_2,z_1)$ を内部に持つから、$\mathcal{A}$ 上正である関数 $\eta^{(0)}(w_2-2\varepsilon )$ に対しては
\begin{displaymath}
\langle \eta^{(0)}(w_2-2\varepsilon )\rangle >0
\end{displaymath}

でなくてはならない (もし 0 ならば $(w_2,z_1)\not\in\mathop{\mathrm{supp}}\nolimits \nu$)。 よって $\mathcal{C}$ の定義より $w_2-2\varepsilon \in\mathcal{C}$ となるので $\mathcal{C}\neq\emptyset$

2.
$\langle (w+z)\eta^{(0)}(a)\rangle $, $\langle \eta^{(0)}(a)\rangle $, $\langle \eta^{(0)}(a)\eta^{(0)}(b)\rangle $ は、 Lebesgue 有界収束定理により $a$, $b$ に関して連続であることがわかる。 よって $\mathcal{C}$ は開集合であり、 (41) の両辺を $(b-a)$ で割って $b\rightarrow a$ とすれば得られる。

3.
$\nu$ が全測度 1 であることと Schwarz の不等式より、

\begin{displaymath}
\langle \eta^{(0)}(a)\rangle
\leq\langle 1\rangle ^{1/2}\...
...)}(a)^2\rangle ^{1/2}
=\langle \eta^{(0)}(a)^2\rangle ^{1/2}
\end{displaymath} (42)

なので、2. より $\zeta'(a)\geq 0$ となる。


この命題 7 より次が導かれる。


命題 8

  1. $\mathcal{C}=]z_1,w_1[$
  2. $\mathop{\mathrm{supp}}\nolimits \nu\ni (w_1,z_1)$


証明

1.
もし、$\mathcal{C}$ が連結でないとすると、 $z_1<a_0\leq a_1<w_1$, $a_0\not\in\mathcal{C}$ で、

\begin{displaymath}
]a_0-\varepsilon ,a_0[ \cup ]a_1,a_1+\varepsilon [ \subset\mathcal{C}
\end{displaymath}

となるような $a_0$, $a_1$, $\varepsilon >0$ が取れる。
図 6: $a_0$,$a_1$,$a$,$b$
\includegraphics[height=0.25\textheight]{figb3.eps}
このとき、 $\langle \eta^{(0)}(a_0)\rangle =0$ であり、
\begin{displaymath}
a\in ]a_0-\varepsilon ,a_0[,\hspace{1zw}b\in ]a_1,a_1+\varepsilon [
\end{displaymath}

なる任意の $a$, $b$ に対し、 $a,b\in\mathcal{C}$ より $\langle \eta^{(0)}(a)\rangle >0$, $\langle \eta^{(0)}(b)\rangle >0$ となるが
\begin{eqnarray*}\lefteqn{\{(w,z); \eta^{(0)}(a)\eta^{(0)}(b)>0\}}\\
&=&
\{(...
...\}
 &\subset &
\{(w,z); \eta^{(0)}(a_0)>(b-a_0)(a_0-a)>0\}
\end{eqnarray*}


となるので、 $\langle \eta^{(0)}(a_0)\rangle =0$ であれば $\langle \eta^{(0)}(a)\eta^{(0)}(b)\rangle =0$ でなければならないことになる。 よって、(41) より
\begin{displaymath}
\zeta(b)-\zeta(a)=a-b
\end{displaymath}

となるが、これは $b$ を止めて $a$ $]a_0-\varepsilon ,a_0[ (\subset\mathcal{C})$ 上を動かせばそこでは $\zeta$
\begin{displaymath}
\zeta(a)=-a+(\mbox{定数})
\end{displaymath}

の形に書けることを意味し、これは命題 73. に反する。

よって $\mathcal{C}$ は連結であり、 ある $z_2,w_2$ ( $z_1\leq z_2\leq w_2\leq w_1$) によって

\begin{displaymath}
\mathcal{C}=]z_2,w_2[
\end{displaymath}

と書けることになる。

もし、$z_1<z_2$ ならば、 $z_1\leq a\leq z_2$ なるすべての $a$ に対して $\langle \eta^{(0)}(a)\rangle =0$ ということになるが、 命題 71. の証明と同じ論法により、これは

\begin{displaymath}
\mathop{\mathrm{supp}}\nolimits \nu \cap \{(w,z); z_1\leq z< z_2, w>z\}=\emptyset
\end{displaymath}

を意味し、$\Sigma _1$ の最小性に反する。よって $z_2=z_1$ となる。 同様に $w_2=w_1$ も言えるので、 $\mathcal{C}=]z_1,w_1[$ となる。

2.
$(w_1,z_1)\not\in\mathop{\mathrm{supp}}\nolimits \nu$ と仮定すると、 $0<\varepsilon <(w_1-z_1)/2$ である $\varepsilon $ を十分小さくとれば、

\begin{displaymath}
\mathcal{B}=\{(w,z); w_1-\varepsilon \leq w\leq w_1, z_1\leq z\leq z_1+\varepsilon \}
\end{displaymath}

$\mathcal{B}\cap \mathop{\mathrm{supp}}\nolimits \nu=\emptyset$ となるようにできるはずである。
図: $\mathcal{B}$
\includegraphics[height=0.25\textheight]{figb4.eps}
このとき、
\begin{displaymath}
\eta^{(0)}(w_1-\varepsilon )\eta^{(0)}(z_1+\varepsilon )
\end{displaymath}

$\mathcal{B}$ の境界、 および $\Sigma_1\setminus\mathcal{B}$ では 0 なので、
\begin{displaymath}
\langle \eta^{(0)}(w_1-\varepsilon )\eta^{(0)}(z_1+\varepsilon )\rangle =0
\end{displaymath}

でなくてはならず、よって (41) より、
\begin{displaymath}
\zeta(w_1-\varepsilon )-\zeta(z_1+\varepsilon )
= z_1+\varepsilon -(w_1-\varepsilon )
= -(w_1-z_1-2\varepsilon )
< 0
\end{displaymath}

となるから、命題 73. と 命題 81. に矛盾する。 ゆえに $(w_1,z_1)\in\mathop{\mathrm{supp}}\nolimits \nu$ となる。


この命題 7, 8 を示す Lions らの手法は、 内エントロピー $(\eta^{(0)}(a),q^{(0)}(a))$ のパラメータ $a$ を動かしたものだけで済むところがミソであり、 DiPerna の外エントロピーを用いる方法よりシンプルであると思われる。

竹野茂治@新潟工科大学
2010年1月6日